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大好きな恋人に嫌われたい  作者: 海瑠トワ


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第6話 話し合いませんか……?

 前回アルフレッドと過ごした休日から数日。

 今週は騎士団が遠征に行っており、アルフレッドは明日まで帰ってこないと言っていた。


 休日である今日は、エリオットに息抜きにとお茶に誘われており、二人で大通り沿いのカフェに来ている。

 相変わらずいい上司である。


「それで、悩みは解決した?」


 オシャレな緑溢れるカフェのテラスで、向かいに座ったエリオットが切り出した。秋の終わりの空気が穏やかな彼にすごく似合っていると感じる。


「いえ、よく分からなくなりました……」


 結局、面倒くさがっているようにも見えなかったし、酔ってその時のことはあまり覚えてないが、家に来てくれたことは確かだ。


「うーん、そっかー。反応はどんな感じだったの?」


「あー……あまり表情を見てなくて。飲み会の後に家に来てくれたみたいで、朝起きたら隣にいてビックリしました……あはは」


 せっかく相談に乗ってくれているのに、詳しく覚えてないなんて言いづらくて乾いた笑いを零すと、エリオットは首を傾げた。


「それって大事にされてるんじゃない?」


 そうなんだろうか?

 でも、アルフレッドは基本誰にでも優しいと思う。初対面の私にもわざわざ送り迎えを提案してくれたくらいだ。騎士として頼られてしまえば、断ることはできないんじゃないかな。


「でも、都合のいい女を繋ぎ止めるため、とかは無いですかね?」


 可愛いカップの取っ手をキュッと摘むと、エリオットの手が頭に伸びてきて「葉っぱついてるよ」と綺麗な指が落ち葉を拾う。

 そのままポイッと赤く染まった葉を投げ捨てれば、ヒラヒラと舞ってどこかへ飛んでいく。


「そんなこと考える人なの?」


 目の前の真剣な顔に視線を戻して、ふるふると頭を振った。


「いや、それは無いですね……」


 即答してしまえばエリオットは苦笑して「僕はリディアさんを大事にしてるように感じるけど」と言って紅茶を口にした。


 スッキリとしない疑問に私が口を噤んでしまえば、カップを静かに置いたエリオットは続ける。


「僕なら、わざわざ好きでもない女性の送り迎えなんてしないし、いくら我儘を言われても叶えてあげようとか思わないよ。その彼も同じじゃないかな?」


「そう、なんですかね?」


 そうだったら嬉しい、なんて考えて顔に熱が集まるのが分かった。少し火照った頬を押さえると、冷えた手が丁度よく感じる。


「優しい人だとしても、他人の心配までしてられないよ」


 エリオットの言葉に納得する部分はある。


「まぁ、確かにそうですね」


「うん、だからやっぱり話し合ってみた方がいいんじゃないかな?」


 もうそれしかないのかもしれない。

 カップの縁をなぞりながら「そうしてみます」と頷くと、ふと私の頭上に影がさした。


 なんだろうと顔を上げると、険しい顔をして深い青の髪を乱れさせたアルフレッドが私を見下ろしていた。


「あれ?アル……?どうしてここに……遠征じゃ?」


「……ああ、そうだが。順調に進んで帰宅が一日早まったんだ」


 なんだかいつもより声が低くて怒っているような気がする。ちら、とエリオットに目線をやれば、彼は優雅に紅茶を飲み干して「じゃあ、僕はこれで失礼するよ」と立ち上がる。


 慌てて「今日はありがとうございます」と言えば、エリオットは顔だけ振り返ってニコッと笑い、「頑張って」と背を向けた。お会計を済ませる背中を見送って息をつく。


 そうしている間も鋭い視線が刺さっていて、アルフレッドを見ればひんやりとした空気に包まれる。

 とにかく何か言わなければ。


「えっと……遠征お疲れ様です。け、怪我とかは、ないですか?」


 ビクビクとしながら聞けば「ああ」と短く肯定が返ってきてホッと胸を撫で下ろす。怪我がないのなら良かった。


 すると、凍て刺すように私を見下ろしたまま、アルフレッドは私の腕を掴む。いつもより力が強くて思わず身を引いてしまえば、ブルーグレーの瞳が怪しく光って細められる。


「帰るぞ」


「え?ど、どこに、ですか?」


 グイッと腕を荒く引かれて、強ばる声で問いかけると「俺の家だ」と言われて駆け足で背を追った。

 彼の長い足で普通に歩かれると、小柄な私では着いていくので精一杯で、いつも彼が気を使ってくれていたのだと初めて知った。


 無言で腕を引かれ、私は何も言えなくなる。


 小走りで必死に追いかけ、吸い込む冷たい空気に肺が痛くなる。


「ちょ……ちょっと、待って……」

 

 息が上がってしまった私に気付いたアルフレッドは、振り返ると距離を詰めて、私の太腿の裏に腕を回して抱き上げる。


 急な抱っこに驚いて、アルフレッドの首にギュッと掴まってしまえば、支えるように私の背に熱が触れる。


 ふと、周囲の視線が私たちに向いていることに気付いて慌てた。往来でこんな恥ずかしい……!

 呼吸を整えながら下ろしてもらおうと体を離そうとして気付く。私の背中に回った腕が強く抱き寄せており、引き剥がせそうにない。


 どういうこと……?

 彼の離さないという意思を強く感じてドクドクと心臓の音が大きくなる。相変わらず纏っている空気は冷たいし、私を抱き締める腕は怒りを含んでいるように思う。


 私はアルフレッドの腕の中で恐怖で身を縮めていることしか出来ず、不安と焦りでじわじわと視界が滲んだ。


 いつの間にか彼の家の前まで来ており、どうにか冷静に話し合いができないかと抵抗を試みる。


「あ、アルフレッドさん……一回話を……っ!」


「ああ、部屋に着いたら言い訳を聞いてやる」


 冷たい声で言われ、「言い訳……?」と困惑して尋ねると、そのまま何も答えて貰えずガチャ、と玄関のドアをくぐった。


 ドサッとベッドの上に降ろされて、混乱したままジリジリと後退ると、ヘッドボードに背が触れて逃げ道が閉ざされたことを悟った。

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