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⑦ 謝って済む問題じゃない

 『誰得だれとく』7話の更新です。現代世界での出来事となります。

 他の世界から召喚する行為は、神という尊き存在でさえも、頻繁にすべき行為ではないはずだ。それなのに神以外の単なる人間が、神の力を用いて異世界から召喚することなど、神が安易に許すのか?


神は抑々、人間と関わらない存在だと言われている。人間同士に多大な影響を齎す力を、神が人に安易に与えるだろうか?…いいや、そんなはずがない。異世界への召喚は非常に不安定で、人間には恐れ多い力だと思うし、実際に()()()()()()()()続けてきた。


 「…我々はずっと、召喚された側の者達の気持ちを、そこまで深く考えずにいたようだな。召喚した者に同情はしても、残された家族のことなど一度も、思わずにいたのだな…」

 「その通りですわ。そのような気遣いをなされていたのなら、もっと早く召還の儀式を止められたことでしょう。」


彼是もう1時間ぐらいは、彼らと話していた。現代世界に戻って来て、カシオン教の司教は謝罪する意思を、漸く示し始める。司教の謝罪は、これが初めてのこと。今更という感じしか、しないでもなく……


魂の抜け落ちた顔で、「すまない」と謝罪の言葉を口にした。瞳から生気が抜け落ちて、全身から力を失う死人のように。異世界ではビシッと背筋を正していた司教が、何処にでもいる小父(おじ)さんに見える。最早認めるしかなく、仕方なく言葉にしたとも言えなくはない。


…もっと早く非を認めれば、私達の怒りもそれだけ早く収まった。最初から自分は全然悪くないと信じているから、本気で謝るつもりが1ミリもないようね?


私もお姉様もグレイソン小父さんや王子様に、これっぽっちも「可哀そう」とは思わない。彼らは長年ずっと加害者側で、私も含めた神楽坂家の親族側は、被害者に当たるのだから。加害者側が何を言おうと、言い訳にしか聞こえない。加害者側に悪意がなければ、加害者が何をしてもいいという、図にしたくはなかった。


誘拐という犯罪に対する処罰は、どの世界も基本的には同じだ、と思う。もしそうではないとするのなら、私達が介入してでも絶対に変える!…それが結果的に報復の上に、()()()()()()()()


 「…今後は私も自ら進んで、召還の儀を失くすよう努力しよう。だから一刻も早く我らを、帰らせてくれぬか?」

 「…グレイソン司教!…それはあまりにも、早計ではないか?…まるで謝罪を終えたとばかり、『もう用が済んだ』と申したのと、同じではないか!」

 「……まさか、そうような意はありませぬ。第二王子殿下の御身を慮れば…」


王子様の安全を気遣うのは、本音からだったとしても、これで帰るとは都合の良い話である。これには私もお姉様も、心底呆れた。タリアン国の聖職者ともあろう者が、具体的な責任を果たさず去るとは…。私は其れなりの覚悟の上でのこと、私は私で責任を取るつもりでいる、というのに。


お姉様もいい加減、怒りが爆発寸前の様子に見える。この状況が続けば、私の家族や親族達が合流した途端、血の雨が降りそうな気配である。特に…父と兄と弟が、本気で司教を血祭りにしそうで……


 「…我が身など、今は関係がなかろう。たった今、其方(そなた)は非を認め謝罪したばかりで、我々は…まだ何もしておらぬ。何もせぬうちに帰せとは、あまりにも都合が良すぎやしないか?」

 「…ですが、殿下……」


これでは、誠心誠意をもって謝罪していない、それと同義だとセス王子様が、私とお姉様の代わりに諫めてくれる。我が神楽坂家のご先祖様達も皆、彼らに人生を台無しにされた。小父さんの言動は、実に不誠実である。それにも拘らず、未だ小父さんは何かを告げようとし、王子様がそれを遮った。


 「其方はこの者達の悲しみを、理解できぬと申すのか?…召喚の直後に聖女の役目を果たせと、我らは一方的に告げた側なのだ。信仰上儀式を行うだけで、仕方ない出来事だったと…まだ申すのか、其方は…。謝罪を終えたとしても、少なくとも償うべきことを最後まで、話し合うべきではないのか?!」

 「……殿下。それは王国に帰った後でも、決して遅くございません。先ずは国王陛下に真っ先に、ご報告してからでも……」

 「…グレイソン司教。まだそのような事を、申す気か?…召喚という行為は奇跡に近いと、この者達が申しただろ。今帰れば何もかもが有耶無耶になる、と思っているのか!」

 「……しかし、我々では何も決められませぬ。国王陛下の許可が必要で…」

 「其方は、馬鹿か?…このような非常時に、陛下の許可が要るか?…少なくとも今は、()()()()()()()我々には、必要ない。今の我らは、ただ人質のように従うことだと、心せよ。」

 「………殿下……」


お姉様は王子様の司教への叱責に、フムフムと激しく頷いていらっしゃる。司教だけが不服気な顔で、口をギュッと閉ざしたままだったが。





 

   ****************************






 「セス王子様。わたくし達の気持ちを代弁してくださり、誠にありがとうございます。わたくし達神楽坂家は、償いに関する部分を大いに求めております。この世界での神楽坂家の地位は、それなりに影響力のある家柄でございます。我が国では実に古く、歴史のある家柄でもございましてよ。貴方達の世界で例えますならば、公爵家以上の王家と同等の権力と財力を、持ち合わせておりますもの。」

 「……っ!!………」


私の告げた内容に、司教が酷く驚いた顔をした。王子様は何となく気付いていたようで、眉がピクリとした程度だった。実際には異世界の王家より、神楽坂家の方が立場も上かもしれない。


