間話:剣王の覇道①
この話は先に出てきたミラを詳しく書いた物語です。翔人の物語には直接的に関係はしませんが、
見ればより本編が楽しめると思います。
2001年、ドイツの小さな町で、ミラ・シュヴァルツリリーは生まれた。
実家は剣術の名門で、古びた石壁には先祖が刻んだ家訓が残っている。
「我が子孫が世界を救う剣士となる」
その言葉は、彼女の運命を縛る鎖だった。
物心つく前から、ミラの手には木剣が握らされ、厳格な父親に「もっと気合を入れなさい」と叱られていた。優しい母親は「頑張ってるね」と笑顔で励まし、幼い彼女はその言葉に救われていた。
5歳のある日、初めて父親に「お前は立派な剣士になる」と言われた時、手の中で剣が震えた感触が今も鮮明に残っている。
同じ年、友達に言われた言葉をずっと忘れられないでいる。
「世界を救うなんて馬鹿みたいだね」
女だからと見下されることも少なくなかった。悔しさが喉を詰まらせ、涙がにじみそうだったが、ミラは拳を握って立ち上がった。
「予言なんて信じない。私は自分の努力を信じる」
その日から、彼女の手は剣を離さなかった。庭で木の棒を振り続け、夕陽が沈むまで鍛錬を重ねた。
母が「もう休みなさい」と心配そうに呼びかけるまで、手がマメだらけになっても、心に静かな充実感が広がっていた。
10歳で地元の剣術大会を制し、15歳になるとドイツの若手剣士たちを圧倒。「天才剣士」と呼ばれるようになった。2025年、24歳のミラは純粋な技術で名を馳せていた。
金髪をポニーテールに結び、鋭い青い目が敵を貫く。筋肉質な体は毎日の鍛錬の結晶だ。
「剣は私の全て。これで仲間を守れるなら、どんな戦いも厭わない」
ドイツ軍の訓練に参加し、前線で仲間と共に戦う日々を送っていた。
2025年2月、魔力爆発が世界を襲った。
次元の扉「ゲート」が開き、怪物が溢れ出した。
3月、ドイツ国境近くの前線基地で、ミラは仲間と共に戦っていた。覚醒者たちが派手な力を振るう中、彼女はただの剣士として魔物に立ち向かっていた。
ゲートから現れた魔狼が襲いかかってきたその瞬間、
「何だ、この熱は?」
——剣を握る手が急に熱くなり、心臓が激しく脈打った。ゲートの異常な光が脈動するたび、そのエネルギーが体に流れ込む感覚があった。
魔狼が飛びかかってきた刹那、体が勝手に動いた。
剣が弧を描き、魔狼を一刀両断。
一撃に異様な力が宿り、仲間が驚きの声を上げた。
「ミラ、お前、覚醒したのか!?」
手から薄い光が漏れ、体が軽くなった。
「これが...魔力か。ゲートの力が私に影響したのか?」
喜びが全身を満たしたが、ゲートが異常な光を放ち、彼女を飲み込んだ。仲間の叫びが遠ざかり、視界が暗転した。
目を開けると、そこは異世界だった。赤い砂漠が広がり、歪んだ空が頭上を覆う。
魔力に満ちた重い空気が肺を圧迫した。
ミラは剣を握り直し、周囲を見渡した。
「ここは地球じゃない...でも、ゲートが私を飛ばしたなら、必ず戻る方法がある」
一刻も早く地球に帰り、仲間を救う決意を固めた。
異世界に飛ばされた最初の年、ミラは生き抜くために戦った。遠くから唸り声が響き、巨大な蜘蛛型の魔物が近づいてきた。彼女は目を細めて構えた。
「生き抜かなきゃ。剣を手に持つ限り、希望は捨てない」
覚醒した力が反応し、全身が白いオーラに包まれ、すかさず蜘蛛を一刀両断。毒の爪や糸を避ける動きは、鍛え上げた剣術と魔力の融合だった。
「この力、もっと使いこなせれば...」
だが、異世界は甘くなかった。魔狼の群れや影の獣が次々と襲いかかり、食料も水も乏しい赤い砂漠を彷徨った。何度も死に瀕したが、剣を握る手が彼女を支えた。信念が、彼女を立たせ続けた。
2年目、ミラは赤い砂漠を抜け、崩れた遺跡にたどり着いた。そこには黒い刃の剣が埋まっていた。
手に取ると、闇が蠢くような力が流れ込み、敵の動きを鈍らせる感覚があった。
「お前は...夜闇だ。私と共に戦え」
魔剣・夜闇を手に入れた彼女は、影竜と対峙した。竜の咆哮が響き、鋭い爪が振り下ろされる中、魔剣・夜闇を振るう。刃が闇を切り裂き、竜の動きが一瞬鈍った。
「一撃で決める!」
剣が急所を貫き、影竜が倒れた。
