第四十話:機転
2027年7月初旬。ワシントンD.C.のEDAアメリカ本部の翔人の部屋は、深夜の静寂を切り裂く戦闘の熱気に包まれていた。2人のオーラが激しくぶつかり合い、壁に亀裂が走り、床に血が飛び散る。黒桐翔人は焰刃を握り締め、ビクターの冷たい殺意と向き合っていた。部屋を照らす赤い炎と青い水流が交錯し、緊迫した空気が張り詰めている。
ビクターの「戦闘集中・流」が放つ青いオーラは、水のように滑らかで鋭く、彼の動きはまるで影を泳ぐ魚のようだ。「流水影刃」が再び放たれ、ナイフから迸る水流が分裂し、無数の刃となって翔人を襲う。翔人は焰刃を振り抜き、「焔水連刃」で応戦。炎と水が混じり合った斬撃が水刃を弾くが、勢いを殺しきれず、肩に浅い傷が刻まれた。
「くそっ……炎だけじゃ歯が立たねぇ」
翔人は息を荒げながら気づいた。ビクターの水の力が自分の焰を抑え込み、熱を冷ましてしまう。このままじゃ勝てない。ビクターが冷たく言い放つ。
「いくら強くなろうが、俺の前では無力だ。もう諦めろ」
ビクターが「ナイフレイン」を繰り出し、青いオーラを纏ったナイフが雨のように降り注ぐ。翔人は焰刃を盾のように構え、炎を纏わせて防ぐが、水の勢いに押され、床に膝をついた。血が滴り、焰の熱が薄れる。だがその瞬間、頭に閃きが走る。
「麗亜を助けるためにも。ここで死ぬわけにはいかねぇ!」
その思いが胸を焦がし、翔人は焰刃を握り直した。行き当たりばったりでも構わない。体内に眠る水の魔力を体に循環させる。すると、全身を覆う赤いオーラが揺らぎ、青白い水流が混じり始めた。焰の熱が抑えられ、まるで流水のように滑らかに動き出す。
「戦闘集中……流!」
翔人が目を開け動き出すと、彼の動きは一変していた。いつもの直線的で力任せな攻撃ではなく、水流のようなしなやかさが加わり、焰刃が軽やかに弧を描く。ビクターのナイフをかわし、距離を詰めて斬りかかる。だが、精度はビクターには遠く及ばない。水の魔力が不安定で、焰刃から溢れる青白い光が時折途切れる。それでも、翔人はさらに水の力を引き出そうと力を振り絞った。
ビクターの瞳が僅かに揺れた。
「お前も水を使えるんだったな。だが、付け焼き刃の力なんて、ないのも同然だ」
彼の「戦闘集中・流」が一段と輝きを増し、青いオーラが部屋を満たす。ナイフが水流と化し、「流水影刃」が嵐のように襲いかかった。翔人は焰刃を振り回し、水の斬撃で応戦するが、ビクターの洗練された攻撃にを防ぐのでいっぱいだった。滑らかな軌道が影を縫い、翔人の背後に回り込むと、ナイフが首筋を斬りつける。
「ぐっ……!」
血が噴き出し、翔人がよろめく。ビクターの攻撃は止まらない。「ナイフレイン」が再び降り注ぎ、翔人は焰刃で防ぎながら叫んだ。
「お前がどれだけ強くても、俺は諦めねぇ! 麗亜を助けるんだ!」
ビクターが冷たく笑う。
「水瀬なんて諦めればよかったんだ。そうすれば俺とお前はこれからも仲間でいられたのにな」
翔人は歯を食いしばり、水の魔力をさらに引き出した。焰刃から青白い水流が溢れ、床に滴る。だが、ビクターの「流」は圧倒的だった。ナイフが水流を纏い、翔人の胸を狙う。かわしきれず、刃が深く刺さり、血が噴き出した。
「がはっ……!」
翔人が膝をつき、焰刃を支えに倒れ込む。視界が揺れ、意識が薄れる。
ビクターがナイフを構えたまま、低く呟いた。
「楽しい戦いだったぜ」
翔人の耳にその言葉が届いた瞬間、ビクターのナイフが再び振り下ろされる。死が目前に迫る中、翔人の意識は麗亜の笑顔に縋り、闇に飲まれた。
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