表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
手繰り姫の婚約者 虐げられた令嬢は辺境の地で花ひらく  作者: 紗雪ロカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/30

20.祈りを編み込む

「ありがとう。じゃあえっと……あのね、私、ユーリ様からいつも贈り物を頂いてばかりじゃない?」


 ここで「ははぁ」とピンと来たアンナは、ニコニコしながら聞いてみる。


「なるほど、だからこちらからも何かお返しができないかと?」

「そうなの。でも私が贈れるような物はすでに持ってるだろうし、どうしようかしらって」


 これはいい。俄然楽しくなってきたアンナは手際よく髪の毛を編み込みながらいくつか案を上げてみる。


「でしたら、姫様お手製の品物を差し上げてはいかがでしょう? 例えばお菓子! いいですねぇ、書類仕事で疲れた頭にきっと染みることでしょう。あるいはアクセサリー、想いを込めた手作り品でしたら、遠征で遠く離れていてもお傍に置いて貰えます」

「アクセサリー……」


 好感触。にま、と楽しそうに笑ったアンナは櫛を振りながら提案した。


「糸を編み込んで作るブレスレットでしたらお教えできますよ。わたくしの居た村では自分の髪の毛を一緒に編み込んでお守り(アミュレット)にして大切な人に渡すんです」

「アミュレット……素敵ね。じゃあ時間のある時に教えて貰ってもいいかしら?」

「喜んで!」



 その日からリセラはアンナに教わりながらコツコツと作り始めた。自分の髪を少し切り、白と金ベースの糸の中に織り交ぜていく。


(手繰りの能力はもう使わないからこれを代わりに。どうか、ユーリ様が危険な目に遭いませんように……)


 ***


 そんな穏やかな日々が続いていたある日、ロウェル領に一通の手紙が届いた。執務室にて文面を確認したユーリは、口の端を吊り上げた。


「王城でパーティーがあるらしい。冬に入る前の盛大な催しになるそうだ」


 それを封筒ごと手渡されたアッシュが内容を精査しながら尋ねる。


「例年の王室主催の物ですね。今回もいつものように欠席の返事を?」

「いや、出る」


 予想外の言葉に、同じ部屋にいたリセラとアンナが驚いて顔を上げる。社交界に一度も顔を出したことの無いユーリがどういった風の吹き回しだろうか。そんな視線を向けると、領主はやけに瞳を輝かせながらこう言った。


「これまでは上っ面の付き合いがダルくてふけていたが目的ができた。俺の天使を自慢しに行くぞ!」


 ビシッと指さされ、リセラは「ふぇっ!?」と、間の抜けた声を出してしまう。だが、躊躇したのは自分だけのようだ。アンナはいい笑顔でパンと手を合わせた。


「良いですね! もうリセラ様はどこに出しても恥ずかしくないご令嬢です。今こそご実家の奴らに目に物見せてやりましょう」

「あぁ、最高の見立てを頼むぞアンナ。ドレスの試着は片手じゃ足りないな」

「首都ではキルトブランドの新作が出たそうですよ。早馬を出して下見をさせましょうか」

「あ、あ、アッシュさん……」


 暴走する二人を止めてと青ざめながら振り返ると、眼鏡をクイッと直した彼はハァとため息をついた。


「やれやれ、二人とも何を言っているんですか……。片っ端からドレスを試着する? とてもではないですが賛同できませんね」

「アッシュさん!」


 さすが家令、頼りになる。そんな思いで拳を握りしめたリセラの向かいで、立ち上がったアッシュはバーンと手を広げて宣言した。


「リセラ様のドレスはフルオーダーメイドに決まっているでしょう。首都からテーラーを呼び立て一から仕立てて貰います。その為の予算はもちろん組みます」

「アッシュさん!?」


 こちら陣営だと思っていた家令がすさまじい勢いですっ飛んでいき、リセラはガクリと脱力する。そんな主人の肩を叩き、アンナは軽やかに笑った。


「それだけみんな、リセラ様のことを大切に思ってるって事ですよ」


 ほら、と顔を上げさせられた先を見れば、こちらを見ていたユーリと目が合う。無垢な少年のようにニカッと笑った彼は、髪留めの誓いを思い出させた。


「俺の隣に立つのにふさわしい令嬢になってくれるんだろう?」


 クスッと笑ったリセラは背筋を伸ばして胸に手を当てた。しっかりとした声で宣言する。


「わかりました。謹んでお供させて頂きます」


 ***


 王城で開かれている催し物の中でも、冬の始まりに開かれる『誓約祭』は建国祝いも兼ねていて盛大な物になる。各地の貴族たちがこぞって集まり、改めて王に忠誠を誓うのだ。


 会場はいくつかに分けられ、正門に一番近い手前の宮殿には若者たちが集まっていた。この会場の責任者は王太子であり、次世代を担う令息・令嬢たちはここで同世代たちと親交を深めるのである。


「ねぇ、聞いた? 今年はあの辺境伯が出席するんですってよ」

「本当? わたし一度見てみたかったの。ケダモノのような大男というのは本当かしら」

「まぁ、そんなことを言っては失礼よ。魔の森からわたくしたちを守ってくださってるんですから。せめて人並みの扱いをしなきゃ」


 そしてどうやら、今年の一番の注目株はロウェルの若き領主のようだった。今まで一度も社交の場に顔を出したことの無いユーリアルジュ・フォン・ロウェルは、なんと婚約者を引き連れて来ると言う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