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プロローグ:氷の彼方

初めまして。頭の中でずっと考えてた小説の内容をまとめ、これから長編シリーズものを書いていこうと思います。是非読んでいただけたら嬉しいです。


東京都立桜丘高校の体育館は、汗と霜の匂いが混じり合い、どこか生暖かい空気を漂わせていた。黒桐翔人は膝に手をつき、荒い息を吐きながら、目の前の少女を見上げた。肩まで伸びた黒髪に青いメッシュが映え、体育館の隙間風にサラサラとなびくその姿は、冷たい水面のように揺れている。彼女——水瀬麗亜の瞳は氷のように透き通っていて、その視線が胸に突き刺さる。手に浮かぶ薄い氷の結晶がキラリと光り、床には白い霜がじわじわと広がっていた。彼女がそこにいるだけで、体育館は冬に支配されたかのようだった。


「終わりだよ、黒桐。君じゃ私には勝てない」

その声は冷たく、刃物のように鋭い。だが、どこか寂しげな響きがあって、翔人の耳に深く突き刺さった。彼は唇を噛み、悔しさに拳を握り潰す。手のひらがじんじんして、汗と冷気が混じり合って震えた。水瀬の力は次元が違う。冷たい瞳も、圧倒的な氷の支配力も、まるで別世界から来たかのようで、どれだけ抗っても届かない。


体育館に響く審判の「試合終了!勝者、水瀬麗亜!」の声が、頭の中でぐわんぐわんと反響する。覚醒者トーナメントの決勝戦、2025年12月、高校1年の冬——翔人の胸に、敗北の重さがずっしりとのしかかってきた。彼女の前では全てが凍りつき、砕け散った。強くなったと錯覚していた。夏の暑さの中で修行し、秋の夜に汗を流した日々が、彼女の冷気に一瞬で飲み込まれた。膝をついたまま見上げる彼女の姿は、圧倒的で、孤高で、そして絶望的に遠い。


「くそっ……情けねぇな、俺」

呟いた声は震え、唇を噛むと血の味がした。水瀬が背を向け、リングを降りる姿が霞んで見える。彼女の言葉が脳裏に焼き付く。

「君の力は面白いよ。でも、私には届かない」

その淡々とした声が、心を粉々に砕いた。無力感が胸を締め付け、息さえ凍りつきそうだった。彼女が立ってる場所が遠すぎて、手を伸ばしても空しか掴めなかった。


「次はお前を越える……絶対に、だ」

言葉を吐き出すたび、喉が熱くなり、目が滲むのが分かった。彼女の次元の違う強さは、今の俺を嘲笑うように立ちはだかる。それでも、その壁を越えるためなら、何度でも這い上がる。悔しさと絶望の奥で、腹の底に熱い火が灯り始めていた。物語はここから、始まりへと遡る。


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