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第39話 聖なる日の祈り⑥


「お、長かったね。大きい方?」


 部屋に戻ると秋名が日向坂さんのところに戻っていた。俺は他に行くところがないので必然的にそこに失礼する。


「女子がそういうこと言うな」


「別にいいでしょ。私はうんこしないって言い張るようなキャラでもないし、そもそも女子だって普通にするもん、うんこ。ねえ、陽菜乃?」


「その話題に関してはわたしに振ってこないで」


 日向坂さんの本当に嫌そうな顔の拒絶を俺は始めて見たかもしれない。この人ってこういう顔もするんだ。

 って、これはこういうときに使う文言ではない気がするな。


「ちょっと人増えた?」


「あ、うん。みんな来たらしいよ。翔真くんがトイレから戻ってきたら始めるんだって」

 

 俺がトイレで財津と一揉めしている間に残りのクラスメイトがやってきたのか。


 こういうときに中心にいるのは財津翔真なんだということを実感させられる。

 きっと、財津が先に戻っていれば、俺が戻ってきたときには既にパーティーとやらは始まっていただろう。


 まあ、それはいいんだけど。

 そういうものであることは理解しているし。


 だからこそ、財津翔真の中にはあれだけの自信が満ち溢れているのだから。


「結局クリスマスパーティーってなにすんの?」


「さあね。なんかゲームでもするんじゃない?」


「王様ゲームとか?」


「さすがに一クラス規模の王様ゲームは大変でしょ。というか、ゲームと聞いて一番最初に出てくるのが王様ゲームなわけ?」


「パーティーゲームの鉄板なんだろ。それか、ツイスターゲーム」


「どっちもちょっと違う気がする……」


 ぼそりと隣にいる日向坂さんにツッコまれる。

 ネットで検索したらそんなことが書いてあったんだけど、じゃああれはガセなのか。

 信用ならんなネットは。危うく騙されるところだった。


「ビンゴとかやりそうだよね」


「大人数っていえばって感じするもんね」


 ビンゴ大会か。

 町内会のイベントに一度だけ参加したことがあったけど、当たり前のようになにも当たらなかったんだよな。

 楽しくなかったなあ。


『みんなちゅーもーく!』


 ステージに立ったギャル子さんがマイクを手にして注目を集める。

 どうやらいつの間にか財津が戻ってきていたらしい。


『みんな揃ったので、これからクリパ始めたいとおもいまーす!』


 ギャル子さんの開会宣言にクラスの陽キャ共がウェーイと盛り上がる。こういうときにああやってテンション上げれるのはシンプルに感心する。


 俺がああなっているところは想像できないな。


「どうかした?」


「いや、俺にはああやって盛り上げるの無理だろうなって思って」


「ああやって? ……ああ、ぷぷっ」


 その姿を想像してしまったのか、日向坂さんが吹き出してしまう。


「陽菜乃どしたの?」


「さあ」


 ツボに入ったのか、日向坂さんはお腹を抱えてふるふると震えながら笑っている。


 そんなに面白かったのか、想像の中の俺は。


『とりあえず最初はみんなで盛り上がれるようにゲームでもしようと思うんだけど!』


 はてさて、王様ゲームかツイスターゲームが来る可能性はあるのだろうか。あるわけないな。

 そもそもツイスターゲームは少人数用のゲームである。


『二人一組のチームで遊んでもらおうと思うから、みんなくじを引きに来てー』


 ギャル子さん他数名が今回の催しを担当しているのか、ステージでサポーターとして動いている。

 ああいうのを楽しくやってしまえるのもポイント高いよなあ。なんのポイントだよ。


「知らない人とペアにはなりたくないな」


 知ってる人でも財津とはゴメンだな。さっきの今で気まずすぎる。


「志摩はほとんど知らない人じゃん」


「たしかにな」


 じゃあ誰でもいいや。

 三十人近くいるクラスメイトの中から日向坂さんや秋名とペアになれる確率なんて僅かしかないし、これは最初から諦めモードだ。


「引きにいこーぜー」


 るんるん気分で秋名が前へ向かう。俺たちもそれに続いた。

 どっちかっていうと大人しい雰囲気なのにこういうの好きなんだな、秋名って。


 ギャップ萌えってやつだな、これもポイント高いよなあ。だからなんのだよ。


 二人の女子生徒が袋を持っている。どちらから引いても問題はないらしい。

 同じ袋からペアが出ることも普通にあるらしいので悩むだけ無駄だな。


 俺はギャル子さんの右側にいるタレ目のマスクをした女子からくじを引く。


「志摩ってこういう会来るんだね。意外だわ」


 くじを引くときにタレ目さんに言われる。話しかけられると思ってなかったから驚いた。


「まあ、せっかくだから」


「楽しんでね。ちゃんとみんなが楽しめるようなゲーム考えたからさ」


 何この子いい人すぎんか。惚れてまうやろ。

 もちろん、ポイント高いですね。


 くじを引いて横にズレる。

 中身を見ると『10』と書かれていた。つまり同じ番号の人とペアってことなんだろうな。


 ちらと日向坂さんの方を見ると、ちょうど財津が話しかけていた。

 あいつはあいつで隙あらば話しかけるな。


「陽菜乃、何番だった?」


「えっとね、16番。財津くんは?」


「俺は5番だ。残念だな、陽菜乃と一緒がよかったよ」


「あはは、ほんと?」


 どうやら財津とペアという最悪の未来を回避したと同時に日向坂さんとペアという最高の未来への道も途切れてしまったらしい。


 秋名の方を見ると既にペアを見つけているっぽい。これで俺はどこかの知らない誰かとペアになることが確実となった。


「志摩くん、何番だった?」


 財津と別れた日向坂さんがこちらに駆け寄ってくる。


「10番。日向坂さんは?」


 知ってるけど、「日向坂さんは16なんだよね」とか言ったら気持ち悪いと思って流れとして訊いておく。


「んー、まあまあ。それはナイショということで。それじゃあね」


「なんで?」


 俺の疑問など気にもせずに、日向坂さんはどこかへてててと走って行ってしまった。


 あー、やだなあ。

 この中の誰かに「10番? 俺もなんだよーよろしくなー」とか言わなきゃダメなんだろ?


 ぼっちのコミュ力舐めんなよ。

 せめてさっきのタレ目さんがいいなあ。

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