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第55話 あけましておめでとう③


「あの、クリスマス会で仕切ってた人って……あの、ギャルっぽい」


「ギャルっぽいかはわからないけど、クリスマス会で進行をしてたのは野中さんだよ?」


 ギャル子さんは野中さんというのか。


「その野中さんと一緒にいたマスクしてるタレ目の人は?」


「雨野さんかな?」


 タレ目さんは雨野さんというのか。

 この収穫は大きいぞ。いや、友達になりたいんなら名前くらい知っておけよという話だけど。


「雨野さんとか、いいと思うよ」


「ああああああ雨野さん!?」


 驚くほどに動揺する日向坂さん。

 両親とは実は血が繋がってませんでしたという告白をされたときのような驚きっぷりだ。


「あま、あ、雨野さんのこと、好きなの?」


 わなわなと唇を震わせている日向坂さんは、動揺のせいか上手く話せていない。

 かろうじて、なんとかその言葉を口にした。


「好き……かは分からないけど、他の人に比べると好感度は高いよね」


「がーん」


「がーんって口にする人初めて見た」


 そんなことを話していると、列は進んでいきいつの間にか俺たちの参拝の番が回ってきた。


「ようやく順番が回ってきた。まあ、そんなに待ったっていう感じはしなかったけどね」


「ソウダネ」


 隣にいる日向坂さんの様子が少しおかしいことは一度置いておいて、とりあえず参拝を済ませてしまう。


 小銭を放り、二礼をしてからパンパンと手を叩く。それから、いわゆるお願い的なものを心の中で唱える。


 高校一年がまもなく終わる。

 幸い、昨年の終わりに友達ができたものの、これからある様々なイベントをもっと楽しむべく、友達が欲しいと思います。

 友達を作るために頑張るので、どうかいいご縁がありますように。

 よろしくお願いします。


 唱えたあとは、最後に一礼を忘れない。


 すべてを終えて、日向坂さんはどうだろうかと彼女の方を見てみると、彼女はまだ手を合わせてなにかを心の中で唱えていた。


 その横顔は真剣そのものだった。


 同時に、本来こんなことをこんな場所で思うべきではないんだろうけど、本当にきれいだと思った。


 男子連中が夢中になるのもよく分かる。こんな子が恋人になったら、きっと一生自慢できるな。


「……」


 とりあえずここにいては次の人の邪魔になるので、俺は列から出て日向坂さんを待つことにする。


 そのときに、ふと思う。


 いつか。


 日向坂さんに恋人ができたとして。


 そのとき、やっぱり俺と会う機会は減るどころかなくなるだろう。そりゃそうだ。彼女には大切な男性がいて、男性にとっても彼女は大切な存在で。


 他の男と会ってるなんて、許されないだろうし、そもそも日向坂さんはそんなことしないだろう。


 もちろん、こうして会うことは難しくなる。

 

 そう考えると、やはり男女間の友情というものは成立しないのかもしれない。


 ……。


 それはそれで、なんだか寂しい話だ。できることなら、日向坂さんとはもっといろんなことをしたいと思うけれど。


 それは、俺のわがままでしかないんだよな。


「おまたせ」


 ぼうっとしていた俺は目の前に戻ってきた日向坂さんに気づかず、声をかけられてビクッと驚いてしまう。


「随分長かったね」


「うん。まあ、いろいろとね」


 ところで、と日向坂さんの表情がさっきまでの笑顔から真顔に切り替わる。怖い。


「さっきの話だけど」


「さっきの話?」


「志摩くんが雨野さんを好きという」


「いや、別に好きとかじゃないけど」


「……じゃないの?」


「好きっていうほどあの人のこと知らないし。ただ、クリスマス会では良くしてくれたし、友達になれたりしたらなって思っただけだよ」


 あ。


 言ってしまった。


「そう、なんだ」


 願い事なんかも口にするとよくないと言う。

 けど、こういうのは自分がどううごくかが重要なので、別に口にしたところで結果なんてさして変わらないだろう。


 なにより。


「なーんだ」


 さっきまで真顔だった日向坂さんが笑顔に戻ってくれたし、全然問題ないな。


「結局なんだったの?」


「なんでもないよ。そんな話はもうどうでもいい」


「どうでもいいは失礼だな」


「それより、お腹空いたし、屋台いこ?」


「……そうだね」


 機嫌が悪かったわけではないんだけど、ご機嫌になってくれたようだし別にいいか。


 俺に友達ができるかどうかという問題が、日向坂さんにとってどうでもいいのも言われてみれば確かにそうだし。


 少し音を外した鼻歌をハミングする日向坂さん。この前のカラオケで分かったことだけど、この人はあまり歌うことが得意ではないらしい。


 ただ、それを上回る楽しそうな雰囲気と可愛さを持っているので皆が難なく盛り上がっていた。


 俺も。


 彼女のハミングは嫌いではない。


「なに?」


 俺が見ていることに気づいたのか、日向坂さんはハミングを止めてこちらを向く。


「いや、鼻歌」


「あ、や」


 指摘するとハッとして恥ずかしそうにうつむく。


「いや、ダメとかじゃなくて、むしろ悪くないというか、なんなら心地いいというか」


「……ほんとに?」


 俺が必死にフォローを入れると、もちろん信じれない日向坂さんは訝しむ視線を向けてくる。


「そ、そうだね。音のはずし方なんか絶妙で、赤ちゃんも思わず眠ってしまうくらい心地いいまであるかな」


「さっきのどうでもいい発言の仕返しかな!?」


 そんなつもりはなかったけど。

 もちろん、本気でないことはお互いに分かっているので、おかしくなってすぐに二人で笑ってしまった。

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