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聖女の薬草処方箋  作者: 地野千塩


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番外編短編・夜明けのハーブティー

 レーネの研究室は足の踏み場もないぐらい散らかっていた。最近は新しい軟膏作りに熱中し、研究室の掃除もおろそかになっていた。


「いや、さっさと掃除しないと」


 散らかった部屋を見ながらレーネは冷や汗が出て来た。男っぽいレーネだったが、人並みに清潔な場所が好きだ。これ以上散らかしたら汚部屋決定だ。


 掃除は面倒だったが、手袋をつけ、ゴミ袋を広げた。要らない資料などを纏めて捨てた時、来客があった。


 来客はラウラだった。この村で教師をしている女だったが、結婚が決まった。来月式を挙げ、婚約者が住む隣村に引っ越すと聞いていた。ラウラとはハーブを通し、仲良くなり、親しい間柄でもある。こうして研究室に訪ねてきても不思議はない。それにラウラは汚い研究室の状況には慣れっこだったので、特に驚いてはいなかったが。


 しかし平日に夕方に突然訪ねて来るのは何か理由があるのだろう。ハーブティーを淹れ、事情を聞く事にした。


 今日のハーブティーはちょっと珍しいものにしてみる。マロウのハーブティーで深い青色が特徴的だ。別名夜明けのハーブティーという。確かにこの青は、静かな宵闇を連想する人も多いだろう。効能は美肌や便秘改善もあり、女性にピッタリなハーブでもあったが。


「ラウラ、どうしたんだい?」

「いえ。今、少しマリッジブルーというか、結婚するのに迷いが出てしまって」


 ラウラは苦いため息をつく。何でも婚約者のデニスは勝手に新婚旅行の行き先を決めてしまったという。その事で本当に結婚していいのか迷っているとか。確かラウラも縁談の時点で迷い悩んでいた。優等生的な容姿と違い、中身は決断するのが苦手で繊細な性格だった。


 レーネは繊細な性格ではない。むしろ図太い。なのでラウラの気持ちはよくわからない。この修道院に来たのも即決断した。反対もされたが、自分の好きな事を貫く為には、周囲の声はとことん無視する性格だった。


「そうか。そんなラウラにサプライズだよ」


 レーネはマロウのハーブティーにレモン汁を落とす。すると、宵闇のようなブルーから、ピンク色へ変化。単なる化学反応だが、こうして見ると、カップの中が夜が明け、朝陽が登ったみたい。夜明けのハーブティーと言われる所以だった。


「すごい、色が変わるんだ」


 レーネにとっては珍しくも何ともない科学反応だったが、ラウラは驚き、パチパチと瞬きまでしていた。


「ずっと夜じゃないって事だよ。ブルーもいつか終わりが来る」

「そっか。そうよね。新婚旅行の事はもっと彼と話し合うよ。いざとなればキャンセルだって出来るんだし」

「そうだな、それがいいよ」


 二人は頷き、ピンク色に変化したハーブティーを楽しむ。


 笑いながらハーブティーを楽しんでいると、ラウラの気持ちも晴れたらしい。笑顔のままで研究室を後にしていた。


「あー、私は掃除だな!」


 残されたレーネは掃除を再開。そう、この掃除だっていつか夜明けが来るだろう。レーネは腕まくりをし、一生懸命ゴミをまとめていた。


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