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第二十話:鬼の爪痕と遠い呼び声


2027年1月下旬、冬の冷気がEDA日本支部の会議室を満たしていた。黒桐翔人は椅子に腰掛け、自前の短剣を膝に置いて刃の状態を確かめていた。目の前ではリーダーの高橋がモニターに映るゲートの映像を睨み、重い声で告げた。

「黒桐、水瀬。新潟でA級ゲートが発生した。クロノファージの痕跡が濃厚だ。2人で処理に向かえ」

隣の太田が書類を手に補足する。

「敵はAランク複数と、S級の可能性もある。慎重に進め。もう一人のS級にも連絡したが、返事はない」

翔人が目を細める。

「そのもう一人って、例の『鬼の末裔』か?」

高橋が頷き、淡々と答えた。

「紅葉理架だ。鬼の血を引くS級ハンター。今は九州に引きこもってるが、動く気配はない。悪いが、2人だけで頼む」

水瀬麗亜が冷たく返す。

「私たちで十分だよ。黒桐がしっかり動ければね」

「分かってるよ。準備はできてる」

翔人は短剣を手に持つ癖を抑え、膝に置いたまま軽く叩いた。紅葉理架——名前だけじゃどんな奴か分からないが、会えねぇなら仕方ない。


新潟の雪深い山間、ゲートが光る荒野に到着した。吹雪が視界を白く染め、膝まで埋まる雪が足を重くする。冷たい風が頬を切り、息が白く凍る。翔人は短剣を手に、水瀬が氷の結晶を漂わせて周囲を見渡した。高橋の言葉を思い出す——クロノファージの痕跡が濃厚。油断したら死ぬ。

「水瀬、気配はどうだ?」

「まだ分からない。でも、何か重いものが潜んでる気がする」

彼女の冷たい声に、翔人は首を振って気合を入れた。すると、雪煙の中から魔物が姿を現す。Aランクの熊型2体と、クロノファージの末端らしき人型1体。熊の咆哮が雪を震わせ、人型が異界語を低い声で呟いた。

「ザルナ・ヴェク……クルディス・タル!」

「来やがった!」

翔人が飛び出した。


「『霧影迅』!」

水を足に纏わせて加速し、熊の喉を一閃で切り裂く。血が雪に飛び散り、倒れる。水瀬が後方から指示を飛ばした。

「黒桐、人型が厄介だ。気をつけて」

「分かってる! 『蒼炎衝』!」

炎と水が螺旋状に絡み、人型を貫くが、黒い波動が弾き返し、熊のもう一頭が襲いかかってきた。翔人が「焔水連刃」で応戦し、連続斬りが熊の前足を切り裂く。水瀬の氷の槍が援護し、熊が雪に沈む。だが、人型が剣を振り上げ、黒い衝撃波を放った。

「ガムラ・タルナ!」

雪原が揺れ、翔人は跳び下がるが、衝撃波が肩をかすめて血が噴き出す。

「ぐっ!」

水瀬が氷の嵐で反撃し、人型を凍結させる。だが、氷が砕け、敵が再び動き出した。S級の強さだ。

「やっぱりS級か……!」

「黒桐、私が引きつける。隙を作って」

水瀬が氷の盾を展開し、人型の剣撃を防ぐ。翔人は歯を食いしばり、短剣に力を込めた。

「『黒炎貫』!」

一撃が人型の胸を貫くが、敵は倒れねぇ。異界語を叫び、黒い波動が広がった。

「ゾルディス・ヴェク!」

雪原が爆ぜ、翔人と水瀬が吹き飛ばされる。水瀬が氷の刃を放ち、敵の頭を貫いた。黒い血が噴き出し、ゲートが消えた。

「終わったな……」

「S級だったね。クロノファージの末端だろうけど、強かった」


支部に戻ると、高橋が新たな情報を切り出した。

「今回のS級はクロノファージの斥候だ。さらに興味深い報告もある。九州で紅葉理架——『鬼の末裔』が率いる『鬼刃ギルド』が、A級ゲートを複数処理したらしい。クロノファージの痕跡があったと彼女から連絡が来た」

