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第四十五話:孤独な世界



2027年7月。黒桐翔人は、焰刃を手にウルトラゲートの赤紫の光に飛び込んだ。瞬間、視界が歪み、全身を包む異様な感覚が押し寄せる。異界への移動は何度か経験していたが、今回はどこか違う。いつもなら感じる重圧や瘴気の匂いが薄く、耳に響く微かなうなり音も聞こえない。足元が固まり、視界が晴れた時、彼は茫漠とした空間に立っていた。


異界と一口に言っても、毎回同じ場所じゃない。赤い砂と黒い空気の荒野、魔物が蠢く密林、歪んだ時間の森——これまで見てきた世界はそれぞれ異なっていた。だが、このウルトラゲートを潜った先は、まるで生命の息吹が絶えたような静寂に包まれている。灰色の地面がどこまでも続き、空は薄い霧に覆われ、遠くにぼんやりとした影のような地平線が見えるだけだ。風もなければ、音もない。まるで世界が停止したかのようだった。


翔人は焰刃を握り直し、周囲を見回す。いつもならすぐ襲ってくる魔物や敵の気配が、今回は全く感じられない。不思議な感覚が胸を締め付ける。この異界には、自分以外誰もいないような気がした。生命体の存在を示すかすかな脈動すらなく、ただ静かで、ただ広い空間が広がっているだけだ。


「麗亜……どこにいるんだ?」

小さく呟き、歩き出す。灰色の地面は硬く、足音だけが小さく響く。どれだけ歩いても景色は変わらない。果てしない平坦な大地が続き、見上げる空には太陽も月もない。ただ霧が漂い、薄い光がどこからともなく差し込むだけだ。いつもなら敵との戦闘で緊張が途切れない異界だが、ここでは時間が意味を失ったように感じられた。


ゲートを振り返ると、そこには何もなかった。入った瞬間に閉じてしまい、地球への道は消えている。戻る手段はない。だが、焦りよりも不思議な感覚が先に立つ。腹が減らないのだ。いつもなら数時間も戦えば空腹が襲ってくるのに、ここではその気配すらない。喉の渇きも、疲れもない。歩き続けても息が上がらず、汗すらかかない。尿意や便意すら感じない。体の自然な反応が全て停止したような感覚だ。


どれだけの時間が経ったのか。体感では5日ほど歩き続けた気がする。太陽も月もないから正確な時間は分からないが、地球なら5日も歩けば疲労で倒れるはずだ。だが、ここでは足が重くなることもなく、心臓の鼓動すら一定のままだった。焰刃を手に持つ感覚だけが現実を繋ぎ止めている。


「何だよ、この場所……異界ってこんなもんじゃなかっただろ?」

声に出して呟いても、返事はない。自分の声が小さく響き、すぐに霧に吸い込まれる。歩く。ひたすら歩く。景色が変わらないまま、ただ灰色の大地を進むしかない。敵がいない、生命がいない、時間の流れすら感じられないこの異界で、翔人は初めて孤独の重さを知った。


麗亜を探す意志だけが彼を突き動かす。だが、どれだけ歩いても誰もいないこの世界で、彼女の気配すら掴めない。不気味な静寂が心を侵し、それでも翔人は焰刃を握り締め、歩みを止めなかった。


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