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手繰り姫の婚約者 虐げられた令嬢は辺境の地で花ひらく  作者: 紗雪ロカ


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24/30

24.反省してるから赦して

 何だか急に恥ずかしくなって目を逸らすと、はぁーっと重たいため息が聞こえてきた。やはり領主ともあろう者がこんな素人の手作り品を贈られても困るのか。不安になりかけたその時、頭を抱えていたユーリは感極まったような声を出した。


「どうしよう、嬉しすぎて心臓が爆発しそうだ」

「えぇっ? そんな、困ります、守るためのお守りで死なないでください」


 真に受け取るリセラに、彼は軽く噴き出して笑う。こちらを向くと手首とブレスレットを差し出し言った。


「ありがとう、着けてくれないか?」


 同じように笑い返したリセラは受け取ったその留め具を外し、彼の手を取ると丁寧に巻き付けていった。1周、2周……ぱちん。その手を持ち上げた手繰り姫は、まるで祈りの形のように自分の額辺りに持ち上げる。


「手繰り人の能力はもう使わないと決めたので、その代わりにユーリ様を守ってくれるよう祈りを込めました。どうかあなたが末永く、息災でいられますように」

「リセが居る限り、俺はどこまでも無敵でいられるさ」


 顔を見合わせて笑う。その時、わずかに手元が白金に光ったのだが二人は気づかなかった。


 ***


 実家に戻されることなく、無事ロウェルに帰り着いたリセラの日々はそれから少々忙しい物になった。あちこちの令嬢から手紙が届き、招かれたり招いたりと交友を深めたのだ。

 特に、あのパーティーの夜に声をかけて貰った公爵令嬢とは懇意になり、すっかり気に入られていた。何度か彼女主催のお茶会に参加していたのだが――、



「……」


 どうしてミーツェがここに。

 公爵邸のガゼボで待ち構える人物を見たリセラは自分の目が信じられなかった。


「おねえさまぁ、久しぶりね。やっと会えたわ!」


 周りの令嬢たちの引いたような視線をものともせず、ミーツェスカはこちらに向けて大きく手を振っている。隣にいた公爵令嬢ホストがすまなそうな声で耳打ちをしてきた。


「ごめんなさい、ミーツェスカさんがどうしてもと言って聞かなくて……今日になって押し掛けてきたのよ」


 格上の公爵家に対して何ということを、リセラは申し訳なさでひたすら謝罪するしかなかった。


 今日は何度目かになるお茶会の日で、リセラは公爵領まで招かれアンナと共に馬車で来ていた。


「どうしても仲直りしたくって、でもおねえさまってば手紙を全然返してくれないじゃない? だからこうして来ちゃったの!」


 なのにこれである。お茶会中も空気を読まず馴れ馴れしくあちこちに話しかけるミーツェに、名だたる令嬢たちは辟易した様子で苦笑いを浮かべていた。


「あのねミーツェ、呼ばれても居ないのに押し掛けるのは」

「えぇ~どうして?? おねえさまが呼ばれてるのに、ミーツェは来ちゃいけないの?」

「……」


 堪れなくなったリセラは縮こまることしかできない。そんな様子を見ていた公爵令嬢はやや顔を引きつらせながらパンと手を打った。


「雨も降りそうですし、少し早いですが今日はお開きにしましょうか。交流会はまた今度という事で……」



 なんだかドッと気疲れしたリセラは、重たい足取りでアンナの馬車の元へ戻ろうとした。だが背後から声をかけられる。


「おねえさま! まって、もう少し話しましょ?」


 振り向かなくても分かる、ミーツェだ。駆け寄ってきた彼女はこちらの手をギュッと掴むと、親し気に胸元で握りしめた。


「ねぇ、この前の『誓約祭』ではごめんなさい、まさかあんなことになるとは思わなかったの。あたしたちも反省してるっていうか――」


 グイグイと来る視線から逃れるように顔を背け、リセラはさりげなく手を振り払った。そちらを見ないようにして固い声でこう返す。


「ごめんなさい、もう関わらない方がお互いのためだと思うわ。それじゃ」

「待って!」


 逃げようとしたところで引き留められる。仕方なしに振り向けば、ミーツェはそれまでとは違う真剣な顔をしていた。

 しばらくためらったように俯いていた彼女は、覚悟を決めたように視線を上げる。その目には涙が浮かんでいた。


「あのね、聞いて。家がもうダメかもしれないの……」

「ディリング家が?」


 確かに、先ほどから気になってはいたのだ。ミーツェはこれまでからは考えられないほど質素なドレスを着ていたし、何より自慢だった艶のある茶色い巻き毛をバッサリと肩口で切ってしまっている。視線に気づいたのか、悲しそうに髪に手を添えた妹は打ち明けた。


「ええそうよ、髪の毛は売ってしまったの。お父様をお医者様に見せるため少しでもお金が必要だったから……」


 まさかそこまでとは思わず、リセラは息を呑む。医者だなんて、父はどこか悪いのだろうか?


「おねえさまが出て行ってからと言うもの、ディリング家は没落の一途を辿る一方だわ。最初は些細な変化だったけど、やる事成すこと全て裏目に出て今では破産寸前なの。お母さまもすっかり寝込んでしまわれた……。この前、あなたに反抗されたことがよほど堪えたみたい」


 何と返すか迷っている内に、ミーツェは指を組んで懇願する。涙を散らしながら真剣な顔でこう言った。


「許して貰えるとは思ってない……だけど、お医者様の話ではお父さまはもう長くないって話なの……。だからお願い、死ぬ前にせめて一目会ってくれないかしら?」

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