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第四十二話:崩れゆく信頼を


2027年7月初旬。ワシントンD.C.のEDAアメリカ本部は、深夜の静寂が崩壊の轟音に飲み込まれていた。黒桐翔人の部屋を中心に、居住エリア全体が戦闘の余波で壊滅的な被害を受けていた。かつて整然と並んでいたコンクリートの建物は、壁が崩れ落ち、鉄骨が剥き出しになり、瓦礫の山と化している。焰と水のオーラがぶつかり合った痕跡が至るところに残り、焦げた匂いと冷たい水滴が混じり合う異様な空気が漂う。


被害は甚大だった。翔人と麗亜が使っていた相部屋は原型を留めず、周囲の居住棟も半壊状態。EDAのハンターやその家族が暮らすエリアだったため、無関係な者たちも巻き込まれていた。瓦礫の下から悲鳴が上がり、血を流して倒れる者、混乱の中で逃げ惑う者。負傷者の数は数十人に及び、駆けつけた救援隊が慌ただしく動き回る中、夜空に煙と埃が立ち込めていた。


その惨状の中心に、ジェイク・ハドソンが立っていた。革ジャンを羽織ったまま、銃を腰に下げた彼の顔は、いつもより硬くこわばっている。目の前にあるのは、ビクターの死体だ。かつて共に戦ったS級ハンターは、胸に深い傷を負い、使い込まれたナイフを握ったまま冷たくなっていた。ハドソンは低く呟く。

「やっちまったな……」


ビクターの死体を見下ろしながら、彼の頭は混乱に包まれる。アレクサンダー・クロフト——アメリカ大統領の息子であり、従兄弟である男からの命令だった。翔人たちがウルトラゲートや天鳳霞を詮索したことで、ビクターに暗殺を命じたのは明白だ。だが、こうなることは想定外だった。ハドソンはフレイムイーグルを手に持ち、炎弾を放つ。赤い炎がビクターの体を包み、瞬く間に灰に変えた。証拠を消すためだ。だが、その手は微かに震えていた。


視線を動かすと、瓦礫の中で倒れている翔人が目に入る。血まみれで意識を失い、焰刃がそばに落ちている。ハドソンは近づき、彼の脈を確認した。まだ生きている。急いで腕を掴み、瓦礫から引きずり出し、安全な場所に運ぶ。保護する形にはなったが、ハドソンの頭はアレクへの言い訳で一杯だった。

「どうすりゃいい……こんな大事になっちまって、アレクに何て言えば...?」


いい案が浮かばない。龍化を防ぐために翔人をアメリカに呼んだのは自分だ。情が湧いて弟子にしたのも勝手な判断だった。人と関わるのが好きな性分が、こんな結果を招いた。頭を振って考えを振り払おうとするが、胸のざわつきは収まらない。


その時、腰の通信機が鳴った。緊急信号だ。ハドソンは顔をしかめつつ応答する。アレクサンダーの声が即座に響き、冷たく鋭い口調が耳を刺す。

「ハドソン、今すぐ黒桐翔人と一緒にこっちへ来い。状況は分かってる」

ハドソンは一瞬言葉に詰まり、抵抗を試みた。

「いや、ちょっと待てよ。アレク、電話で済まねぇか? こっちはまだ混乱しててさ——」

「それはできない」

アレクの声は有無を言わさず、ハドソンを黙らせた。通信機の向こうで僅かな沈黙が流れ、続けて低い声が響く。

「お前がどう思おうと、龍化が起きた事実は消せない。すぐに来ることだな」


ハドソンは通信機を握り潰しそうになりながらも、返事を絞り出す。

「……分かったよ。すぐ行くぜ」

通信が切れると、彼は倒れている翔人を見下ろした。血と埃にまみれた弟子の顔は、意識がないまま静かだ。ハドソンは膝をつき、小さく息を吐く。

「ったく……これからどうすりゃいいんだよ」


内心では、アレクサンダーの目論見が頭をよぎる。そして、龍化がその計画にどれだけ脅威を与えるか。ハドソンは知っている。アレクがビクターを送り込んだのも、翔人を監視させていたのも、全てそのためだ。だが、こうして目の前で龍化が起きてしまった今、言い訳は通用しない。


瓦礫の中で救援隊が動き、遠くでサイレンが鳴り響く中、ハドソンは立ち上がった。翔人を肩に担ぎ、崩れた居住エリアを後にする。ビクターの灰が風に舞い、夜空に消えていく。ハドソンの足取りは重く、アレクとの対面を想像しながら胸に暗い不安が広がっていた。崩れた信頼の先に、彼の覚悟が試されようとしていた。


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