旅商人や砂漠の民にゲートのことを聞き回った。
「次元の扉を知る者は南にいる」
「ゲートは魔王の遺産だ」
手がかりは曖昧だったが、彼女は諦めなかった。
「この剣があれば、もっと強くなれる。仲間を救うために、必ず帰る」
3年目、ミラは赤い砂漠を進み、小さな集落にたどり着いた。そこは壊滅寸前だった。
2メートルほどの巨大な魔犬の群れが村を襲い、木造の家々が次々と倒壊し、住人たちは逃げ惑っていた。吠え声が響き合い、血の匂いが風に混じる。
ミラは剣を握り直した。
「このままじゃ全滅だ...私がやらなきゃ、誰がやる?」
魔剣・夜闇を手に魔犬の群れに飛び込んだ。
一匹が飛びかかってきた瞬間、闇の力が動きを鈍らせ、首を一閃。だが、次々と襲いかかる魔犬に囲まれ、鋭い爪が腕をかすめた。
「くっ...思ったより早い」
血が滴る中、彼女は歯を食いしばり、覚醒の力を全開に。魔剣・夜闇を大きく振り上げ、二匹を同時に斬り裂いた。
残りの魔犬が咆哮を上げたが、ミラは冷静に間合いを詰め、一匹ずつ確実に仕留めた。
最後の一匹が倒れる頃、彼女の体は汗と血にまみれていた。
住人たちは呆然と見つめ、やがて感謝の声を上げた。
粗末ながら温かいスープとパンが振る舞われ、ミラは火のそばで傷を休めた。そこへ、灰色のローブを纏った老人が杖をついて現れた。
背筋を伸ばし、厳かな声で言った。
「我が村を救った剣士よ、名を教えてくれ。我らは貴殿に命を預けたも同然だ」
「ミラだ。お前たちはゲートについて何か知っているか? 私は地球に帰る方法を探している」
老人は眉を寄せ、低く響く声で答えた。
「地球...聞いたことはない。貴殿は異邦人か。ゲートか。 それは恐らく剣王レトのことだ。漆黒の鎧に身を包み、巨大な剣を持つ最強の剣士だ。あやつの周囲では闇がうごめき、出会う者は剣に呑まれるか消えるかの運命を辿る。南の血黒山脈にいると聞く。行けば何か分かるやもしれぬが、命を賭ける覚悟が必要だ」
「剣王...レトか」
ミラは名前を呟き、胸に熱い闘志が湧いた。
「そいつがゲートに関係してるなら、会わねば。忠告はありがたく受け取る」
その後、聖なる泉に立ち寄り、水面の底に光る剣を見つけた。引き上げると、白い刃が柔らかな光を放ち、体が熱くなった。
「この剣...私の意志に呼応してる」
光が魔力を帯び、小型魔物を焼き払った。
「魔物を焼き払う力か。なら、お前は黎明だ。私と共に戦ってくれ」
聖剣・黎明を手に入れ、彼女はレトを目指す決意を固めた。
4年目、ミラは黒岩山脈へ向かう途中で魔物の群れと戦った。戦いの後、剣の数が気になり始めた。
「どちらも良い剣だ。でもこれでは動きが鈍くなる」
その時、覚醒の力が反応し、手から光が溢れた。
魔剣・夜闇が一瞬消え、次の刹那に再び現れる。異次元に剣を収納し、必要な時に呼び出す能力——異次元格納が覚醒した。
「これで剣を持ち運ぶ手間が省けるな」
その後、強力な魔物を倒し、赤い刃を持つ剣を手に入れた。
「お前は紅蓮だ」
剣は3本になり、彼女は異次元に収めてレトへの道を進んだ。
5年目、ミラは旅を続け、剣を増やしていった。
砂漠の盗賊団を倒し、青く輝く剣「蒼嵐」を奪い、毒沼の魔獣から緑の刃「翠毒」を入手。
嵐の谷で風を切り裂く剣「風牙」、炎の洞窟で灼熱の剣「灼刃」を手に入れた。
剣は7本に増え、異次元格納で持ち運びを楽にしながら、それぞれの特性を戦いに活かした。
「剣が増えるたび、私の選択肢も広がる。レトに近づいている」
ゲートへの手がかりを追い、南へ進んだ。
6年目、ミラは血黒山脈に近づいた。
道中で雷鳴の平原を支配する魔獣を倒し、雷を帯びた剣「雷鳴」を手に入れ、剣は8本となった。異次元格納のおかげで、8本全てを気軽に持ち運べた。
やがて、彼女は剣王レトと対峙することになる。
「レト、お前が私をこの世界に召喚したのだというのなら。私は斬り伏せてでも、地球に帰らなければならない」
剣を握る手が震え、覚悟が宿った。
異界でのこの6年が、この戦いこそが、ミラを真の剣王へと導く第一歩だった。
剣を手に持つ感触が、彼女の全てだった。
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