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第226話 トリック・オア・トリート①


「ハロウィンパーティーしよう!」


 十月下旬。

 昼休みにいつもの五人で弁当をつついていると、突然柚木がそんなことを言い出した。


 ハロウィンは十月三十一日。

 子どもがトリック・オア・トリートというお菓子が貰える魔法の言葉を手にする日だ。


 最近ではどうにもコスプレをする日、みたいな風潮があるらしく、テレビのニュースなんかでそういう光景を目にする。


 コスプレも狼男とか魔女とか、そういうハロウィンっぽいものに始まり、派生に派生を重ねて自由なコスプレをするようになっているし。


 日本ではいつしかそういう文化が定着したハロウィン。子どもはお菓子を貰うために呪文を唱え、大人はコスプレをして楽しむそんな日。


 けど。


「ハロウィンパーティーってなにするの?」


 俺が言おうとしたことを、陽菜乃がまんま口にした。おかげで質問する手間が省けた。


「んー、コスプレしてカボチャ食べるとか?」


「イメージそのままをとりあえずパーティーという形式に組み込んだだけじゃん」


 安直過ぎるだろ。


「まあまあ、要は適当に理由を用意してみんなで楽しもうぜってことだろ?」


「そう! それ! 優作くんは察しが良くて助かるよ」


 柚木が樋渡を指差しながら言う。

 そのあとに俺の方に視線を移してきた。


「それなのに隆之くんの察しの悪さといったら。あたしの気持ちも全然気づいてくれなかったし」


「そろそろ許してくれない?」


 最近はもうナチュラルにぶっ込んでくるようになって、俺も段々と慣れてきた。


 最初は無理をしていたのかもしれない柚木も、今では自然に接してくれている。それは俺も変わらないけれど。


 あの夏の告白を忘れることはないけれど。なかったことにはできないけれど。

 それでも俺たちはあの日までと変わらないように、友達でいることができている。


「ねえ、しようよ?」


 ハロウィンの日は土曜日だ。


「俺は大丈夫だけど」


「わたしも」


「今回は私も問題なし」


 俺、陽菜乃、秋名は問題なしと口にする。樋渡は確かバイトをしているから、急な誘いだと難しかったりするんだよな。


「夜なら大丈夫だけど」


「みんなは夜でもいい?」


 一同、こくりと頷く。

 翌日は日曜日だし、多少遅くなっても問題ないしな。


「それじゃあハロウィンパーティー決まりね!」


 結局なにをするのかはふわっとしたままだけど、みんながいるならきっと楽しいに決まってる。


「面白そうな話してるな」


 あれやこれやと話していると伊吹が後ろから声をかけてきた。その隣には木吉もいる。

 が、どうやら他の二人はいないらしい。四人グループではあるんだろうけど、二人ずつに別れてることが多いなと最近思う。


「二人も来るか?」


 ああ言ってくるということは、話もだいたい聞いていたんだろうと決めつけて俺は誘ってみた。


 一応、できる範囲で木吉のことを手伝うみたいなことも言ってしまったしな。


「いいのか?」


「いいだろ?」


 俺がみんなに訊くと反対意見は飛んでこなかった。けど、四人とも意外そうな顔をしていた。


「なに?」


「いや、流れ的に誘う方向には進むんだろうなとは思ってたけど」


「まさか隆之くんが誘うとはと思って」


「わたしたちはあんまり誘わないのに」


 失礼だな、と言いたいところだけど事実だったりするので何も言えないや。


「あれくらいナチュラルにあたしたちも誘ってほしいよね?」


 柚木の言葉に陽菜乃と秋名が「ねー?」と楽しそうに応じている。そんな三人は置いておいて、俺は再び後ろに向き直る。


「そういうわけだ」


「助かるよ」


 伊吹が言う。

 助かるのはお前の後ろで乙女みたいな反応見せてる木吉の方だろ。


「ハロウィンパーティーの詳細は追ってお伝えするのでお待ち下さい」


 柚木が二人にそう言った。

 そうは言いながらもハロウィンパーティーの話題はそのあとも続いた。



 *



「なんか、とりあえずコスプレをする方向には進んじゃってるね?」


「ああ。なんとか阻止したかったけど」


 コスプレとか恥ずかしいだろ。

 したくなかったので、何度か否定してみたけど柚木さん全然折れなかった。なんなら、コスプレは大前提で話が進んでいった。


「ちょっと恥ずかしかったりはするよね」


 あはは、と陽菜乃も少し後ろ向きな様子だ。


「小さい子ならともかく高校生がするのはどうなのさ」


 と、口にしたところでふと思う。

 小さい子、といえばもちろんあの子だ。


「ななちゃんならコスプレも似合うだろうな」


 なにしても似合うに違いない。

 全部可愛いだろうな。可愛いが限界突破しちゃうんだろうな。


「隆之くん、ななのことはすぐに褒めるー」


 むう、と陽菜乃がご機嫌ななめになる。妹を褒められるのがそんなに嫌なのか?


「え、ダメ?」


「ダメじゃないけど」


「可愛いから可愛いって言ってるだけなんだけどな」


「ちなみに、ななはハロウィンにコスプレすると思うよ」


「え、うそ、マジで?」


「食いつき方が尋常じゃない……」


 ちょっと引かれてしまった。

 俺はこほんと咳払いをして一旦仕切り直すことにした。


「どうしてななちゃんはコスプレを?」


「近所の子どもで集まって、家を回るらしいよ」


「へーなにそれ俺の家にも来てほしいなお菓子めちゃくちゃ用意しとくのに」


「隆之くん、ななにはほんとに甘いよね」


「悪いことじゃなくない?」


「そうだけどぉ」


 そう口にした陽菜乃はやっぱり不満げだ。実の妹に厳しい友達とか嫌だろうし、それに比べれば全然マシだと思うんだけど。


「隆之くんはコスプレどうするの?」


 陽菜乃が話を戻す。

 

「どうしようかね」


 出来ることならそもそもコスプレ自体を避けたいけど。

 どうしようもないからここはもう開き直るしかない。


「くるみちゃんがいろいろと見てくれてるみたいだし、ちょっと様子見かな。せっかくだから可愛いのがいいかも」


「急に前向きになったな」


 陽菜乃はそもそもが可愛いんだし、何着ても可愛くなくなることはないんじゃないだろうか。


「隆之くん、当日を楽しみにしててよね!」


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