番外編短編・希望のハーブ
十三歳にして強い挫折感を持っていた。
「はぁ。何でユリウスは振り向いてくれないんだろ」
ズーザンは独り言を呟きながら、マンナ村の修道院までの道を歩いていた。
幼い頃から金持ちのお嬢様として蝶よ、花よと育てられた。ワガママ放題言っても両親に甘やかされていた。
そんなズーザンだったが、初めて恋をした。相手はユリウスという修道士。悪魔を祓って貰った上、凛々しい横顔に一瞬で恋に落ちた。
この恋も両親に頼めば何とかなるだろうと思っていたが、玉砕。相手は一生を神に仕える男だった。つまりライバルは神。これはかなりのハードルで、全く歯がたたなかった。
こうして今も未練がましく彼のいる修道院に向かっていたが、おそらくまた振られるだろう。結果は分かっているのに、諦めきれない。
「あなた、スーザンか?」
ちょうど修道院の手前まで来た時、とあるシスターに声をかけられた。
何で自分の名前を知っているんだろうか。訝しむが、スーザンも相手の名前と顔を知っていた。確か薬草研究家のレーネというシスターだ。医学でも解決できない問題を診てくれると話題だったが。
目の前にいるレーネはかなり小柄。子供の自分と大差ない。ださい眼鏡をかけ、口調も雑だ。どうも世間で噂されている話と違うのだが。
「あ、このハーブ何? 綺麗」
ふと、レースが持っている籠の中身が気になった。見た事もないハーブで、ドレスのレースみたいに繊細な葉だった。匂いもほんのりと甘く、女性らしいハーブだ。ズーザンが知っているハーブはバジルがある。これは葉が大きく男性的だ。バジルと比較すると、かなり女性的なハーブだ。
「これはチャーピル。別名希望のハーブともいい、復活祭の前のスープとして食べる習慣もある。体内を浄化する作用もあり、消化にもいい」
ズーザンは思わずのけぞった。早口でハーブの蘊蓄を語るレーネは、どう見ても普通のシスターじゃない。むしろヲタク。変わった女だったが、「希望のハーブ」とは?
チャーピルから目が離せない。
「私みたいな子にも希望がある?」
「あるよ。まあ、別にユリウスだけが男じゃないぞ。もっとズーザンの良さを理解できる男もいるだろう」
「本当?」
レーネは深く頷く。あまりにも自信満々。励ましてくれているのだろう。ちょっと恥ずかしくもなり、ズーザンの頬は赤くなる。
「このチャーピルをあげよう。食べれば君の苦い気持ちも浄化されるはず」
なぜかチャーピルもくれた。
「あ、ありがとう」
「また来てな」
レーネはふわりと手をふり、ズーザンの前から去って行った。
一人残されたズーザンは、籠の中のチャーピルを覗き込む。
「可愛いハーブ。まあ、レーネの言うことをちょっと信じてもいいかな?」
まだ心は痛い。でもこのハーブを食べたら、良い事があるかも?
「まあ、そんな事はあるか知らないけど、ママに調理して貰おう!」
ズーザン家へ向かって歩き始めていた。




