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第109話 夏の日のエンカウント②


 店内を徘徊し、気になったものを手に取り、じいっと眺めてもとに戻すを繰り返す。


 そうやって何店舗か回って、スタートから一時間ほど経過したにも関わらず、梨子はまだなに一つ購入していない。


 俺ならもう買い物終わってるまである。


 まあ、荷物持ちという役割を果たさずに済んでいるので助かっているわけだが、買い物してくれないと俺がここにいる意味がなくなるのでそろそろなにか買ってくれ。


「なんで何も買わないの?」


 次のお店へ行く道中、俺はふとそんなことを訊いてみる。


「なんかこれっていうのがないの。それに、買ったあとにそれよりいいやつ見つけたらイヤでしょ?」


「だから先にいろいろ見て回ってるって?」


「そゆこと」


 俺なんて服買うときはもう一つの店舗を決めてそこで気に入ったものを買っているだけ。

 何店舗も回るとか面倒だししんどい。


 しかも大抵同じ店で買うので家の服はだいたいブランドが同じである。


「服なんてそんな悩むことある?」


「お兄みたいなファッション下級者と一緒にしないで」


「急にディスるじゃん」


 下級者なのは認めるが。


 てこてこと歩きながら梨子がさらに続ける。


「お兄なんてどうせ適当に白シャツとジーンズ買ってるだけでしょ?」


「なに言ってんだよ、黒も買うぞ」


 けどだいたい白か黒である。

 俺の言い返した言葉に対し、梨子は呆れたように息を吐く。


「服を買うときには自分が持ってるものとどう合わせたら可愛いかなーとか考えながら選んでるの」


「へー」


 だから時間かかってんのか。

 そう言われると返す言葉が見つからないので、俺は黙って梨子について行くことにした。


 その後もあちらこちらに連れ回され、ひと通り回ったところで梨子は一度ふうと息を吐いた。


「ちょっと休憩する?」


「いや、別にいいよ。買い物済ませちゃおうぜ」


 言うと、梨子はやれやれという顔をする。なんでそんな呆れられないといけないんだ。


「お兄、女の子がこういう提案してきたときは乗らないと。『疲れたからちょっと休憩しよ』って言ってるんだよ」


「いや言ってないだろ」


「察しろって言ってるの。ほら、なんかアイスとか食べに行こ」


 じゃあ最初から『疲れたからちょっと休憩しよ』って言おうよ。お兄ちゃん察しが悪いから分からないよ。


「あ、あたしミックスジュース飲みたい」


 フードコートの前を通りがかったところで、目の前にあったジュース屋を見て梨子が言う。

 

「アイスとかじゃなくていいのか?」


「うん。それはあとでいいや」


 え、あとで食べるの?

 お腹壊すわよ。


「じゃあ、あたしミックスジュースでよろしく」


「は?」


 席を取りに行こうとした梨子は俺のリアクションを見てぴたりと動きを止め、こちらを振り返る。


 なにか? みたいな顔してる。


「俺が買う感じ?」


「うん。兄が妹にジュースを買うのは当然のことでしょ?」


「当然のことじゃないだろ。なんなら妹が兄に今日は付き合ってくれてありがとうという気持ちを込めてご馳走……ってこら、最後まで話聞けや」


 俺の言葉を最後まで聞くことなく、梨子はスタスタと歩いて行ってしまう。


 仕方ないな、と俺はミックスジュースを二つ買って梨子のもとへ向かう。

 二人がけの席を確保していたので、向かいの席に腰掛ける。


「ありがとー」


 上機嫌にお礼を言って、さっそくストローに口をつけミックスジュースを飲む。


 ミックスジュースなんて久しく飲んでいないなー、とか思いながらストローを口にする。

 子供の頃はなんかいろんな味が混ざってて好きじゃなかったけど、思っていたより全然美味しいな。



 *



 小休止を挟み、梨子の買い物が再会された。

 進む足に迷いがないところを見るに、ようやく買うものを定めたっぽい。ていうか、そうであってくれ。


「お」


 かと思いきや。

 さっきは覗いていなかった店の前を通りがかったところで、目移りしたのか足を止める。


 ていうか、よく見なくてもここランジェリーショップじゃん。


 店頭にはパステルカラーの下着を装着したマネキンがポーズを取って立っている。

 可愛いものもあるけど、マネキンのスタイルのせいかセクシーに見えてしまう。


「お兄ちゃん、梨子にはまだこういうの早いと思うな」


「うっさい」


「昔はくまさんのパンツとか穿いてたのに、こういうのに興味持ち出す歳になったのか。こんなので妹の成長感じたくないぞ」


「うっさい」


「もしかして彼氏とかいるんじゃないだろうな? お兄ちゃん許さないからな。中学生は中学生らしく放課後は友達とマックでシェイクしばいときなさい」


「うっさい……ていうか、なんでついてくるの!?」


 ランジェリーショップの中に入って気になった下着を手にしたところで、尤もなツッコミを入れてくる。


「さっきまでは外で待ってようとしてもついて来いってうるさかっただろ」


「一人で買い物してると思われたくないんだもん」


 なにそれ。

 一人で買い物してたらなにか悪いの? 俺、基本的に一人なんだけどなにか問題が?


「だからこの店でも仕方なく」


「仕方なくの感じじゃなかったし、下着は外で待ってていいのっ! ほら早く出てって!」


「……別に俺だって入りたくて入ったわけじゃないんだぞ」


 梨子が出てけと体を押してくるので俺は外に向けて歩き出す。


「言っとくけど、お兄ちゃん反対だからな。梨子にはこういうのはまだちょっと早いと」


「うるさいっ」


 俺と梨子のやり取りに周りがくすくすと笑う。しまった、目立ちすぎたと周りの人たちにぺこぺこ頭を下げながら店の外に出ようとした。


 したのだが。


「……」


 一人のお客さんと目が合った。


 まあ、普通に考えてランジェリーショップで下着を選んでいるお客さんと目が合うだけでも普通に気まずいんだけど。


「……た、隆之くん」

 

 それが知り合いとなれば、気まずさはさらに増す。


「……ええっと」


 彼女の手に視線が落ちる。

 そこには水色の下着があって、俺の視線に気づいた陽菜乃はそれをもとあった場所に戻す。


「どうも」


「あ、はい」


 ぺこり、と互いにお辞儀をする。

 もうワケわかんなさすぎて二人とも頭が回ってないんだと思う。


 だって、ランジェリーショップで下着を手にした同級生と遭遇して絶妙に気まずいときにかけるべき一言目なんて考えたことなかったんだもん。


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