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聖女の薬草処方箋  作者: 地野千塩


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番外編短編・デニスと猫よらず

「はあ!? 猫が家に来て迷惑だと! 信じられない!!」


 レーネの研究室に彼女の声が響いていた。


 研究室といっても、薬草ヲタク小屋のような場所だ。棚には瓶に入ったドライハーブや書物。棚に入りきらない書物は床の上に積み上がり、足の踏み場もない。


 今日のように来客がある時は、折りたたみテーブルと椅子を出し、何とか対応していた。


 そのテーブルの上は、綺麗な色のラベンダーティーもある。汚い部屋だったが、この香りだけは最高だった。


 今日の来客は隣村の医者・デニス。初対面は嫌味な男だったが、今はレーネのハーブにも理解を示していた。婚約も決まったそうで、惚気に来ていた。カタブツそうな二十代の男だが、惚気ている姿は、どう見てもバカっぽい。


 しかも家に猫が来て困っているという自虐風自慢(?)もされた。猫に目がないレーネは、そうとしか聞こえない。扱うハーブによっては猫に近づけない時もある。その度にレーネは悔しい。やはり嫌味か?


「私は猫が好きだ。羨ましいぐらいだよ。なぜ猫が庭に来て困るんだ。信じられない! 信じられなーい!」

「二回も言うなよ。野良猫で糞とかされて困ってるんだ。無責任に餌をあげる奴もいる。餌あげるんだったら、家で飼ってやればいいのに」

「た、確かに一理あるな」


 これについてはレーネも耳が痛い。子供の頃は無邪気に野良猫に餌をあげていた。今思うと、残酷な事をしてた。飼ってあげられないのに、中途半端に期待させ、近所にも糞や尿を撒かれる。猫も生き物だ。「可愛い」だけでは生き物への責任が取れない。それは植物も同じ。好きなだけではダメな事もレーネはよく知っていた。特に毒のある植物、人によっては体調悪化させるハーブもある……。


「そうだ、だったら、猫よらずの種をあげよう。これを庭に植えておくといい」

「猫よらず? そんなハーブが?」


 デニスは猫よらずに驚いていた。


「本当はルーというハーブだね。迷信だが、悪霊を追い払い、神の恩恵のハーブとも呼ばれている。防虫効果もある。ドライハーブにして家に飾っておくのもおすすめだ。虫だけでなく、猫も嫌う香りだ」


 ハーブの事となると、レーネは全く止まらなくなった。蘊蓄を早口で披露し、目の前にいるデニスは口をポカンと開けているぐらい。呆気に取られてしまったらしい。


「ま、好きなだけではダメだけど、極めたらすごいよな?」


 デニスはそんな事まで口にする始末だった。


 その後、猫よらずが育ち、野良猫も来なかったという。というか結局、デニスが家で買う事に。婚約者のラウラも猫好きで断れなくなったらしい。デニスは婚約中からもすっかり尻に敷かれているという噂だ。

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