…あらあら、グレイソン小父さん。そこまで驚かなくても。我が国や他国の政治に関与できずとも、多少影響力はあると言えなくもない。お金持ち同士という横の繋がりでは、個人的に海外から協力者を得て、異世界に戦争を仕掛けることも、決して不可能ではない。


 「我が国の政治に関与できずとも、他国の知り合いに個人的なご協力を煽ることなど、他愛のないことですのよ。貴方達の()()()()()()()()()など、実に容易いことですもの。」

 「「………」」


私はにこりともせず、真顔で告げた。異世界を服従するともなれば、流石に今直ぐ動けないものの、神楽坂家がその気になったら、単なる脅しでは終わらない。それらは全て、噓ではなく。


小父さんは冷や汗を流し、再び沈黙した。流石に王子様も、とんでもない相手を召喚してしまったと、肝を冷やしているように見えた。それでも、王子様は暫く沈黙した後、口を開く。


 「…グレイソン司教の態度に関し、心からお詫びしたい。私には只々、謝罪することしかできない。其方達(そなたら)の世界に居る間、でき得る限り其方達が望む形に添うよう、努めたい。だから其方達は我らを、ぞんざいに扱ってくれて構わない。」

 「…流石に王族扱いは無理ですが、同等におもてなしを致す予定です。敬いもしなければ優遇も致しませんが、お客様扱いさせていただきます。それが、我が国の礼儀というものですの。」


いつの間にか有梨那お姉様は、片手にビデオカメラを持ち、私と彼らの会話を撮影している。後から彼らが開き直っても、証拠はばっちり残していると、突き詰める気なのだろう。素晴らしい作戦(グッドプラン)でしてよ、お姉様!


 「我が国が犯した罪は重い。例え許されないとしても、其方への償いは真摯に対処すべきだと思う。」

 「()()()()()()()()に、一生かけても許せる問題ではございませんが、折角王子様のご提案もございましたし、有難く利用させていただきます。但し、単に復讐で終える気はございません。被害者側の事情を理解した上で、もう二度と絶対しないと誓いを立て、悔い改めていただきたく存じます。その為には王子様と小父さんには率先して、タリアン国の皆に反省なさったお姿を、見本として振る舞っていただきたいのです。」

 「ああ、その通りだ。同じ悲劇を生まぬよう、協力しよう。いや、是非とも協力させてほしい。」

 「…小父さんは、どうされますか?…わたくし達に同意なさいますか?」

 「…その前に1つ聞きたい。今までの聖女は皆、同じ一族出身なのか。何故今頃になって復讐したのか、を…」


王子が仰った通り、安易に許す気はない。今までの脅し文句も効いたのか、酷い扱いじゃないと安心したのか、観念したように頷いた小父さんは、私達に新たな疑問を投げかけた。彼の疑問は尤もなことだと、私も真実を語ることにした。


 「被害者は皆、我が家に連なる者ですが、その先祖の1人が異世界で書いた日記を残しました。その方は運よく、自然に起きた転移でご帰宅されております。他の異世界の存在などは、まだ誰も知らぬ時代でしたが、その方のお陰でわたくし達子孫は、こうように対策できましたのよ。そして、現代の急速な文明の発展により、科学の力で逆召喚を初めて成功させたのです。」

 「…なるほど。理解できぬ部分もあるが、現代は…色々と凄いのだな…」

 「人間の努力は、留まることを知りません。人は常に自ら快適さを求め、前進し続ける生き物です。現状に満足した彼の国(タリアン)は、自らが努力するのを忘れてしまったのでしょう。」

 「…それは、召喚の儀式が原因だと…?」

 「はい。未知の力を使い熟すのは、簡単ではございません。それでも自らが努力する行為は、人の成長に必須なものなのです。」


何かを成し遂げる力、人と人との間の友情など、人として生きる上で最も大事なものへと、遠い未来では繋がっていくかもしれない。それなのに()()()()()()()()、他人との友情が生まれぬまま、何かを成し遂げる以前に、諦めるかも。


 「其方達の『召喚』が努力の賜物だとすれば、我が国民は恥じるべきだ…」

 「わたくし達の生活は、科学を基にしております。人の知識や努力を必要とするほど、成果を得られます。人同士の協力が、最も必要不可欠なのですわ。」


私は一旦口を閉じ、笑顔で言い放つ。


 「もし反故(ほご)となれば、神楽坂家は全力で彼の国(タリアン)を、征服致します。」

 「…そうならぬよう、努力する。」

 何故か言葉(日本語)が通じる、異世界人。今のところ、その理由は当分書けそうになく、後書きにて簡単に説明したいと思います。乙女ゲームなどの設定は、誰得では設定しておりませんので、日本人が作ったゲーム・小説・漫画等の世界に似た世界でもないと、此処で表記しておきます。


グレイソン司教の反省は、単に帰りたいから謝った、ということに過ぎない?

それに比べるとセス王子様は、しっかりと責任を感じているようです。彼1人の責任ではない以上、王子様だけが反省していても、他のタリアン人が反省していなければ、同じことがまた繰り返されると、夕愛(ゆうあ)も懸念していて。国の問題でもあるので、難しい問題だと思いますが。



※主人公のナレーション語りは砕けた言葉使いで、会話時はお嬢様言葉です。

※基本的に振り仮名のある文字は、その時点のみその読み方となりますが、振り仮名のない部分は、普通に呼んでもらって構いません。主人公の名前は、振り仮名のある部分(会話の中)のみ、『ゆあ』読みとなります。

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