12.宝石を君に
物珍しそうに見られ少し緊張したが、アンナに教えられた通り背筋を伸ばしてニコッと上品にほほ笑む。すると視線を向けていた皆が温かい笑顔を返してくれた。手を振ってくれる者もおり、また一つこの地が好きになる。
「おい見たか、領主様の婚約者。すげーキラキラしてたぞ」
「見た見た、真っ白で綺麗なのに笑うとめちゃくちゃ可愛かったよな」
「私もドキッとしちゃった。ど~しよ~、ユーリ様とセットでファンになっちゃう~」
一瞬で彼らを虜にしたことなど知らず、リセラはユーリと共にレストランに入った。城の食事にも引けを取らない食事を堪能した後、再び通りを歩きながら話をする。
「うちの領地の主な収入は魔獣を防衛することでの国からの報酬だが、他にも鉱山から良質な宝石が取れる。アッシュから教わったか?」
「はい、聞きました。ロウェル産の宝石はカット技術も高く、都でも重宝されると評判でしたよ」
まだ実家のディリング家に居た頃、妹のミーツェがしきりにねだっていた事を思い出す。若き領主は通りの宝石店の一つに入り、ニッと笑いながら自慢げに店内を披露した。
「そうだろう、うちの職人は国一番だからな!」
「!」
後に続いて入ったリセラは、ショーケースの中に並べられた宝石たちを見て息を呑む。
なんて美しいのだろう。キラキラと輝く鉱石たちは完璧なカットをされ見る角度によって光を反射している。指輪、ネックレス、ティアラ、イヤリング……世の中の令嬢たちがこぞって欲しがる理由が少しだけわかるような気がした。
「領主様、ようこそおいで下さいました」
「あぁ、変わりは無いか?」
身なりのよい老紳士の店員が丁寧に挨拶をする。ユーリが挨拶がてら尋ねると、彼はニコニコとしながらこう返した。
「それがたった今採掘ギルドから入った情報なのですが、また新鉱脈が見つかったそうですよ」
「また見つかったのか?」
「ええ、私も長く生きていますが、このようなラッシュは経験したことがありません。これからますます忙しくなりそうですな」
その情報に、思わず二人は顔を見合わせた。
(私の能力のおかげ……?)
ここでニッと破顔したユーリは、リセラの肩に手を置くと自分の方へ一歩引き寄せた。
「きゃっ」
「我が地に幸運を運んできてくれた天使に贈り物を! リセ、好きな物を選んでくれ。ロウェルへ来てくれた記念に贈りたいんだ」
「えっ!?」
驚いたリセラは、ケースの中の高そうな宝石を見て青ざめる。ブンブンと頭を振ると手を突っぱねて必死に思い留まらせようとした。
「そんな、私なんかのためにもったいないです。恐れ多いです。物欲しそうに見えたのならごめんなさい」
「何を言う、俺は最初からそのつもりでデートに誘ったんだぞ」
「でも……っ」
辞退しようとするリセラの手をパッと捕まえて、見た目よりもしたたかな婚約者様はすがるような目つきでじっとのぞき込んできた。
「なぁ聞いてくれ、ロウェルの領主ともあろう者が、婚約者に宝石の一つも贈れないだなんて噂されたら良い笑いものになってしまう。俺を助けると思って一つここは受け取ってくれないか?」
「う、うぅ」
卑怯だ。そんな言われ方をしたら断われないに決まってる。ここで少し雰囲気を変えたユーリは真面目な声色でこう続けた。
「それに、『私なんかのため』なんて言わないでくれ。自分を貶めるような物言いは聞いていて気持ちのいいものじゃない。少なくとも、俺は嫌いだ」
「!」
自分を下に置くことが常態化していたリセラにとって、その忠告は雷のように衝撃的だった。
だがそれでもまだ、自分がキラキラ輝く宝石たちを身に着けるに値するような人物かが分からない。どう返そうか散々悩んだ挙句、グッと唇を噛みしめてこう答えた。
「、わかりました、では1日も早く、その宝石に見合うような令嬢になれるよう、がんばります……っ!」
その言葉を聞いたユーリは一瞬驚いた顔をしたが、苦笑しながらこう言った。
「その心構えだけで、十分すぎると思うけどな」
そんな流れで一点選ぶことになったのだが、ここに来て急に審美眼を問われる事になったリセラはショーケースの前で難しい顔をして考え込む。
(高すぎる物は論外だけど、ああ言った手前、安すぎる物を選ぶのも違う気がする……)
ここの商品には値札がつけられていないので(宝石を求める層は値段など気にしないという事だろうか)宝石の良し悪しが分からない自分にとっては難解な問題だ。
「気負わなくていい、直感で好きなものを選べばいいさ」
そうは言われるがここは外したくない。その時リセラはふと視線を上げた。この店にはショーケースの他にも棚の壁に商品が陳列されているようだ。
「こちらも売り物なんですか?」




