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聖女の薬草処方箋  作者: 地野千塩


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風邪の噂とエルダーフラワー(1)

 ロミー・ペッターは、ラウラ先生がプロポーズされる一部始終を見ていた。


 学校の校門の前でプロポーズされていた。この騒ぎで生徒や教師だけでなく、近隣住民も集まり、ちょっとしたお祭りのようになっていた。


 ロミーはこの学校の生徒だ。髪を細めのポニーテールにまとめ、いかにも大人しそうな女生徒だ。十歳の割にはかなり大人びた顔つきで担任のラウラ先生からも信頼されていた。


「ロミー、あの怖いラウラ先生がプロポーズされているよ。本当どういう事?」


 ロミーのクラスメイトのティアナも一部始終を見ながら驚いていた。


 何しろラウラ先生は堅物の怖い先生。授業中だけでなく、休憩時間も厳しく注意される時もある。


 そんなラウラ先生がプロポーズされ、お相手と笑っている姿は衝撃的だった。ロミーもティアナも恋とか結婚など理解できない年頃だったが、このプロポーズが幸せなものである事はわかった。他のクラスメイト、先生、近隣住民も二人に祝福を贈り、歓声だけでなく、歌声まで響いていた。


「すごいね。プロポーズってすごい事だったんだね」


 ロミーも興奮し、隣にいるティアナに話しかけた。


「ロミーも結婚したい?」

「いや、まさか。私はそんなの興味ないっていうか、わからないし」

「そうは言ってもあと五年ぐらいしたら、結婚できてもおかしくないじゃん。ね、ロミー」

「そうかな?」


 ロミーとティアナは少女らしく楽しくおしゃべりをしていた。まだこの時は平和だった。村中祝福に包まれ、これ以上ないぐらい平和だった。


 村にはラウラ先生達の噂も流れた。お相手のことや結婚式の日取りなど。その話題も微笑ましく、ロミーも思わず笑顔で生活してしまうぐらいだった。


 異変は突然起きた。


 村で感染症にかかった病人が突然死し、それをきっかけかは分からないが、村で風邪が流行し始め、寝込んでいる者も多かった。クラスも学級閉鎖となった。


 ラウラ先生の婚約者は医者らしい。その手伝いに追われていた。他にも村人がバタバタと風邪に倒れ、修道院の病院施設、施療院に入院するものも増えているという。


 隣村でも同じような風邪が流行り、一種のパニック状態だった。


 村の広場には「手洗い・うがいを徹底しよう」という看板が掲げられ、雑貨店で売られているマスクも争奪戦。


 人と人との距離が風邪を引き起こすとも言う。ロミーの母も「ニメール以上離れて会話するように」と釘を刺され、家庭内でもなんとなくよそよそしい雰囲気が出来上がっていた。


 その結果、飲食店もダメージを受けているらしい。村にある唯一のレストランには「経営中止しろ」「バイキンを広げるな」というチラシも貼られるようになり、村で外出する者も著しく減っていた。


 ロミーがまだ子供だった。確かに大人びて見える子供だが、村人のパニック状態が理解できず、こっそりとティアナと遊んでいた。


 あまり人が寄りつかない村の北部の森に行ったり、女神像のある湖へ遊びに行くことが多かったが。


 今日もこの湖にティアナと来ていた。


「大人達、どうしてる?」


 ロミーは呆れながらティアナに聞いていた。村ではマスクが強制的だったが、ここでは外していた。ティアナもそうだ。元々気が強く、はっきりとした性格のティアナだ。大人達に感染症対策をされるのは、かなりのストレスらしい。


「ずっとマスクしてる。なんかこの女神像にも力があるって信じてお守りも作ってた。あと女神像にもマスクつけようとしてた」

「そうなの?」


 ロミーは思わず側にある女神像を見上げるが、どう見ても単なる石でできた像。確かに彫刻はよく出来ていて、美しい女神像ではあったが。


「信じられない、大人達。こんな感染症であたふたして。単なる風邪じゃん」


 空のカラスがティアナの言葉に同意するように鳴いていた。カァ、カァ、カァ……。


「でも仕方ないよ、ティアナ。馬鹿な大人達にも付き合わないと」

「そうだね。仕方ない」


 せっかくティアナと遊んでいても盛り上がらず、帰る事になった。


 村の家の近くに帰ると、みんなマスクをしていた。誰もが目が無言で、よそよそしい距離も作っていた。


 こんな村の大人達を見ていたら不安しかない。感染症そのものより、オロオロと大騒ぎする大人達の対応の方が不安だった。


「何か嫌な予感がするな……」


 ロミーは悪寒がした。大人達を見ていると、どうにもこの悪寒が拭えない。

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