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聖女の薬草処方箋  作者: 地野千塩


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安息日のカモミールティー(2)

 その日からユリウスはかなり忙しかった。別にユリウス自身が忙しくしたわけではない。向こうから勝手に仕事がたくさんやって来るような状況だった。


 まずは午前中、村人のコーロの家へ。彼女は村の森で一人暮らししている老婆だった。コーロが若い頃は、修道院が魔女扱いをし、いじめていた過去もある。今では信じられない事だが、そういう時代だった。


 それにコーロは身寄りがなく、記憶力や認知力も低下していた。狭い家は放っておくとゴミ屋敷に近い状態にもなってしまい、時々ユリウスも様子を見に行っていたが。


 森の中にあるコーロの家につくと、大変な状態だとわかった。玄関の前にもゴミが散らばり、虫が湧いていた。実際、部屋に入るとツンと嫌な匂いも漂う。


「あぁ、ユリウス。困ったね。風邪を引いてしまったらしいよ」


 ベッドのある寝室に入ると、コーロはうなされていた。ベッドが少し小さく見えるぐらいコーロは痩せ細り、顔もいつも以上に青く、しわくちゃだった。ベッドの周辺も古着や食べカスで汚れていた。


 数日前、確かユリウスはコーロの家へ出向き、この寝室も綺麗にしてきたはずだったが。まるで砂お城を作っているような気分になり、目眩もしてきた。この部屋の匂いも頭痛がしてきそうだが、このままコーロを放置する事などできない。


「コーロ! きたよ! 何でも言って、出来る事なら協力するから!」


 ユリウスはそう宣言すると、黒い修道着を腕まくりし、掃除、料理、コーロの介抱もした。コーロの風邪は思ったより酷く、修道院の施療院まで連れていき、レーネに診察も頼んだ。レーネの目からもコーロは重症らしく、三日間施療院に入院となったが、ユリウスは暇にならない。ご飯が食べられないとゴネるコーロの食事介助をした。


「わーん! こんなご飯食べたくないわ!」


 何が気に食わないか食事介助中、コーロは癇癪を起こし、ユリウスの髪を引っ張り、腕や手に噛みついてきた。


 コーロは老婆だ。力もそんなある訳がないのに、ユリウスの手や腕は引っ掻き傷でいっぱいになった。


「ユリウス、コーロは精神が不安定なんだ。多めに見てくれ」


 レーネにはそう宥められ、ユリウスはもう何も言えない。


 その後、少し時間が空いたので村を散歩していたら、子供が泣きついてきた。ティアナという少女で、友達が湖の方に行ったきり帰ってこないという。


 修道士として悪魔祓いの仕事をしていたユリウスは悪い予感しかしない。あの辺りは悪魔がいると先輩修道士から注意されていた。


 一応レーネも呼び出し、女神像へ向かう。そこには子供が一人倒れ苦しんでいた。悪魔の姿も修道士としてそこそこ可視化出来るユリウスは、これも悪魔の仕業と判断した。


 すぐに聖典の言葉を引用しながら悪魔祓いを試みた。


 悪魔はあっという間に消えた。どうやら雑魚悪魔だったらしいが、その後は子供の手当をしたり、家まで送って親御さんに説明したり骨が折れた。


 その上、夜、部屋で一人休んでいた時だった。悪魔が仲間を連れて報復しに来た。なかなか厄介な悪魔で聖典引用だけでは歯が立たない。


 他の修道士やシスターも呼び寄せ、一丸となって悪魔祓いを試みた。悪魔の方も集団で報復しに来たので、こちらも団体戦で戦った。


 聖典には「互いに心を一つにして祈れ」という箇所もある。神学的には集団の祈りは悪魔が一番嫌がる事だと言われていた。


 おかげで悪魔はあっという間に消え去ったが、ユリウスはヘトヘトだった。まさか夜にまでこんな攻撃はあるとは思えなかった。思わずヘナヘナと床の上に座ってしまう。そこには大型犬のようなユリウスの姿はどこにもない。目の下にクマもでき、コーロにつけられた傷痕もジンジンと痛む。


「おい、ユリウス。大丈夫か? 少し休んだ方が。鎮静作用のあるカモミールティーでも飲むか?」


 レーネが心配して駆け寄ってきたが、ユリウスは反射的に首を振っていた。


 元々男として弱音を吐くのも苦手だ。頼まれると全力で仕事をしてしまうタイプ。休むなんて発想は一ミリもない。明日も神学の勉強や悪魔祓いの依頼が山のようにきていた。


「いや、いいよ。全然大丈夫だから」

「そうか? いや、だったらいいが」


 無理強いしないレーネはさっさとユリウスの前から去って行ったが。


「そうだよ、全然大丈夫だから!」


 ユリウスの独り言が響いていた。


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