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第二十一話:燃える魂達


2027年1月末、冬の夜が深まる中、EDA日本支部の正門に一台のバイクが轟音を立てて停まった。紅葉理架——鬼の末裔と呼ばれるS級ハンターが、ヘルメットを脱いで長い赤髪を振り払う。革ジャンに身を包み、鋭い目つきで支部を見上げる。久しぶりに戻るこの場所は、彼女にとって懐かしさと苛立ちが混じる場だった。

「ちっ、相変わらず冷てぇ雰囲気だな」

紅葉は低く呟き、歩き出した。


会議室では、黒桐翔人が椅子に腰掛け、少し緊張しながらも冷静に努めていた。水瀬麗亜が隣に立ち、窓の外を見つめる。高橋と太田がモニターの準備を進めていたその時、ドアが勢いよく開いた。

「おう、遅くなって悪かったな。高橋、さっさと始めようぜ」

紅葉の荒々しい声が響き、翔人が顔を上げる。ピカピカの革ジャンに赤髪が目を引く女がそこにいた。

「こいつが……紅葉理架か?」

翔人は思わず呟き、彼女の眼光に気圧されそうになる。高橋が冷静に答えた。

「紅葉、よく来てくれた。座ってくれ、報告を聞きたい」

紅葉は椅子にドカッと腰を下ろし、水瀬と目が合うが、彼女は顔を背け、紅葉も視線を外す。二人の間に冷たい空気が流れた。


「紅葉理架、『鬼の末裔』だ。そいつの同期で九州の『鬼刃ギルド』を率いてる。よろしくな、新入り」

紅葉が翔人に目を向け、ニヤリと笑う。翔人も負けじと返す。

「黒桐翔人だ。S級って聞いてたから、どんな奴か気になってたんだぜ」

「へぇ、熱そうな目してんな。お前、嫌いじゃねぇよ」

紅葉の言葉に、翔人は少し驚きつつも笑った。熱い心が通じる瞬間だった。高橋が咳払いをして話を進める。

「紅葉、九州でのS級ゲートの報告を頼む。クロノファージの動きはどうだ?」


紅葉が大剣の柄に手を置いて話し始めた。

「鬼刃ギルドで九州のS級ゲートを潰した。クロノファージの中核っぽい奴がいたぜ。黒いローブに仮面、異界語を喚いてた。『ガルナ・ゾルディス』だの『クルマ・ヴェク』だの、うるせぇったらない。俺が鬼の爪でぶちのめしてやったが、そいつ、妙にタフだった。A級程度なら即死の攻撃でも平気で立ち上がってきやがった」

翔人が身を乗り出す。

「そいつ、俺たちが新潟で倒したS級と似てるな。黒い波動を放ってきて、すげぇ硬かった」

紅葉が頷く。

「ああ、斥候より格上だ。クロノファージが本気を出してきた証拠だぜ。で、調査の続きだが——」

彼女が太田に書類を渡し、高橋がモニターに映した。


「鬼刃ギルドのA級連中が九州のゲート跡を調べた。クロノファージの残骸から妙な痕跡が出てきた。中国のゲートと繋がってる可能性がある。奴らが中国のどこかで蠢いてる噂があってな。奴らの拠点が異界だけじゃねぇとしたら、厄介だ」

水瀬が初めて口を開くが、紅葉を見ずに高橋に言う。

「中国のS級ハンターが動いてないのが不自然だね。槍使いがいるはずなのに」

紅葉が鼻で笑う。

「そいつがクロノファージと手を組んでる可能性もあるって話だ。俺は信じねぇが、噂は噂だぜ」

翔人が眉を寄せる。

「中国がクロノファージと繋がってる? んな大ごとになると、俺たちだけでどうにかなるのか?」

高橋が重い声で答えた。

「だから紅葉を呼んだ。アメリカ行きも近いが、日本での動きも見逃せん。クロノファージの目的が分からん以上、全方位で備えるしかない」


会議が終わり、紅葉が立ち上がる。水瀬は無言で部屋を出るが、紅葉は彼女を一瞥もしなかった。二人の間に会話はなく、ただ冷たい空気だけが残った。翔人が紅葉に声をかける。

「水瀬とはホントに合わねぇんだな。同期ならもうちょい話してもいいだろ」

「アイツの冷めた態度が気に入らねぇだけだ。初めて会った時からそうだぜ。お前はどう思う?」

「俺は……水瀬には助けられてる。冷静でも頼りになるよ」

紅葉がニヤリと笑う。

「熱い奴だな、お前。いいな、そういう奴は嫌いじゃねぇ」


その夜、紅葉が提案した。

「おい、新入り。せっかく会ったんだ、地下で軽く手合わせしようぜ。俺の力、見せてやるよ」

翔人が目を輝かせる。

「いいね。俺も戦ってみたかったんだ」

高橋が許可を出し、地下訓練場へ向かった。水瀬は見学を拒否し、部屋に戻る。


地下訓練場、冷たいコンクリートの床に紅葉と翔人が向き合う。紅葉が拳を突き出し、ニヤリと笑う。

「準備しろよ、新入り。瞬殺してやるぜ」

翔人が短剣を構え、息を整えた。

「来いよ、鬼の末裔!」

戦闘が始まった。


紅葉が一歩踏み込み、拳を振りかぶる。翔人が「霧影迅」で加速し、横に跳ぶが、彼女の動きは思ったよりも早い。

「遅ぇ!」

紅葉の拳が翔人の腹を捉え、壁に叩きつけられた。息が詰まり、短剣が手から落ちる。

「ぐはっ!」

「『戦闘集中』だ。俺の体が一瞬で限界を超える。近接戦闘の基本だぜ!」

彼女が再度突進し、翔人を薙ぎ払う。翔人は「焔水連刃」で反撃を試みるが、紅葉の鬼の爪が短剣を弾き飛ばし、膝蹴りが胸に直撃。瞬時に床に叩きつけられた。

「終わりだ、新入り!」

瞬殺だった。


翔人は息を荒げ、床に這ったまま見上げる。

「くそっ……何だ、その速さと力は……!」

紅葉がこんなこともできないのか、と笑った。

「俺の強さの秘密か? 『戦闘集中』だよ。

身体中に散っている魔力を一瞬で一箇所に集めて肉体の限界を高める技さ。集中すれば、一瞬で筋力も反応も限界を超える。お前、熱い目してんな。教えてやるよ」

翔人が目を輝かせる。

「マジか! 俺にもその技、使えるのか?」

「熱い奴ならな。お前ならいけるぜ。俺と似た魂持ってるしよ」

二人は笑い合い、意外なほど意気投合した。


その後、紅葉は翔人に「戦闘集中」の基本を伝えた。呼吸を整え、散らばった魔力と熱を心臓に集中させる。翔人は何度も試し、汗にまみれながら少しずつコツを掴む。

「くそっ、まだだ……集中が足りねぇ!」

「焦んな、新入り。熱い心があれば、そのうちモノにできるぜ」

紅葉の荒々しい声に、翔人は歯を食いしばった。俺は水瀬にも、紅葉にも負けたくねぇ。


夜が明ける頃、紅葉が去る前に言った。

「新入り、お前がアメリカでクロノファージをぶちのめすってのなら、俺は日本を守る。熱く戦えよ」

「ああ、任せとけ。俺もお前を超えれるように頑張るぜ」

冬の夜、EDA日本支部に熱い風が吹き込んだ。紅葉理架との出会いが、翔人の魂に新たな火を灯した。クロノファージとの戦いが迫る中、彼は紅葉の教えを胸に刻んだ。


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