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聖女の薬草処方箋  作者: 地野千塩


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優等生のタイムウォーター(2)

 ラウラの家は貧乏だった。農家の中でもそう。土地自体も比較的悪いし、父は駆け引きが下手な所もある。自ずと金銭から遠のいていく。


 そんな家で育ったラウラは、手に職をつける事にこだわっていた。結婚相手に何とかしてもらうという発想もなく、そもそも男にさほど興味もなかった。情け無い父の姿を見すぎていたせいだろう。


 実際、若い頃も何の縁談もなく、むしろ喜んでいるぐらいだったが、ここに来て突然結婚話。しかも相手は金持ちの医者。ラウラの頭が混乱してきたが、父によると、昔助けた老人の孫から来た縁談だとか。


 そんな縁があったのか。ラウラはそんな偶然に驚いてしまうが、この話は断れそうにない空気だ。縁談など興味のないラウラも一度だけ会うように日取りが決まってしまう。


「はぁ。縁談か。行きたくないな」


 ラウラは一人、村の南部を歩いていた。今日は珍しく水色のワンピース姿だ。メイクも母にしてもらい、髪も編み込み派手になった。


 これから隣村に住む縁談相手の所に会いに行く予定だったが、全くやる気がしない。こんな女っぽい姿で行くのも恥ずかしい。いくら父の縁だからいって突然見ず知らずの女に結婚話を持ってくるなんて解せない。頭に中は愚痴がぐるぐる回っていた。


 村の南部は養鶏場もあり、鶏の鳴き声も聞こえる。南部の方が比較的都に近く、道も少々歩きやすいが。春の日差しが眩しく、ラウラは思わず目を細めていた。


「あら、ラウラじゃないか」


 そんな道すがら、シスターのレーネに会った。レーネはこの村にある修道院のシスターだ。まだ若いが薬草の研究を続け、村人の不調を癒し、かなり評判にもなっているらしい。よく学校行事でもレーネには協力して貰っているので顔馴染みだった。


 レーネはメガネ、猫背に修道着。全く色気はなく、男っぽい口調でもある。ラウラは勝手にレーネにシンパシーも感じているぐらいだった。たまに学校におすすめのハーブティーを届けて貰い、実際体調も良くなるので、信頼もしていた。


 レーネに挨拶すると、微かにハーブの香りがする。おそらくバジルだ。あとミントやラベンダーが混ざったような匂い。


「ラウラ、いつになく派手な格好だな。どうした?」


 この匂いに一瞬眠くなったが、レーネはいつも様子が違うラウラに目を丸くしていた。


「実は親に縁談持ってこられて。これから行かないと」

「へえ。大変だ。結婚できるといいな」


 何も知らないレーネは呑気そう。


「いや、結婚なんてしたくないよ。相手は金持ちの医者らしいけど、なんかなぁ」

「医者か。私も好きじゃないない。あいつら、私の薬草を全否定するんだから。全く薬で全部健康が良くなるわけがない!」


 珍しくレーネは口をととがらせる。こんなレーネを見るのは初めてだ。いつも冷静なイメージがあったが、案外感情豊かなのだろうか。


「医者は医学書が唯一絶対の答えだと思ってる」

「そうじゃないの?」

「答えなんかないさ。少なくとも医学の本にはね」

「そうかなかー?」

「まあ、何事も正解、不正解で判断しない方がいい。不正解の中にも抜け道があるかもしれない。いわばハーブだってそう。医学的じゃないって不正解にされてるが」


 何だか哲学的な話になってきた。レーネも案外、考え込むタイプなのだろうか。


「ラウラも正解や不正解ばっかりに囚われるなよ。結婚できなくてもよかったという事もあるさ。それに失敗しても間違えてもいいんだから。何度でもやり直せる」


 レーネは何か誤解したまま、ラウラの前から去っていく。途端にもうあの良い香りが消えてしまった気もする。


 一人残されたラウラはふと考える。


「正解、不正解ばかりじゃない?」


 今までずっとそう思ってきたが。何か急に今までの生き方を否定されたような?


「これから縁談相手と会うのは正解?」


 独り言を呟くが、答えなど返ってこないだろう。わからない。急に自分の行動に自信がなくなってきた。


 今まではテストの解答を選ぶように正しい方を選んできたつもりだが。


「不正解の方にも答えがあった?」


 やはり結婚した方がよかったのだろうか。答えは出ないが、この縁談には逃げられない。ラウラは早歩きで隣村へ向かっていた。

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