翔人が興味深げに問う。

「鬼刃ギルド? 紅葉ってのは何者なんだ?」

太田が答えた。

「紅葉理架は鬼の血を引くS級ハンターだ。九州出身で、鬼の爪と牙、肉体強化で敵をぶちのめす近接型の戦士。プライドが高く荒々しい性格で、水瀬とは同期で不仲だった」

水瀬が明らかに嫌そうな顔をして口を開く。

「彼女とは性格が合わなかっただけ。私の冷静さが『生意気』だって」

高橋が続ける。

「紅葉は今、九州に拠点を置いて『鬼刃ギルド』を設立してる。A級ハンターを束ねて、日本南部を守ってる。だが、EDAの命令には従わず、自分のルールで動く気まぐれな奴だ」

翔人が呟く。

「鬼の末裔か……強そうだな。いつか会うことになるのか?」

「彼女がここに顔を出せばな。水瀬と紅葉はほぼ互角の実力だったろ」

水瀬が小さく笑う。

「お互いが弱点だからね。近接と遠距離じゃフェアじゃないよ」


その夜、翔人は自室で紅葉について水瀬に尋ねた。ベッドに腰掛け、短剣を膝に置いて刃を眺める。

「水瀬、紅葉ってのはお前と同期なのか? どんな奴だったんだ?」

彼女が目を伏せる。

「同期だけど、最初から合わなかった。彼女は熱くて荒々しくて、私の冷静さが気に入らないみたい。鬼の力を使って拳で敵をねじ伏せるのが彼女のスタイルだった。私とは正反対だね」


翌日、EDA内が騒がしくなった。高橋が緊急の報告を告げる。

「異常事態だ。青森、宮城、新潟、鹿児島、鳥取、岡山でA級ゲートが発生した。いずれもクロノファージの気配が強いと思われる。2人ともすぐに新潟へ向かえ。ここまで同時多発的に高ランクのゲートが現れるとは予想外だ。紅葉にも連絡したが、まだ返事はない」

翔人が短剣を手に持つ癖を抑え、膝から拾い上げて立ち上がる。

「今回ばかりはやばいかもな。了解、急ごう」



新潟の山間、ゲートが光る森に到着した。雪が積もり、冷気が肌を刺す。Aランクの巨人型魔物が現れ、5メートルの甲殻に覆われた体がハンマーを振り回す。Cランクの蜘蛛型が10体ほど周囲を這う。

「水瀬、蜘蛛を頼む!」

「分かった」

水瀬が氷の嵐で蜘蛛を一掃。翔人は巨人に突進した。

「『霧影迅』!」

水で加速し、ハンマーを回避。短剣に炎を集中させる。

「『黒炎貫』!」

一撃が甲殻を貫くが、巨人が咆哮を上げ、反撃のハンマーが迫る。翔人は水で跳び下がり、水瀬が氷の槍で援護。巨人が膝をつき、翔人が「蒼炎衝」でトドメを刺した。

「終わったな」

「クロノファージの気配はないね。単なる魔物だったみたい」


任務を終え、支部に戻ると、EDA内の空気が一変していた。高橋が緊張した声で告げた。

「黒桐、水瀬、上層部から緊急招集だ。紅葉理架が動いた。九州でS級ゲートを単独で処理した後、こちらに向かうと連絡があった。クロノファージの動きが加速してる。今すぐ会議室へ向かうぞ」

「鬼の末裔がやっと出てくるのか……」

水瀬が小さく呟く。

「彼女と会うのは久しぶりだね。黒桐、準備はいい?」

「ああ。どんな奴か、楽しみだ」




会議室に着くと、高橋が新たなデータを開示した。

「紅葉からの報告だ。九州のS級ゲートにクロノファージの中核らしき個体がいた。紅葉曰く、『奴らが本気を出してきた。次はお前らが動け』だと。彼女は今夜、ここに到着する予定だ」

太田が付け加える。

「青森、宮城、鳥取、岡山のゲートは他のA級チームが処理中。鹿児島は『鬼刃ギルド』が抑えた。新潟は君たちで済んだが、クロノファージの動きが読めねぇ。君達のアメリカ行きも近いが、まずは紅葉との連携を考える必要がある」





その夜、支部の空気が緊迫する中、翔人は自室のベッドに腰を下ろした。紅葉理架——鬼の末裔という名が頭に響く。彼女が来れば、クロノファージとの戦いが一気に動き出すかもしれない。水瀬がドア越しに声をかけてきた。

「黒桐、彼女が来たら、私たちもアメリカに行くことになる。環境はだいぶ変わるよ」

「あぁ、やるって決めたからには文句ねぇよ」

冬の夜、EDA日本支部に新たな風が吹き込む。紅葉理架の到着が、翔人と水瀬の戦いに波乱を予感させた。


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