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手繰り姫の婚約者 虐げられた令嬢は辺境の地で花ひらく  作者: 紗雪ロカ


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13/30

13.その色の意味は

 興味を惹かれてそちらに寄ると、宝石を縫い付けたグローブや髪留めが並んでいるのが見えた。店主はニッコリほほ笑み説明してくれる。


「はい。そちらは私の孫娘がデザインした装飾品になります。布と組み合わせた物が多いですね。まだ駆け出しで経験は浅いですが品質は保証しますよ」

「あ……」


 その中の一つに目を留めたリセラはそこから目が離せなくなる。

 菱形にカットした青のサファイアを銀の留め金に置いた髪飾りなのだが、青と白のリボンで可愛らしく装飾されている。レースのあしらいや、さりげなく散りばめられたパールや刺繍など、控えめながらも確かな存在感がある逸品だ。


「これか?」


 見惚れているのに気づいたのだろう、ユーリがひょいと取り上げ店主の方を見やる。「どうぞご試着下さい」と、言われるとこちらの髪をかき上げて左耳の上辺りで留めてくれた。すかさず店主が鏡を差し出してきたので覗き込むと、自分でも驚くほどよく似合っていた。


「いいな、似合ってる。どこが気に入ったんだ?」

「えっとあの、駆け出しって聞きましたけど、この作品にはとても将来性を感じるんです! だから私もそうだと良いなぁと願いを込めてと言いますか……。あっ、あと何より――」


 ここでハッとしたように言葉を止めたリセラは、カァァと頬を染めると顔を逸らした。髪留めに手をやりながらほとんど聞こえないくらいの声で言う。


「い、」

「い?」

「……色が、あなたの瞳と同じだな……って」


 ピシリと固まった男は手で顔を覆い、次に天を仰ぎ、そのままの姿勢でブツブツと独り言をつぶやいた。


「トパーズ……イエローダイヤモンド……いやダメだ、どの宝石もリセの金無垢の瞳に比べたら全然」

「あの、ダメでしたら他のでも」

「いいやこれにしよう! これだな! これ以外ありえない!!」


 食い気味に肯定され、ぴゃっと飛び跳ねる。

 そして数分後、丁寧に包んだ箱を手提げの紙袋に入れて渡され、二人は店を後にする。道中歩きながらもリセラは嬉しそうにそれをずっと見つめていた。


「そんなに嬉しいのか?」


 そう問われてふと思い出したのは、小さい頃、誕生日に「みんなから」とミーツェに渡されたプレゼントだった。綺麗にリボンが掛けられたそれをリセラは顔を輝かせながら開けたのだが、中には石や腐った食べ残しなどが詰められていた。呆然とする姉を指差し、妹は腹を抱えながら笑い転げていた。

 嘲笑の詰め合わせ……そんな哀しい記憶をそっと横にやり、リセラはそっとほほ笑んだ。


「ユーリ様……私、贈り物って初めてです。大切にしますね」


 二人の間に柔らかい空気が広がる。


「改めて今日はありがとうございます。お城の外でもあなたが領民みんなに好かれてるのが分かって嬉しくなりました。まだお若いのにちゃんとリーダーを勤められていて本当にすごいです」

「……」


 素直な感想を伝えたのだが、その言葉にユーリの顔に少し陰りが差してしまう。


「ユーリ様?」


 何か気に障るようなことを言っただろうかと不安になると、彼はハッとしたように我に返った。苦笑いを浮かべながらこう返してくる。


「悪い。その若すぎるっていうのも、年寄り連中は不安に思ってるんじゃないかって」

「そうですか?」

「あぁ、俺の父上は本当に偉大だったから。みんなが慕ってくれているのは、俺に父上の幻影を見ているだけなんじゃないかって、時々不安になるんだ」


 あまり深刻だと思われたくないのか、表情と口調は明るい。だがリセラにはその身体から立ち上る『天命の糸』が揺らぐのが感じられた。


「……ごめんな。こんな悩み、頑張って支えてくれるアッシュ達には絶対に言えなくて。リセにはつい話してしまう、なんでだろうな」


 いつも太陽のように明るく、自信に満ち溢れているように見える彼にも悩みはあるのか。いや、人の上に立つ者だからこそ軽々しく弱音は吐けないのだろう。それに気づいたリセラは拳を握りしめ声を張る。


「そ、そんなことはないと思います! えっと、私は前の領主さんは存じ上げないですけど……でも、ユーリ様は立派に領主を務めてらっしゃいます。少なくとも、私にはそう見えます!」


 つい意気込んで言ってしまって前のめりになる。一瞬驚いたような顔をしていたユーリはプハッと小さく笑い声を立てた。


「そんな大きな声、出せたんだな」

「えっ? あっ、あぅぅ……」


 急に恥ずかしくなるも、目が合うとむず痒さがこみあげてきて二人して笑ってしまう。ひとしきり笑った後、リセラは落ち着いた声でこう続けた。


「大丈夫です、今はお父さまを追っているだけでも、ユーリ様ならいつかその背中を追い越していると私は信じています」

「リセ……」


 胸に手を当て、確信に満ちた響きで言う。


「がむしゃらに走っている姿は誰かの心を動かします。そして疲れてしまった時はどうぞ私を頼ってください。いくらでも弱音を吐いて、情けない姿を見せてください。そんな役割を仰せつかるのなら私はとても光栄です」

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