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聖女の薬草処方箋  作者: 地野千塩


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安息日のカモミールティー(3)

 ユリウスの忙しさは終わりが見えそうになかった。神学研究など修道士としての仕事はもちろん、村人や施療院の患者の世話、他、村の雑用や困りごとも全部押し付けられ、今日も休む暇は全くない。


 嬉しい事はコーロの退院ぐらいだった。村の感染症騒ぎもひと段落し、そろそろ春も終わりかけ。気候も暖かいというよりは、暑くなってきた。


 もっともこの暑さで汗だくになりながら、コーロの家の修理や井戸水を汲んだりしていた。コーロの精神不安は相変わらずで、ユリウスは髪を引っ張られ、顔に引っ掻き傷もつけられた。


 コーロの家を後にすると、次は隣村での仕事だった。隣村のお嬢様ズーザン・アダーから依頼を受け、悪魔祓いをするように頼まれていた。


 アダー家は村の中でも大きな家だった。どっしりとした煉瓦造りの二階建て。大きな庭もあり、美しい薔薇が咲き乱れていた。


 ズーザンの母によると、悪魔のようなものが見えたり聞こえるようになり、精神的不安定だという。部屋にも引きこもり、母親とも全く会話できない状態だという。


 ズーザンは十三歳だ。神学によると、この年代の子供達は敏感だ。悪魔が可視化出来ても不思議では無い。かくいうユリウスも子供の頃はそんな存在も身近だった。神を知り信仰心を持てなかったら、とっくに悪魔に殺されていたのかもしれない。


 そもそもユリウスは孤児だった。両親を戦争で亡くし、行く当てにないユリウスを引き取ったのは修道院だった。


 こうしてユリウスは修道院でのびのびと育ち、修道士を目指すようになった。ちなみにレーネとも同じ歳。彼女は貴族の娘で行儀見習いとして修道院に来ていたが、そこでハーブの楽しさに目覚めてしまい、同時に信仰心も持ち、シスターになった。レーネとはかなり長い付き合いで、単なる幼馴染というよりは、兄弟や家族と表現した方が合う。修道院の他の仲間もそんな感じだが、一番付き合いが長いのはレーネだった。


 ズーザンの母に事情を聞きながら、なぜかレーネの事を思い出す。そういえばレーネは今の多忙な状況を心配し、忠告までしてくれていた。レーネからハーブティーも貰っていたが、忙しくて飲む時間もない。


「ユリウスさん? ちゃんと話聞いてます?」

「き、聞いてますよ!」

「だったらいいですけど。ここがズーザンの部屋ですわ」


 ズーザンの母親に案内され、彼女の部屋の前に来ていた。木製の大きなドアがやたらと重厚に見える。ズーザンがここで引きこもっているのは間違いないだろう。


 ズーザンの母はドアを叩き、何度も呼んでいたが返事はない。


「ズーザン、修道院から来たユリウスというものです。悪魔が祓えるかもしれません。どうか扉を開けてください」


 ユリウスも扉を叩いた。ユリウスは身体が大きい。当然、手も大きく、ノックする音もかなり大きくなってしまった。


「ズーザン!」


 その声も多いが、突然ドアの向こう側から悲鳴が響いた。


 か細い少女の悲鳴だった。これは放っておく事はできない。ユリウスは礼儀やマナーも無視し、扉を勝手に開けた。


 広い部屋だった。豪華なベッドやカーペット、カーテンもシャラシャラと派手だった。ぬいぐるみも多く、どう見ても裕福なお嬢様の部屋だったが、そこに一人、少女が倒れていた。


 年齢は十三歳ぐらい。金色の髪やブルーの目は美しいぐらいだったが、悪魔に首を絞められているのが視えた。


 先日、ユリウスに報復しに来た悪魔とは違うようだったが、このままにしておけない。ユリウスは聖典から言葉を引用し、神の御名の権威を使い、悪魔を追い払っていった。先日の悪魔よりは雑魚だったようだ。すぐに悪魔はズーザンから立ち去った。


「ズーザン! 良かったわ!」


 ズーザンは母親に抱きしめられ、目に生気が戻ってきた。


「この修道士の方が助けてくれたのよ」


 ズーザンは母親から説明を受け、初めてユリウスに視線を向けてきた。長いまつ毛がゆっくりと動く。驚いているのか、瞬きを繰り返していたが。


「あなた、王子様?」

「は?」

「こんな助けてくれたなんて。私の王子様に違いないわ」


 正気の戻ったスーザンの目だったが、ハートが浮いている?


「私、あなたに恋してしまいましたわ」


 爆弾発言だった。初めて女性に告白されたわけだが、全く嬉しくはない。


 ユリウスはただただ驚きで固まっていた。


「私と結婚してください」


 ズーザンは頬を真っ赤にしながら、はっきりと告白していた。

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