③ 私のターン、反撃せよ!
『誰得』3回目更新となりましたが、今回も主人公の名前どころか、逆召喚された2人の名前も、まだ不明のままです。次回は名前を、出せるかな…?
「私の住む世界と比べたら、この国は随分と時代遅れですよ。私の住む世界の言葉で表現するならば、『何百万年経てど未だ原始時代の国、そして…文明が永遠に進まない国』ですね。今まで自ら発展する未来を、長年放棄していたのですから、当然ながら自業自得なのですが。因みに『自業自得』という言葉は、自らの悪い行いが原因で、自らも苦しむことを意味した、我が国の諺です。そして、神様も罪から一生逃れられないと、我が国では神の罪も問うべきと、考えられています。」
異世界の人間を、別世界へ召還する。魔法という未知の力として、人間が偶発的に得たと見るか。それとも聖力という神の力として、神が与えし神聖さと見るのか。その世界の在り方や捉え方次第で、微妙に変化するようだ。
偶然にも特別な力を得て、奇跡的に他の空間に繋がり、偶々異邦人を召喚できたのだろう。その異世界人がこの世界では、聖女の如く特別な力を発揮した。それに味を占めた聖職者達は、神の崇高な儀式と偽り、召還を正当化したのだと、私達現代人は捉えている。
自ら解決せず、全て他力本願に任せた方が、簡単だ。最早この国の住人達は、自らの力で解決する気もなく、世界が変化する兆しを拒み続けた。その無責任ぶりに、呆れを通り越し怒りが湧く。
「この世界の人々は、単なる無知で恥知らずです。この中の1人だけ、他の世界に召喚されたら、どう思います?…家族や大切な人、若しくは…王族の1人が前触れなく、突然消えるかもしれないと、一度でも考えたことがありますか?」
この国の歴史を知らなくとも、この国の異様さがすぐに分かった。単に文明が遅れただけでは、なさそうだとも予測がつく。召喚という謎の力を得た所為で、神の後ろ盾を得たと都合良く解釈し、召還を乱用し続けた。何という暴挙であろう。
具体的に例えて話せば、漸く状況を把握した者もいれば、未だ理解できぬ頭の悪い者もいた。この先、私にとって正念場となるだろう。理解できぬなら、理解すべき状況に変えてやる。現実的に身をもって体験しない限り、理解できない無能な輩ばかり、みたいだし…。
「いくら馬鹿だとしても、実際に同じ立場になれば、考えざるを得ない状況になるかしら?…私の国の諺では、『後悔先に絶たず』とも申します。後でいくら悔やんでも、取り返しがつかないと…。後悔しない為の、戒めの言葉ですのよ。貴方達にも実際に、私と同じ体験をしていただきましょう。…ご覚悟は、宜しくて?」
この場の全員の顔つきが、「…!?」という風な驚き一色となり、理解不能とばかりに目を丸くした。私が放つ言葉の意味を、理解できる者は誰1人いないだろう。お粗末にもただ不安げに瞳を揺らし、困惑するだけで。
私はお嬢様らしく、覚悟はできているかと問うた。この国の人間は、私が何処の誰かとも身元を知ろうとせず、単に召喚可能な対象だと、認識しているだけ。私には歴とした家族がいて、家族は私を溺愛するほど、大切に思ってくれている。溺愛する娘が突然姿を消せば、「誘拐だ!」と大騒ぎするのは、当たり前のこと。
私という人物のことも、この世界の人間には興味ないようだ。だからこそ、私の立場も私の家族のことも、理解できずにいる。私が今から何をするのかも、ピンとこないほど平和ボケしている。ある意味、我々現代人よりも……
さて、今から私の独壇場だ。やっと反撃可能な、私だけの場面である。人として許されざる範疇を、既に超えてしまった彼らには、体験というお仕置きを与えよう。私を召喚したことを、心の底から後悔させてやろう。自分達の行った召喚が、どれほど酷い仕打ちなのか、どれだけ残酷な事実なのかを、時間をかけじっくりと分からせて、あ・げ・る!
「…其方、一体何を…する気だ…?」
「…あら、まあ?…本当に、まだ分かりませんの?…貴方方が当の昔に止めておられたら、逃れられた運命でしょう。誠に残念ですこと…」
私が実行しなければ、彼らはこの先もずっと変わらない。私が被害者に選ばれたことにも、この機会を無駄にするな、という戒めの機会なのよ。私以上の適任者は、他には…おりませんことよ!
「発展する未来を自ら放棄した、愚かな王国の皆さん。元の世界に帰すのも、決して不可能ではないですのに。何年も何十年も何百年も、自分達の利益以外は鑑みず、歪みきった国の行く末など、何れ…滅ぶと決まっております。それでも私は、見過ごすことなどできません。貴方達に反省する日が、先に来るのか…それとも、この国の滅亡が先となるか、は…。楽しみですわね?」
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「滅多に怒らない温厚なわたくしを、本気で怒らせた貴方方自ら、責任をお取りなさいませ!」
私のターン開始直後、主に王族や聖職者達は、ポカンと阿保面をしていた。国を挙げての誘拐やら、神のお告げは嘘の教えやら言われ、理解が追い付かないようである。正義の『聖女召喚』=誘拐という重罪、という真実から目を背ければ、心の弱い自分勝手な人間となる。精神的ダメージが大きい時ほど、反省の機会を逃してしまえば、道を外したまま二度と引き返せない。
国が滅ぶという指摘に、青褪める者・怒りで赤面する者など、様々だ。私の思い通りに進んでいると、殊更に満面の笑顔となる私に。更に警戒はしても、然もありなんと高を括ってる…?
