美食家のフェンネルティー(3)
断食道場は一般的な木造民家を改造したような作りだった。外観は確実にそうだが、中には大きな食堂があり、すでに参加者が集まっていた。参加者は五人。
参加者は全員女性だ。年齢もシャルロッテと同じぐらい。粗末なワンピースや農民と似たような服の者もいたが、シャルロッテと同じように仕立ての良いドレスを着ているものもいた。メイドを連れて来ているものはシャルロッテだけ。
初対面同士で会話も盛り上がらず、自己紹介して終わったが、ちょうどその時、レーネがお盆を抱えてやってきた。
「これから断食前の準備食を食べてもらおう。これは三日間のプログラム表だ。基本的にはプログラム通りに行って貰うが、どうしても具合が悪くなったら、すぐに私を呼ぶように。このルールだけは絶対に守ってくれよ」
レーネは早口でそう言うと、プログラム表だけでなく、水とクッキーを配った。大きなクッキーだったが、甘いバターの匂いは全くしない。色も黒いし、シャルロッテも含めた参加者は顔を見合わせて困惑。
「このクッキーが準備食になる。栗とジンジャーの特製クッキーだ。ジンジャーには体の毒物を出す作用があり、断食前には必要な栄養素だ。まあ、苦すぎて食べられないと毎回クレームが来るから、私が栗を入れて味はマイドルに焼き直したが。どうぞ。召し上がれ」
レーネはニヤニヤと笑いながら言う。一同はこのクッキーを見ながら困惑。確かにジンジャーのキツい匂いしかしない。
それでもシャルロッテはクッキーが好きだ。少なくとも夜中に貪り食べしまうぐらいには。
「いただきますわ」
食前の祈りをし、このクッキーを齧ったが……。
もの凄く苦かった。確かに少しは栗の風味はあり、甘味も僅か煮あるが、ジンジャーの強烈な苦味が舌を襲う。それに硬い。一言で表現すれば不味い。
あの冷静なコリンナもクッキーを食べて涙目だった。他の参加者もお葬式のような表情だった。誰も「美味しい」なんて言っていないが、レーネの目がキラリと光る。
「このクッキーは身体の毒素を出すために必要なんだ。食べてくれ」
低い声で圧をかけられ、誰も残せそうにない。
「さあ、三日間の断食道場が始まる。最後の晩餐であるこのクッキーの味はどうかね?」
レーネは悪戯好きの子供のように笑っていたが、参加者は誰一人笑顔の者はいない。むしろ誰もが下を向き、無言だった。
「まあ、この断食メニューは私が考案したもので、ハーブ茶とスープは飲めるぞ。固形物は食べられないが、君たち、良かったよ」
どこが?
シャルロッテは言い返そうになったが、口の中を噛みどうにか堪えた。
まだジンジャーの強烈な味が口に残り、余計に口の中が痛い。
「君たち、安心しろよ。修道院では断食は恒例行事だし、いわば我々はプロだ。必ず君たちの悩みを解決するぞ」
本当?
参加者の誰もがレーネの言葉を疑っただろう。
「君たちにも神のご加護があらんことを。アーメン」
祝福の祈祷もしてもらった。そのレーネの姿は聖女に見えない事もないが……。
本当? このヲタクっぽい若い女性を信頼しても良いのだろうか?
「アーメン……」
シャルロッテは力無く呟いていた。遠くの方からまた仔羊の鳴き声も響く。
仔羊の声だけが元気だった。