第二十五話:時剣と予知の狭間
2027年2月中旬、マサチューセッツ州の森は戦塵と血に染まっていた。黒桐翔人は焰刃を手に、雪と泥にまみれた地面で息を整える。S級ゲートから溢れ出したAランクの装甲巨人型18体とクロノファージ末端個体2体が、目の前で蠢いている。水瀬麗亜が隣で「氷の加護」を纏い、鋭く静かな声で告げた。
「黒桐、敵はまだいるよ。気を抜かないで」
「分かってる。協力していくぞ」
戦闘開始時、翔人は「戦闘集中」を発動していた。心臓に魔力と熱を集中させ、一気に解放。全身が熱く脈打ち、筋力が上がり、視界がクリアになる。ドライブモードに切り替わり、焰刃の斬撃が鋭さを増す。今は戦闘開始から3分、残り2分が限界だ。魔力が常時減り続け、息が荒くなるが、まだ戦える。
「『霧影迅』!」
水を纏った足で加速し、末端個体の胸を狙う。焰刃が黒いバリアを貫き、ローブを切り裂く。水瀬が「氷刃乱舞」で援護に回り、鋭い氷の刃がバリアを削る。
「黒桐、今だよ!」
焰刃が仮面を突き刺し、黒い血が噴き出す。末端個体1体が倒れ、残りは1体に。
「あと1体だ。楽勝じゃねぇか」
アメリカS級3人——マーカス、リサ、ビクター——が装甲巨人型を蹴散らし続ける。戦闘開始時に「戦闘集中」を発動済みで、全力でも10分は持つ彼らの動きに無駄はない。マーカスが巨人のハンマーを拳で受け止め、膝蹴りで甲殻を砕く。リサが風を纏い、短剣で巨人を切り裂き、血と肉片が雪に飛び散る。ビクターが影から飛び出し、ナイフで首を切り落とす。18体の巨人が次々と倒れるが、ゲートの赤黒い光がさらに強まった。
ジェイク・ハドソンが後方でフレイムイーグルを手に観察を続け、静かに呟く。
「いい動きだぜ、アメリカン。だが、まだ本気じゃねぇな」
ゲートが突然脈動し、新たな敵が現れた。クロノファージの幹部——黒いローブの剣士と灰色ローブの魔術師だ。剣士は無口で冷徹、仮面の下から鋭い眼光が覗く。魔術師は知的な瞳で静かに微笑み、異界の翻訳機のようなものが首元で光る。2人がゲートから出てくると、剣士がハドソンに敬語で話しかけた。
「あなたはハドソン様でございますね。お初にお目にかかります。我々はクロノファージの使者。此度の目的は、覚醒者の異界への拉致、そして貴国の調査でございます。どうぞ、邪魔はなさらぬよう」
ハドソンは初めて焦りを浮かべた。
「へぇ、丁寧だな。だが、俺の仲間を連れてくつもりなら、ただじゃ済まねぇぜ」
「この気配、今まで戦ってきた中でも一番やべぇオーラだ……」
翔人が焰刃を構え直すと、水瀬が鋭く静かな声で言った。
「黒桐、あれは別格だよ。私たち5人でもよくて互角かもしれない」
剣士が剣を振ると、時間が減速する。翔人の動きが鈍り、焰刃を振り上げる速度が落ちる。魔術師が数秒先を予知し、剣士の剣が水瀬の「氷刃乱舞」を正確に弾く。末端個体が波動を放ち、巨人が再び動き出す。
「くそっ、動きが重ぇ!」
翔人が「焔水連刃」を放つ。焰刃から炎と水が連続で迸り、末端個体のバリアを削る。水瀬が「氷嵐の制圧」で援護し、広範囲に氷の嵐を巻き起こしてバリアを砕く。焰刃が末端個体の胸を貫き、黒い血が噴き出し、2体目が倒れた。
「これで末端は終わりだ。次はお前らが相手だな」
アメリカS級3人が幹部に挑む。マーカスが剣士に突進し、拳で剣を受け止めるが、時間が減速し動きが止まる。リサが風を纏い側面を狙うが、魔術師が予知で回避を指示し、剣がリサの腕をかすめる。ビクターが影から奇襲をかけるが、剣士の減速波動でナイフが遅れ、魔術師が「氷刃乱舞」をかわす。
「何だこの連携!?」
翔人が剣士に突進し、「蒼炎衝」を放つ。炎と水の螺旋が剣士を襲うが、時間が減速し螺旋が途中で鈍る。剣士が剣を振り下ろし、焰刃と激突。火花が散り、衝撃で翔人が後退した。
「速ぇ……いや、俺が遅ぇのか?」
水瀬が魔術師に「氷刃乱舞」を連射する。
「黒桐、私が時間を稼ぐよ。集中して!」
氷の刃が魔術師のバリアを削るが、彼女が予知で回避し、末端個体の波動を再現。巨人が再び動き出し、マーカスが応戦する。魔術師が敬語で呟いた。
「申し訳ございません。これも任務ゆえでございます」
水瀬が「凍壁の守護」を展開し、氷の盾で波動を防ぐ。だが、時間が歪み、翔人の動きが一瞬止まる。剣士が剣を振り下ろし、焰刃が弾かれる。雪に叩きつけられ、血が噴き出した。
魔力が底をつきかけ、「戦闘集中」が4分半で強制解除される。息が荒くなり、手が震える。水瀬が「極寒の楔」で剣士を牽制し、鋭い氷の槍が剣士の動きを一瞬止める。リサとビクターが連携で魔術師を狙うが、予知と減速でかわされる。マーカスは巨人を拳で砕くが、数が減らない。
ハドソンがフレイムイーグルを構え、ついに動き出した。
「お前ら、本当によくやってるぜ。だがこれ以上見てられねぇ、俺が出るっきゃねぇな!」
銃口が火を噴き、「フレイムショット」が剣士のバリアを貫く。剣士が一瞬膝をつくが、魔術師が時間を巻き戻し、傷が再生する。ハドソンが焰弾を巨人に乱射し、「フレイムダッシュ」で位置を変えながら5体を焼き払った。
「坊主、立てよ! まだ終わってねぇだろ!」
翔人が焰刃を拾い上げ、立ち上がる。
「あぁそうだな。俺の戦いはまだ始まったばかりだ」
水瀬が「氷嵐の制圧」で魔術師を攻撃し、氷の嵐が魔術師の動きを鈍らせる。剣士が剣を構え直す。戦塵と血が舞う森で、熱と氷、アメリカの嵐がクロノファージ幹部と激突した。
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