「…!?……な、何が起きた……」
「……なっ!?……これは!!……」
予てからの計画を、私は漸く実行した。私を召喚した聖職者、そして私の前にいる王族を、共に現代世界へ飛ばしてやった。彼ら自身も異変に気付くも、声を上げる暇もなく姿を消す。此処までは用意周到である、私の計画通りで…。
突然2人が消えた現実を、異世界人達は恐怖に感じたらしい。ガタンと派手な音を立て立ち上った、両陛下の顔から血の気が失せていた。王妃が意識を失い倒れる寸前、兄王子らしき人物が慌てて、抱き抱えた。何の命令も出ない状況に、騎士達は混乱し狼狽える。この場のほぼ全員が、何が起きたかすら把握していない。
「…これは、どういうことだ……」
「……第二王子殿下が、お消えに……」
「……未だ…夢でも、見ているのか……」
この世界では召喚時に、魔法陣の図を床に描いてから、呪文を唱えることで成功するようだけど、私は呪文もなく図も描かず、スイッチボタンで作動させただけである。現代文明を、馬鹿にしないでちょうだいな。
「これが正しく、現代世界で生きる私達の努力の結晶です。自ら努力して高みに上った者のみ、魔法のない世界で手に入れる、努力の賜物よ。」
私が本気で怒る時、私をよく知る者達は皆、私から距離を置く。私の最強の笑顔とも言うべき、全ての者達を魅了する微笑みは、本気で怒った証拠だ。自分でも振り返って、ここまでしなくても…というほど、敵に対して容赦はない。犯罪も何でもござれではないが、普段が気真面目過ぎるだけに、一度羽目を外すと誰にも止められない。敵と見做した相手を犯罪ギリ寸前、完膚無きまで……
相手の弱みを最大限利用し、言葉という武器で徹底的に、追い詰める。本来力で勝てない相手には、同じく力を追加して。私の尤も得意な分野で、稀に骨折したとしても医療費までは、私持ちで最後まで面倒を見るけれど。
話の論点が逸れてしまった。今のところ、科学を用いた計画通りだ。大幅に狂うこともなく、些細な違いが生じようとも、それも見做した上でのこと。常に敵情視察を怠らず、細部まできっちり計算し直し、成功へと導いたのだから。魔法も努力が必要なら、科学はそれ以上に何倍も、努力を必要とするものなのだ。
「……まさか、其方の…仕業か?」
「今頃は私の家族も、私をさぞ心配し大騒ぎして、おられるわね。これでやっとわたくしや家族の気持ちも、少しは…お分かりになりまして?」
やっと多少の理解が追い付いたのか、1人の重鎮らしき中年男性が、声を震わせながらも私を責めるような、視線を向け詰問した。小娘如き怖くないと言いたげな顔で、これは単なる武者震いだと鼓舞したのか、私をキッと睨みつける。
「……お2人に、何をした!」
「私の住む世界に、お招き致しましたわ。『召喚』は何も、この国だけの特別な力では、こざいませんもの。現代世界は他のどの世界よりも、優れた文明を発達させておりますの。科学の原理を用いれば、物理的に召喚も可能です。私のご先祖様が召喚された時、偶然にも呼び戻しに成功し、それ以降は親族一同協力しながら、異世界へ召喚する仕組みを、何十年もかけ只管解読して参りました。」
「…………」
「お2人は大切なお客様として、丁重に持て成しますわ。この国と違って、帰りたい時にお帰りいただけます。但し、この国の皆さま次第ですが…。彼方の世界のわたくしは、この国の王族に匹敵するぐらい、『お嬢様』でしてよ。私がお嬢様でなければ、お2人はもう二度と此処に、戻れませんわね。何せ『召喚』1回の使用料金が、この国の貴族一生分の生活費と、同額程度でしょうから…」
「…………」
科学実験は、頻繁にお金がかかる。この国の生活基準を知らないが、適当に大袈裟に言っておこう。研究の初期頃からかかった資金は、相当な高額だ。我が家がそれなりの家柄だからこそ、お金を出せたと言える。
現代世界の事情を知る由もない、重鎮及びこの国の住人達は、返す言葉も失くしたらしい。私の仕業と明確になった途端、騎士達は私を取り押さえようと、果敢に動く。但し、今此処にいるのは単なる残像で、私は既に彼らと共に、転移していた。魔法が最先端の科学に、勝てるはずもなく。
「…では、これにて失礼致します。彼方の世界で皆様のお姿を、見守っておりますわ。十分反省なさったら、お声を掛けてくださいませ。それまでお達者で。」
小娘に…してやられた。後悔も反省も懺悔も、全てが遅すぎた……
今回、急展開の流れとなりました。到頭、主人公が動き出します。科学を武器にして『逆召喚』に成功…? 異世界召喚されても、自分の元の世界にいつでも戻れるのなら、召還されても怖くない…というわけじゃなく、何度も緻密に計算し直したりと、戻れるのも大変そう…。戻れない可能性も、あるのかな……
さて次回は、現代世界が舞台となる予定です。既に『私』の身体も戻っているようですし、元の世界に戻ってからのスタートと、なりそうです。




