① 異世界召喚は、誘拐?!
本日から連作開始となりました。宜しくお願い致します。
異世界召喚から始まりますが、異世界だけが主体ではなく、何方かと言えば別の物事に、重点を置いています。飽くまで『聖女召喚』されたことから、ストーリーが展開されていくこととなります。
「…おおっ!…よくやったぞ!!…此度の聖女の召喚、漸く成功したということなのだな。なるほど…。この者が…神に選ばれし、聖女…か?」
「はい、国王陛下。聖女の召喚は無事、成功致しました。」
私が意識を失いかけ、再びはっきりする頃には、周りの風景がすっかり変わり果てていた。現代に生きる私が次の瞬間、こんな古くさい時代遅れな所に居るなんて、本来ならば呆然としただろう。
……気付いたら異世界に、転移していました。
そういう馬鹿げた文章が、頭の中にポツリと浮かんだ。異世界転生や転移というものが、ゲームや小説にもよく出てきて、同級生達が男女問わず夢中になった、と思い出す。如何やら私は、同類の体験を実際にしたみたい。
……どうして私が?…異世界転生をすることに?
疑問が次々と浮かぶも、私は至極冷静のままだった。周りに 屯 する 大勢の見物客達が、興味津々な様子で容赦なしに、見物でもするような無遠慮な視線を、私に向けていた。ジロジロ観察し、品定めをするような瞳で。
では、どうしてこうなったのか?…異変を感じたのは、つい先程のこと。普段と何ら変わりない、日常であった。ところが何の前触れもなく、突然…それは起きる。いつもの学校からの帰り道、自分の周りの景色がぐにゃりと、不自然に歪んだように見えた、その次の瞬間。唐突に足元の地面が、消え失せる感触がした。私の身体に重力と思しき負荷が、重く圧し掛かる奇妙な感覚……
「……うっ!………気持ち、悪い……」
グラグラと揺れる感覚に、今にも吐きそうだ。何とか意識を保とうとして、グッと踏ん張る。漸く身体の揺れが収まり、地面に足が着く感触を得て直ぐ、腕時計ならぬスマートウォッチをチラ見した。長いようにも感じたが、時計盤の数字は1分しか進んでいなかった。
転ばぬようしゃがみ込み、床に手を置き息を整える。本来なら大丈夫かと声をかける場面も、私を遠巻きにしたまま、周りの者達はただ眺めていただけだ。顔も上げず動かない私を他所にして、異世界の住人達が勝手に話を進めていく。
「我が国に聖女が現れたことは、実に目出度く喜ばしい。そこの娘よ、光栄に思うが良い。其方は我が国を救う、唯一の聖女として選ばれた。神に選ばれし娘を、心から歓迎いたそう。我らが王宮にて、盛大に持て成そうではないか。遠慮なく、何でも申すが良い。」
「…………」
「我が国唯一の聖女は、大切な貴賓だ。王宮での滞在を、許可致す。我が家だと思い、遠慮なく自由に過ごせ。そして聖女のお勤めに、精進せよ。」
「…………」
「…こほん、こほん。私は『モリソン・モナク・タリアン』、タリアン国国王である。其方は名を、何と申す?」
「…………」
傲慢な口調の人物は、どう見てもこの国の王だろう。ただっ広い広間の一番高い所から、金で縁取った煌びやかな赤い椅子に、踏ん反り返って座る人物が、私に声を掛けてくる。本物の宝石を幾つも縫い付け、椅子同様に金と赤で彩られた、派手な衣装を身に纏っていた。むさ苦しい髭を長々伸ばし、ひょろりと弱弱しく見える、異世界の王の肩書を持つだけの、貫禄もない単なる小父さんである。
……この人達、私に何をしたのかを、根本的に理解してないみたい…
聖女に選ばれたのだから、光栄に思えという傲慢な態度が、本気で忌々しい。明らかに機嫌の良い国王を、 具 に 観察しつつ無言を貫く。そうした私の冷たい視線に漸く気付いたのか、住人達も次第に戸惑い始めたようだった。
……私がちゃんと間違いを、分からせてあげる。さあ、ここから先は私が反撃する番ですわ。お覚悟をなさってくださいませ。
後で知ったことだが、国王の名の一部の『モナク』は、『王』という意味であるらしい。私の住む現代でも、同様の意味で使われる言葉で、『君主』のことを指す。日本語では似た意味の『キング』が、良く使われる。言いづらい『モナク』より、響きが良い『キング』が、老若男女に受け入れやすかったのだろう。
「…国王陛下。聖女様は我が国に、まだ慣れておられません。大層緊張なさっておられるご様子ですわ。(説得の)時間は、十分にございます。暫しの間は、ただごゆるりとなされるように…と、ご配慮なさってはいかがでしょう?」
「それは、良い考えだ!…流石、私の愛する王妃だ。遥か遠い世界から、来られたお方だというのに。王妃の申す通り、我らが気遣うべきだろう。暫しゆるりと過ごすがよい。」
「……………」
国王の真横に座る美女が、王に助言する。私がずっと無言だから、説得に時間を掛ける気なのか。国王と同じ椅子に座り、華美な衣装を身に纏い、上品さに溢れた微笑みをした。但し、高価な宝石を身に纏い過ぎていて、シャンデリアに無駄に反射して、ギラギラと目に痛々しい。背景に、バラの花を沢山背負っていると、錯覚してしまったほどで。
…王妃様は王様より気が利くけど、飽くまで王族目線で見ていらっしゃる。私の意志は丸々無視だし、ある意味では…誰よりも残酷では?
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時間は無限にあるから、説得は後にすべきだと、国王をやんわり諭す。国王の奥さんは、とてもやり手な人みたい。僅か数分で判断する上に、人心掌握も上手い。国王より余程、厄介な人じゃないのかな?
