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第14話 休日の二人④


 クレーンゲームを楽しんだというか、やり遂げた俺たちが次に訪れたのは子供用のゲームが並ぶエリアだ。


 ななちゃんはバーチャルで魚釣りができるゲームを楽しんでいる。

 それを俺と日向坂さんは少し後ろから見守っていた。


「あ、そうだ。さっきのクレーンゲームのお金渡さないと」


 言いながら、日向坂さんがカバンから財布を取り出す。


「いや、別にいいよ」


「え、でも悪いよ。ななのためにしてもらったのに」


「いやいや。あの笑顔見たら千円くらいなんとも思わないよ。孫におもちゃを貢いでしまうおじいちゃんおばあちゃんの気持ちが分かったくらいだ」


 俺が冗談っぽく言うと、


「ふふ、なにそれ」


 と、おかしそうに笑う。


 いや、まあ冗談ではないんだけど。

 もうあんな可愛い笑顔見せられたら何でも買ってしまうまである。


「それじゃあ、今回のところは甘えちゃおうかな。また今度返すね」


「いや、別に返されるほどのことしてないから」


 俺は本音を返す。

 この程度のことで貸しだ借りだなんて話を持ち出されるとキリがない。


「んー、でもなあ」


「どうしてそんなに納得しないんだ」


 貸し借りを作るのを嫌う人はいる。けど、こっちがそういうのはいいと言っているのだからいいのではないかと思うけど、落ち着かないのかね。


「んんー」


「じゃあ、またなにか奢ってよ。アイスクリームでもクレープでも、ケーキでも」


「志摩くんってそんなに甘いもの好きなの?」


「別にそういうわけじゃないけど。ラーメンでもたこ焼きでもハンバーガーだって構わないし」


 気持ちを返したいというのであれば、気持ちだけは受け取ってしまおう。


 このままお互いの意見を主張しあっても平行線だろうし。


「じゃあ、そうしようかな。なにか食べたいものがあったら言ってね?」


 まるでプレゼントをもらった子供のようなきらきらした笑顔を浮かべながら日向坂さんは言う。


 そんな彼女が可愛らしく思え、俺は照れ隠しをするように視線を逸らした。


「考えておくよ」


 なんだか甘酸っぱい空気になってしまい、どこか居心地の悪さを覚えた俺だったけど、ふと目の前にななちゃんが戻っていたことに気づく。


「うお、ビックリした」


「なな、終わったの?」


「うんー、いっぱいつれたー」


 うぇへへー、と自慢げに笑うななちゃん。そっかそっかいっぱい釣れたかー! と頭を撫で撫でしたくなる感情を必死に殺しながらクールを装う。


「そっか。それじゃあ、次に行く?」


「うんー!」


 日向坂姉妹のやり取りにほっこりしながら、二人の数歩あとを歩く。しかし、すぐに俺の方にやってきたななちゃんがぶらぶらと揺れる俺の手を握ってきて、にいーっと笑う。

 

 ほんまなんなんこの子。


「あ」


 そんな俺だったが、前を歩く日向坂さんがなにかに視線を奪われたことに気づく。


「どうかした?」


「あ、や、ええっと」


 分かりやすく動揺する日向坂さんはちらちらと視線を泳がせている。

 かと思いきや、なにかが気になるように視線を動かしていたことに俺が気づいたのはすぐあとのことだ。


 あれは……。


「ね、ねえ、なな」


「んー?」


「お兄ちゃんとあれ撮りたくない?」


 日向坂さんが指差す方をななちゃんが見る。しかしそれがなんなのか分からず、こてんと首を傾げた。


「なぁにあれ」


「お写真だよ」


「とりたい!」


「だよね!」


 というわけで、という顔をこちらに向けてくる。そのやり取りはせめて俺のいないところで打ち合わせてくれないだろうか。


 いずれにしても俺は渋るわけだが。


「いや、でもあれは」


 いわゆるプリクラ。

 女子高生はなんでかよく分からないけど撮りたがる不思議な写真だ。

 今どきのプリクラは加工技術が凄いらしくものすごく盛れるんだとか。

 スマホのアプリでも十分だろうと思うけどなにか違うらしく、とりあえずプリクラ撮っとく? と、とりあえず生いっとく? みたいなノリでプリクラを撮る。


 以上、俺の偏見でした。


「なな、撮りたいよね!?」


「とりたーい!」


「……いや、しかし」


 うぇーい!

 みたいにプリクラを撮ってる自分が想像できない。というかしたくない。


「なな!」


 日向坂さんに指示されたななちゃんは俺にぎゅうっと抱きついてくる。そして顔を見上げてきて、うるうるした瞳と共に上目遣い攻撃を仕掛けてきた。


「ねえおにーちゃん」


「仕方ねえなあ!」


 負けてしまった!

 俺ってやつは、なんて意志の弱い野郎なんだ。いや、今回の場合は俺の鉄の意志を砕いたななちゃんを褒めるべきか。


 というわけで流されるままに俺はプリクラの機械に入る。

 もちろんこんなところに入るのは初めてなので光景としては新鮮だ。四方八方どこもかしこも真っ白なのはなんなんだ?


「日向坂さんはよく来るの?」


「んー、まあたまにかな。友達と遊んだときにノリでね」


「出たよ、ノリ」


「なにか?」


「いや、陽キャって生き物はノリと勢いでなんでもやってのけるから」


「わたし別に陽キャじゃないと思うんだけど」


「どうだろうね」


 じゃあ陰キャかと言われるともちろんそんなことはない。消去法で陽キャだが、考えてみればそもそもその両極端な二択がおかしい。


 ◯◯キャは他にも種類を増やすべきだ。


 日向坂さんがコインを入れると、キャピキャピした声のアナウンスが始まる。『さぁー、はっじまっるよー!』みたいな。


 なにやら最初にフレームだなんだと選ぶ項目があるようだけど、全部日向坂さんに任せた。

 当然である。

 俺になにが分かると言うんだ。


 設定を終えると次は撮影タイムがいよいよ始まってしまう。最後の最後まで故障しねえかなあと願っていたが届かず。


 諦めて開き直る。


 アナウンスの指示に従い、数枚の写真を撮る。

 可愛くぶりっこポーズだとか、クールに決め顔だとか、他にもいろいろ。この瞬間を動画に撮られてたら多分恥ずかしくて死ねる。


 最後の一枚は好きなようにとの指示だった。そんなアバウトな指示だとこっちは棒立ち不可避だぞと思っていると、ななちゃんがこちらを向いて腕を広げてくる。


 それを抱っこの指示だと察した俺はななちゃんを抱き上げる。日向坂さんもこちらに近づき、三人仲良さげな笑顔の一枚が撮影された。


 すべての写真を撮り終えると隣のブースに移動して落書きやら加工やらができるらしい。


 もちろんお任せな俺はご機嫌に編集する日向坂さんと、楽しげに適当な落書きをするななちゃんを後ろから眺めていた。


 ちらと見えた最後に撮った写真は、自分でも驚くくらいに笑顔だったのがなんだか恥ずかしかった。

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