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間話:デート!③



4月中旬のワシントンD.C.は、夕暮れが街をオレンジ色に染めていた。黒桐翔人と水瀬麗亜はデートを終え、EDAアメリカ本部へと帰路についていた。春の風が二人の間を抜け、穏やかな余韻が残る中、翔人は隣を歩く水瀬をチラリと見た。

「なぁ、水瀬。今日ほんと楽しかった、ありがとう」

水瀬が小さく微笑んで頷いた。

「うん、私も楽しかったよ、黒桐。次はもっと美味しいもの探しに来よう」


二人が本部近くの静かな通りを歩いていると、突然、空気が重くなった。地面が微かに震え、遠くで赤黒い光がチラついた。翔人が眉を寄せた。

「何だ? この感じ……ゲートか?」

水瀬が目を細め、即座に周囲を見回した。

「うん、間違いない。A級だよ。あそこ、見て」

指さす先には、本部から数百メートル離れた空き地に、歪んだ空間が広がっていた。赤黒いオーラを放つA級ゲートが、夕陽の下で不気味に輝いている。ゲートから現れたのは、Aランクの鎧竜——巨大な体に硬い鱗を纏った二足歩行の魔物だ。その背後には、Bランクの狼が3体、唸り声を上げて続いていた。


翔人は腰にかかっている焰刃を手に持つ準備をしたが、今日は置いてきてしまったことを思い出した。

「焰刃がねぇ……まぁ、素手でも何とかなるか」

水瀬が冷静に言った。

「黒桐、無茶しないで。私が援護するから、少し時間稼いで」

「任せとけ!」

翔人が地面を蹴り、「戦闘集中」を発動。焰は使わずとも、心臓に魔力を集中させ、全身が熱く脈打つ。水を纏った足で「霧影迅」を放ち、鎧竜の懐に飛び込んだ。素手で鱗を殴ると、硬い感触が手に響いた。

「思ったより硬いな!」

拳を連打し、鎧竜の動きを鈍らせると、狼が横から襲いかかってきた。


水瀬は一歩下がり、「氷の加護」を展開。両手を広げ、「氷刃乱舞」を放つ。鋭い氷の刃が狼を切り裂き、1体を瞬時に仕留めた。

「黒桐、左に気をつけて!」

翔人が振り返り、狼の爪をギリギリでかわした。

「ナイスだ、水瀬!」

二人の連携は息が合っていた。翔人が鎧竜を引きつけ、水瀬が氷で狼を牽制する。だが、戦いが続く中、油断が生まれた。


鎧竜が巨腕を振り上げ、地面を叩きつけた。衝撃波が広がり、珍しく水瀬がバランスを崩した。その瞬間、残る狼が彼女に飛びかかった。

「水瀬ッ!」

翔人が咄嗟に動いた。水を纏った足で加速し、水瀬の前に立ちはだかる。狼の爪が翔人の肩をかすめ、赤い線が走った。

「ぐっ……!」

痛みを堪え、素手で狼の首を掴み、地面に叩きつけた。続けて拳を振り下ろし、狼を沈黙させる。


水瀬が立ち上がり、目を丸くした。

「黒桐、大丈夫!?」

翔人が肩を押さえながら笑った。

「平気だよ、これくらい。かすり傷だ」

水瀬が唇を噛み、「凍壁の守護」を展開。氷の盾で鎧竜の攻撃を防ぎながら、静かに言った。

「無茶しないでっていったのに……でも、ありがとう」

今日はやけに素直だなと笑った。

「いつも守ってくれてたもんな。これからは俺が守ってみせるさ」


水瀬が深呼吸し、「氷嵐の制圧」を放つ。広範囲に氷の嵐が吹き荒れ、鎧竜の動きを封じた。翔人がその隙に飛び込み、素手で鱗の隙間を狙う。拳に魔力を込め、何度も叩きつけると、鎧竜が膝をついた。

「終わりだ!」

最後に水瀬が「極寒の楔」を放ち、氷の槍が鎧竜の胸を貫いた。魔物が崩れ落ち、ゲートが消え去る。


戦闘が終わり、二人は息を整えた。翔人が肩を回して言った。

「折角のデート終わりにゲートとはな。まぁ、いい運動になったか」

水瀬が近づき、翔人の肩の傷をそっと見た。血が滲んでいるのに、彼は平然としている。それを見て、彼女の胸が熱くなった。



水瀬が一瞬目を閉じ、意を決したように言った。

「……翔人、ありがとう。君がいてくれて、よかった」

翔人が目を丸くした。

「え、お前..いま翔人って...」

水瀬が少し頬を赤らめて笑った。

「だって、さっきの戦いで思ったんだ。黒桐って呼ぶより、翔人の方がしっくりくるって。私、君のこと、もっと近くで感じたいなって」


翔人が照れ臭そうに頭をかき、目を逸らした。そして、小さく笑って言った。

「そっか……じゃあ、俺もさ。麗亜って呼んでいいか?」

水瀬——いや、麗亜が驚いて顔を上げた。

「うん……いいよ。その方が嬉しい」

翔人がニッと笑った。

「よし、決まりだな、麗亜。これからもよろしくな」

麗亜が頷き、二人は見つめ合って笑った。


夕陽が完全に沈み、夜の帳が降りる中、二人は肩を並べて本部へ戻った。デートは思いがけない戦闘で締めくくられたが、翔人と麗亜の絆は一層深まった。互いを下の名前で呼び合うようになったこの日が、二人の新たな始まりだった。


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