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第44話 聖なる日の祈り⑪


「あ、あたしだわー」


 言って、前に出たのはなななんと、タレ目さんだぁぁああああああ!!!!!


 テンションが上がって思わず実況めいた感じで言ってしまった。

 しかし、日向坂さんや秋名ではないものの、財津でもなく、かつタレ目さんに引かせるとは分かってるじゃないか神。


 タレ目さんのあの性格だ、きっと批判とかはしてこないはず。いや、性格語れるほどタレ目さんのことは知らんけど。


『選んだのはー?』


「あ、俺です」


 俺はおずおずと手を挙げる。

 プレゼントを受け取ったタレ目さんがこちらまでやってきた。


「志摩のチョイスがどんなものか、これは期待が高まるね」


「大したものじゃないけど」


「こういうのは気持ちが大事なんだぜー? さっそく拝見するとしようかね」


 ガサゴソと袋を漁り、中身を取り出す。彼女が手にしたのはスタバのコーヒー詰め合わせだ。

 カフェラテや抹茶ラテなど、様々な種類のコーヒーが入っており、いろんな味が楽しめることで人気らしい。


「おー」


 どういう感情がこもっているのか、タレ目さんがそんな声を漏らす。


「悪くないね。なかなかいいじゃん」


 ぽんと肩を叩いたタレ目さんはとてとてと行ってしまう。

 ナチュラルにボディタッチとかするのやめてもらっていいですかね。男の子は単純だからそれだけで勘違い余裕なので。


「志摩くんのプレゼントが当たらなくて残念だなー」


 日向坂さんが隣に戻ってきた。

 さっきまでマッシュくんと話していたはずだ。ぶっちゃけ話していたところから見てないので、そのあとなにをしていたのかは定かではないが。


「まあ、仕方ないでしょ」


「なに買ったの? あそこまで隠されて結局答えは分かりませんでしたはモヤモヤするよ」


「コーヒー詰め合わせ」


「ふーん」


「それはどういう感情?」


「感心かな」


「褒められていると?」


「わたしは思いつかなかったな」


「日向坂さんはなにを買ったの?」


「それは秘密」


「なぜ」


「志摩くんのコーヒー詰め合わせには勝てないからだよ」


「別に勝ち負けとかじゃないと思うけど」


「強者の余裕ですな」


「別に強者になったつもりはないけど」


 結局教えてくれなかった。

 めちゃくちゃ興味があってどうしても知りたいわけではなかったので、そんなに言いたくないのならこちらもわざわざ聞き出すようなことはしない。


 そんな感じでプレゼント交換会は幕を閉じた。

 ここで少し時間つぶしのためか、再びカラオケタイムに突入した。

 ステージでは再び賑やかしの陽キャが歌い出す。かと思えば、普通におとなしめのクラスメイトもマイクを渡される。


 誰もが知っているような有名なアニソンを披露し、場を盛り上げることに貢献していた。

 そんな感じで、普段はあまりはしゃがないクラスメイトも大いに盛り上がるカラオケルーム。


 俺は少しクールダウンも兼ねてトイレへと向かうことにした。


トイレが近い気がするけど、これはドリンクバーで飲み物を飲みすぎてしまっているからだろうか。


 あんまりカラオケという場所には来ないし、ファミレスとかに行く機会がないのでドリンクバーというシステムについついテンションが上がってしまった。


「わたしも一緒に行ってい?」


「俺がどうこう言う問題じゃなくない?」


 廊下を歩いていると日向坂さんが後ろから追いかけてきた。


「それもそうだね」


 そう言いながら日向坂さんは俺の隣を歩く。


「どう? 楽しい?」


 軽い雑談と言わんばかりの話題だ。誘った手前、気にしてくれていたのかもしれない。


「思っていたよりはずっと楽しいよ。来てよかったと思ってる」


「ほんとに?」


「ああ」


「ならよかった。選んだプレゼントも喜んでもらえてたもんね?」


 そう言った日向坂さんの笑顔が少しぎこちなく見えたのは、俺の気のせいだろうか。


「どうだろ。喜んでもらえてたらいいけど」


「貰ったプレゼントは確か財津くんのだったよね?」


「……まあね」


「なんかちょっと嫌そう?」


「そんなことないよ。日向坂さんのじゃなくて残念だったなと思ってるだけ」


 表情に出ていたのか、と俺は財津に対する好感度を誤魔化すように言った。

 まあ、多分薄々気づかれてるっぽいけど。


「そういうのは本当に思ってるときに言ってほしいな」


「思ってるのに」


「志摩くんは財津くんのこと、あんまり好きじゃない?」


 やはり気づかれていた。

 まして誤魔化せてなどいなかった。


「素直な気持ちを漏らすなら、そうだね。好きじゃないというか、どちらかというと嫌い的な」


「そっか」


 どうして、とは訊いてこないんだな。


 俺はそれが不思議だった。


 財津翔真といえばみんなから好かれるクラスの人気者である。

 正直言ってクラスメイト全員にアンケートを取れば俺以外は全員が好きと答えそうだ。


 それくらい、財津翔真という男は狡猾である。


 嫌いな俺でさえ、そこは認めざるを得ない。


「日向坂さんは――」


 ――どうなの?


 訊こうとして、やめた。


 トイレに到着したというのもあるけれど、この先を訊いてしまうのはズルいような気がした。


 答えを先に知ってしまうような、そんな罪悪感のようなものがチクリと胸を刺してきた。


 俺がその答えを知るのは、もう少しあとになるだろう。


「それじゃあ」


「あ、志摩くん」


 俺の言葉の続きが気になったのか、日向坂さんは俺を呼び止めようとした。


 が、俺は気づかないふりをしてトイレに入った。


 日向坂さんが諦めたようにトイレに入っていくのを音で確認してから、俺は用を足す。


「……今日はよく会うな」


「そうだな」


 偶然か。

 はたまた必然か。


 このトイレにて、再び財津翔真と鉢合わせた。

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