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第302話 兄妹の時間は変わらない②


「なにがいい?」


「んー」


 イオンモールに到着した俺たちは先に夕食を済ましてしまおうということになり、ごはん屋が並ぶ四階へとやってきた。


 ここには陽菜乃とも来たなあ、などと思いながら選択権を梨子に渡す。付き合ってもらっているのだから、選ぶくらいはさせてやろう。


 まあ、付き合ってもらってなくても俺に選択権はないんだけども。


「ラーメンかな。がっつり食べたい気分」


「なんか女の子っぽくないな」


「なに妹に女の子っぽさ求めてんのよ」


「別に求めてはないけど。ただ、クラスでもそんな感じなのかなって心配になっただけ」


「クラスではこんなこと言わないから心配しないでいーよ」


 梨子様お得意の内弁慶か。

 学校ではどういうキャラで通っているのか、一度拝んでみたいものである。


 俺が中学三年生のときに梨子は中学一年生として入学してきた。一年だけ同じ学校に通ったけれど、意外と校内では顔を合わせなかったので、梨子がどういう学校生活をしていたのかは知らない。


 それに、多分そういう振る舞い方を覚えたのは後々になってからだろう。


「ほら、行こ」


 梨子が先に行き、俺はそれについて行く。

 どうやらラーメンに対して気持ちが強く向いているらしい。足取りからして相当楽しみにしているご様子だ。


 しかし。


 どうしたのか、ぴたりと梨子の動きが止まった。


「どうした?」


 梨子の隣に追いついたところで、今なお停止を続ける梨子の様子を伺う。

 どうしたのか、非常に緊迫した顔をしていた。俺はその視線の先を確認してみた。


 そこには二人の女の子がいた。

 年齢は多分、梨子と同じくらいだろう。短い髪の女の子と、長い髪の女の子。


「梨子ちゃん?」

「わー、梨子ちゃんだ!」


 どうやら知り合いらしい。

 梨子のこんな姿見られたくなかった感満載のリアクションから察するに、クラスメイトだろうか。


「こ、こんばんは」


 梨子は動揺しながらも何とか声を出す。震えていたけど。


 女の子二人はてててと梨子の方に駆け寄ってくる。俺は様子を見ようと数歩下がることにした。


「どうしたの、こんなところで」


「えっと、兄さんと晩ご飯を食べに来てて」


 梨子が言うと、女の子たちは俺の方を見る。物珍しげな視線はきらきらと輝いていて、なんだか照れてしまう。


「わあ、あれがお兄さん?」


「すごーい、初めて見た!」


 まるで芸能人でも見かけたようなリアクションを俺に向けてくる。なんだろう、クラスメイトの間では俺は有名人なのかな?


 などと思っていると。


「お兄さんですか?」


「わっ、ちょ、待って」


 短い髪の女の子の方が俺の方にやってきた。それを梨子が慌てて止めようとしたけど間に合ってなかった。


「そうだけど。二人は妹のクラスメイトとか?」


「はい。友達です。お兄さんのことは梨子ちゃんからいろいろ聞いてて!」


 そうかそうか、お友達か。

 梨子に友達がいてお兄ちゃんは安心だよ。梨子まで友達いなかったら、ぼっちが志摩家の宿命ということになってしまう。


 梨子の学校生活に安心していると、肩をガシッと掴まれる。

 

「ねえ、兄さん。先に並んでてくれる?」


「どうした梨子、いつもは兄さんなんて呼び方」


 しないのに、と言おうとしたけど後で本気で怒られるような気がしたので言わないことにした。

 ていうか、梨子の顔がめちゃくちゃ怖かった。ちゃんとお友達からは見えないように俺に見せているところはさすがである。


「梨子ちゃんたち、ラーメン食べるんですか?」


「そうなの。兄さんがどうしてもって言うから。あたしはもうちょっとあっさりしたのが良かったんだけどね」


 ラーメンをリクエストしたのは梨子なのに。

 まあ、それも今この場で言うことじゃないんだろうけどさ。ここは梨子のメンツを守るために大人しく従ってあげよう。


「ほら、兄さん。早く行ってきなよ。ラーメン、《《食べたかった》》んでしょ?」


「……まあ、そだな。がっつり食べたい気分だからな」


「……っ」


 これ以上は可哀想だし、機嫌損ねられても困るので大人しく退散することにした。

 近くにあったラーメン屋に行き、受付に名前を書いて空いているイスに座る。


 少し離れたところにいる梨子たちを眺めていた。距離があるので何を話しているのかは分からない。


 ただ、時折お友達の女の子が俺の方を見てテンションを上げている。あの感じからして、恐らく学校で俺の話をされていたのだろう。


 何の話をしたんだろうな。


 暫くぼーっとしていると、梨子がこっちに戻ってきた。お友達もどうやらどこかに行ってしまったらしい。


「お待たせ、お兄」


「兄さんって呼んでくれないのか?」


「う、うるさいなぁ」


 ガチ照れしてる。


 まあ、俺も友達と接してるところを家族に見られたくなんかないし、その気持ちは分からないでもない。


 そっとしておいてあげよう。



 *



 がっつりラーメンを食べ、お腹を満たしたところで俺たちはイオンモールの中をぶらぶらすることにした。


 ラーメンを食べたことで気持ちを切り替えた梨子は、とりあえず友達と遭遇したことは忘れることにしたらしい。


「どういうの渡そうとしてたわけ?」


「あんまり深く考えてなかった」


「どういうのがいいと思うの?」


「花束とか?」


 ドラマやら漫画やらでよく見るシーンだ。ロマンチックな景色をバックに無数のバラの花束をプレゼントする。そのときの女の子は皆喜んでいた。


「論外」


「嘘だろ」


「あんなの喜ぶのはフィクションの中の女の子だけだよ。普通に邪魔だし」


 確かに。

 デート開始時に渡したら邪魔になるし、最後に渡す場合にそれまでどうしておくかが難しい。


 花束って現実的じゃないんだ。

 もともと渡すつもりはなかったけど、あれはフィクションの中だから許されるのかという現実には驚きだ。


「やっぱりついて来て良かったよ」


「じゃあどういうのがいいんだよ?」


「それはお兄が考えることでしょ。とにかく頑張って選びなよ」


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