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手繰り姫の婚約者 虐げられた令嬢は辺境の地で花ひらく  作者: 紗雪ロカ


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14/30

14.ならよかった

 そうであれば本当に嬉しい。花開くようにほほ笑んだリセラに、ユーリはとても柔らかい表情を返した。安らぎに満ちた声でこう言う。


「余裕そうに見せてるだけで、素の俺はクソガキだぞ? でもそうか、そうだよな」


 前を向いた彼は、丘の上に立つ城を見やる。まるで偉大な父の背中をそこに見出すかのように。


「今は俺の尊敬する父上の背を追うだけでいいんだ……間違いのない、何よりの手本なのは俺が一番に知っていたことじゃないか……」


 自分に聞かせるように呟いた若き領主は、こちらにふり返ると笑う。


「思い出させてくれてありがとな、リセ」

「えへへ……」


 辺りは少しずつ陽が傾き始めていた。そろそろ戻らなければアンナがやきもきし始める頃だろう。


 ところが、城への角を曲がろうとしたところで事件は起きた。


「きゃっ……!?」


 いきなり後ろから走って来た何かにぶつかられ転びそうになったのだ。とっさにユーリが支えてくれたのだが、礼よりも先にリセラは悲鳴を上げていた。


「あ……待って! 返して!」


 今の一瞬で、手にした紙袋をひったくられていた。犯人は小さな影で路地裏に逃げ込もうとする。

 慌てて追いかけようとしたリセラはグッとその場にとどめられた。驚いて見上げるとそこにあったはずのユーリの横顔が一瞬にして消えさらに驚く。鋭い目つきで踏み込んだ彼は瞬間的に犯人の横に回り込むと相手を地面に取り押さえていた。


「悪いな少年、さすがにそれは渡せない」

「ヒッ……領主様!?」

「ユーリ様!」


 追いついたリセラは取り返してくれた紙袋を抱きしめホッと安堵のため息をつく。よく見れば少年はまだ10歳程度の幼さでひどく青ざめた顔をしていた。辺りは騒ぎになり、しばらくすると人垣を割ってガタイのよい男性が飛び出してくる。


「お前! なんてことをしたんだ!」

「うぅ、親方さん……ごめんなさい、ごめんなさいぃ……っ!」


 ボロボロと涙をこぼす少年の頭を地面に押し付け、親方と呼ばれた男性は地面に這いつくばり共に頭を下げた。


「申し訳ありませんでしたユーリ様! この不始末は私も責任を取りますゆえ……っ!!」

「……リセラ、怪我はないか?」


 厳しい顔つきのままユーリに尋ねられ、リセラは弾かれたように背筋を伸ばした。


「えっ、はい! 私はぜんぜん! ……えっと」


 ここでスッと膝を折ったリセラは、地面に押し付けられている少年に向かって手を差し伸べた。


「あの、立って下さい。何かワケがあるなら聞かせてくれませんか?」


 親方は帽子を取ってつるりとした頭部を晒し、しゃくり上げる少年とリセラを交互に見て、おずおずと切り出した。


「お、お許し下さるんで……?」

「いえ、話を聞かないことには何とも」

「……確かにそうですね」


 実は、と説明しかけた親方だったが、見て貰う方が早いかと思い直したようにつぶやいた。二人はすぐ近くの少年の家に案内される。


「ぐすっ……うぅ」

「この子は母親を早くに亡くし、ウチの採掘ギルドに所属する父親と二人暮らしなのですが、二月ほど前に起きた落盤事故にその父親が巻き込まれたのです」


 質素なアパートの一室を開けると、ベッドの枕を背もたれにして座る痩せこけた茶髪の男性が見えた。目は虚ろで、領主が入ってきたと言うのに視線を上げようともしない。


「……」

「このように、埋められた時のショックで精神を病んでしまったようなんです。もっと良い医者に見せるために、この子はあのような行動に出てしまったのではないかと……」

「ごめんなさ……ごめんなさい……っ!」


 親方も含め、二人の面倒は近所の者が交代で見てくれていたそうなのだが、少年本人はそんな状況が居たたまれず焦りを感じてしまったらしい。


 そんな内情を聞いたリセラは、婚約者へ振り向くと毅然とした態度でこう尋ねた。


「ユーリ様、この地で貴族に危害を加えた者への罰則はどうなっていますか?」


 親方と少年の肩が怖れでビクッと跳ねる。その問いにユーリは少し目を見開き、どこか気まずそうに視線を逸らして頭を掻いた。


「あー……国の基礎ルール以上は特に上乗せはして無い。代々のロウェル家が武闘派すぎて、簡単にやられる方が悪いって考えで」

「ならよかった、私が許すので不問ですね」


 嬉しそうにパンと手を合わせたリセラを前に、彼は複雑そうな顔をした。察知できなかった俺にも責任が……いや、殺気があれば絶対に気づけた、今からでもリセに関してだけ法を改めるか……? などとブツブツ呟く領主をよそに、リセラはベッド脇に座る少年の側と目を合わせるため少し屈む。流れる白銀の髪を抑えながら優しく尋ねた。


「お父さんを助けたい?」


 少年は問いかけを理解すると同時に顔をくしゃりと歪ませる。


「うん、うんっ、なんでもする、だからお願い、父ちゃんを助けてよぉ……!」


 わっと泣き出した少年の頭に手をやり、リセラは彼の父親を金色の瞳で見据えた。横たわる体から立ち上るオーラは弱々しく、今にも切れてしまいそうに見える。


「……」

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