「そこの別世界の娘!…国王陛下並び、王妃陛下の御前である!…両陛下のお声掛けにも応じぬとは、無礼にも程がある。聖女に選ばれたからと、太々しいのではないか?…実に聖女に有るまじき行為だ。国王陛下、王妃陛下。この無礼な娘に、(余計な)時間を割く必要はございませんぞ!」
王妃に誘導されつつも、国王は余裕のあるように振る舞う。しかし、この意見に意を申し立てる者が、現れた。要するに私が、聖女に選ばれたと鼻に掛け、得意気でいると思っており、今直ぐ聖女として扱き使え、と訴えたいのだろう。
……はあ~。一方的に呼んだくせに、異世界人達は質が悪いわね。本来、其方側が私に頭を、下げる側なんだけど?…私の事情には、一切考慮してくれないのね?…だったら私も一切、手加減しなくていいかな?
この無礼な男はタリアン国の重鎮で、高位貴族のようだ。国王は男の発言に、不快気な様子で顔を顰めた。王妃もまた微笑を消し、顔を引き攣らせる。この場のほぼ全員が困惑しているようだが、彼ら全員が私の敵だと断言できようか。
「…私も発言して、宜しいでしょうか?」
「…も、勿論何でも、話してくれたまえ。聖女となりし其方は、我が国の至極貴重な存在でも、あるのだからな。」
漸く私も、口を開いた。相手は一応王族だし、表向きは遜る態度を取る。私の柔らかい口調に騙され、国王は機嫌を良くしたのか、民に耳を傾ける聖君ばりに、満面の笑顔を振り撒く。王妃も同じく、胸を撫で下ろす仕草を見せた。
ずっと無言だったのに、急に大人びた口調で質問した私を、一同揃って驚愕したようだ。漸く話が進むとでも、勘違いしたようである。私は彼らの思惑に気付くも、自分の 番 で 最高の笑顔を見せた。彼らを魅了する如く。
聖女の運命をやっと受け入れたと、都合良く思ってでもいるのか。安堵して溜息を吐く者、愛らしい笑顔だと赤面する者、聖女に取り入る気満々の者、各々であろうか。私にとってはそれこそ、思惑通り……
「当然の権利を申し上げますけど、聖女としての任務が終われば、私を元の世界に帰してくれますか?…まさか召喚はできても、送還はできないから帰れないなんて、仰いませんよね?」
「……い、いや…それは、その……」
私を召還したと思しき聖職者に、正当な疑問を打つけた。疾うに成人した大の大人だろうに、歯切れ悪い口調ではぐらかそうとする。正に正解を言い淀もうと、時間稼ぎをしているとしか思えない。
私が周りを見回せば、誰1人視線を合わせようとせず、国王夫妻も視線が合った途端に、わざとらしく視線を逸らした。彼らの後ろに立っている、ただ1人のとある人物を覗いては。
「要するに不可能と知りながら、元の世界へ帰す術もないのに、これまで召喚し続けてきた、ということでしょうか?…解決の糸口を放置し続け、召還を止めようともせず、正当化してきたのですか?」
「…………」
私が笑顔のまま凄めば、異世界人達は返す言葉をなくしていた。自分達に不都合だと思えば蓋をし、(真相が)バレる寸前まで伏せるつもりだったのか。私が何も知らない子供と、思ってるのね?
「聖女召喚は、神のご意志なのです。我々聖職者は、それを尊重し…」
「私達の世界に、神様はいません。もし存在していたら、別の世界からの不山戯た召喚など、許されることもなかったはず。この世界の神様は、何の関係もない別の世界から、縁も所縁もない未成年者を誘拐しろ、と…お告げされましたか?」
「……っ!?……ゆ、誘拐など、何と大それた……」
「…ふふっ、よかった。『誘拐』という言葉を、理解できる世界で。誘拐の意味から説明するのか、と思っていました。」
私を召喚した聖職者当人が、壮大な解説をする気配がしたので、話の途中で無理やり打った切る。これ以上、言い訳はさせない。別世界の生命を、どれだけ見下すのか。被害者を理解する側に立たせるなんて、心底呆れる。
(誘拐の)意味が分かれば話も早いが、意味も通じない世界ならば、罪を知らず恥も知らない世界は何れ、自ら破滅する運命を辿るだろう。召喚は元々、人間の手に負えないものだ。それなのに、間違った使用をし続けたのは、無知としか言えなくて……
…こんな歪な世界は、許せない。…いや、絶対に許さない!!
「現代世界では『召還』は不可思議な現象で、長年『神隠し』だと恐れられてきました。これが異世界人の仕業だと分かれば、私の世界では歴とした誘拐事件となります。現代世界の国によっては、死罪とする重罰な犯罪行為として、裁かれることでしょう。相手が異世界だとしても、例外なく。」
本日から新作の連載を、開始致しました。『私』という人物が主人公で、今後も本人視点で物語が進む予定です。
『私』視点であることから、今回は主人公の名前が出ませんでした。それどころか王様以外に名前が出ないとは、自分でも予想外で……
主人公の話し口調や心の声が、統一感のない話し方をしていますが、本人もころころと感情が変化したりと、その時の気分で口調が変わる、という設定になっています。こういう設定になった理由は、また後日書けたらいいかな、と思います。
一見するとシリアス展開かと、思われる方もいらっしゃるかと思います。しかし全体的には、そこまで暗いストーリーではありません。勿論、主人公達が泣いたり笑ったりはしますが、クスっと笑える程度を目指しています。また時々攻撃的な口調など、暴力的に感じる場面もありますので、ご注意くださいませ。
※ 第1話をご覧いただき、誠にありがとうございます。気に入っていただけましたら、次回以降もよろしくお願い致します。