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第25話 お買い物は誰とする①


 期末テストが終わった。


 日向坂さんから勉強を教わったことで苦手だった暗記系の科目の点数もそれなり。

 さらに教えることで上手く復習できたことにより、得意だった数学の点数がさらに伸びた。


 つまり、今回のテストはまずまず上々。どころの話ではなく、過去一番の結果となった。


 これは冬休みの臨時ボーナスが期待できるかもしれない。


 と、これから始まるウハウハな冬休みに胸膨らませていると、教卓に立ったクラスメイトの一人が黒板にチョークでなにかを書き始めた。


 放課後ではあるけど、皆それぞれがテストの終わりを噛み締めているのだろう。

 かくいう俺もその一人で、普段なら一目散に直帰するところだけど、ついつい答案用紙を眺めながら笑ってしまう。

 我ながら気持ち悪い。


「みんなー、ちょっときいてー」


 茶髪のちょっと派手目の雰囲気をまとう女子生徒。名前は……なんだっけな。


 しかし、いつも財津たちと一緒にいる女子生徒だというのはなんとなく覚えている。


 つまりこのクラスにおける一軍女子だ。そんなお偉い方が我々下々のものになんの用件があるというのだろう。


「テストも終わったしさ、せっかくだしみんなでクリパとかしない? カラオケとか予約して!」


 という陽キャ女子からの提案であったとさ。


 クラスに馴染んでいるやつらからすれば、二学期最後の、そしてなんなら今年最後の一大イベントになることだろう。


 だがしかし。


 残念ながら俺には無縁の話なんだよな。友達いないしな。行ってもぼっち極めるだけだし。


 しかし、そんな俺などお構いなしにクラスメイトは盛り上がる。これだけの人数が賛同するならイベント自体は決行されるだろう。


「じゃあここに紙貼っとくから参加する人名前書いてー。とりあえず今のところは行くって人も書いてくれていいから。できれば全員参加でよろー!」


 クラス会とはいうものの、結局一人や二人いなくても開催はされるし、全員参加といいながらも参加しても責任は取らない。

 全く、無責任な陽キャだな。

 なんて、自分の無力さが招いた惨状を他人のせいにするのはよくないな。


「志摩は参加するの?」


 相変わらず前の席で日向坂さんと話していた秋名がこちらを覗くように見てきた。


 ほんと、いつも一緒にいるね。

 羨ましいね。


「参加すると思うか? 友達いないんだぞ」


「参加すれば友達できるかもよ?」


「そんな簡単にできたら苦労ないわ」


「作る努力はしなよ。私と陽菜乃も参加しようかって話してるんだ。志摩も行こうよ」


「……いや、だから」


「友達、できるかもよ?」


 にいっとイタズラに笑う秋名と、その様子を見ながらくすくすと笑う日向坂さん。


「けど、せっかくなんだし参加してくれたら嬉しいけどね。わたしも、志摩くんに友達できると思うよ?」


「……」


 なにが言いたいのかはなんとなく分かる。

 そこまで言われて行かないとも言えないのだけど、そこまで言わせて行くと言うのも恥ずかしい。


 が。


 お膳立てをここまでされておいて、それで誘いに乗らないのはさすがに失礼だよな。


「……わかったよ。ただし、気づいたら帰ってるかもしれないぞ」


「だいじょーぶ。絶対楽しいって」


 なにを根拠にそんなことを言うんだ、と思う反面、常に楽しそうにしている秋名梓が言うと不思議と説得力があると感じてしまう。


「あ、そうだ。プレゼント交換したいから当日にはプレゼント買ってきといてね! 値段はー、そうだなー、千円くらい? で、よろ!」


 きゃるーん、とギャル子さんがクラスメイトに向かってそんな提案をする。

 クラスメイトはさっそくプレゼント交換をどうするかという話題で大いに盛り上がり始める。


 プレゼント交換だと?


 なんだよその文化。クリスマスにプレゼントを渡すのはサンタクロースだけで十分だろ。

 あのおじさんの仕事取ってやるなよ。


 プレゼント交換が始まって、俺のプレゼントが女子に渡り、中身を見た女子が「ないわー」みたいなこと言ってバカにされる未来が目に浮かぶ。


 プレゼント交換なんてセンス問われるイベント、俺が乗り切れるはずがない。


 無理だ。

 やっぱり参加するのやめよ。


「どしたん、この世の終わりみたいな顔して」


「さすがにそこまでではない」


「けど、なんかすごい顔してたよ?」


 秋名に続いて日向坂さんも心配してくれているようだ。


「いや、プレゼント交換なんかしたことないから」


「あー、志摩ってセンスなさそうだもんね。まあ頑張れ」


 他人事だと思って。

 他人事だけども。


「あ、それじゃあさ」


「おっす。陽菜乃も梓も参加するの?」


 日向坂さんがなにかを言おうとしたところで財津翔真がやってきた。

 ほんとにこいつは、いつもタイミングを見計らったように現れるな。


 見計らってんのか?


「うん。財津くんも?」


「もちろんだよ。それでさ、よかったら終業式のあとに買い物とか行かない?」


 財津がそんな提案をすると。


「ごめーん、私は部活があるんだ」


 へえ。

 秋名って部活入ってたんだ。

 何部なんだろ。


「そっか。陽菜乃は?」


 ちらと三人の様子を見る。

 財津はさほど残念な様子を見せることなく日向坂さんの方を向いた。


「……んー、わたしもちょっと予定があって。残念だけどパスかな」


「予定? 友達と?」


「あー、いや、友達……ではないのかな?」


 どうにも歯切れの悪い言い方に財津も違和感を覚えたらしく、さらに続ける。


「俺が参加したらまずい系?」


「う、うん。そうだね。まずいとかじゃないけど、気を遣わせちゃうから」


 知らない相手とどこかに行く予定に自分が参加できるか普通訊くか?

 どんだけ自分に自信があるんだよ。


 それでもその場所でやっていけるという自信ももちろんだけど、そもそもそこに自分なら入れるかもという自信がすごい。


 まあ。


 イケメンだしなぁ。

 見た目はいいもんなぁ。


 そんじょそこらの女子なら財津連れてけば喜ぶことはあっても、ブーイングなんて絶対飛んでこない。


 しかも悔しいことに相手を楽しませる技術も持ち合わせているのできっと楽しかったと言わせてみせるのだろう。


「そっか。じゃあ仕方ないか」


 と、財津が諦めを見せたところで俺は帰ることにした。


 プレゼント交換かぁ。


 一日考えて、無理そうなら本当に行くのやめようかな。

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