不老不死とローズマリー(2)
美女コンテストの当日、よく晴れた春の日だった。村の牧場の緑も陽を浴び、仔羊たちの鳴き声が遠くで響く。会場の中央広場も特設ステージもどこか呑気な雰囲気がありつつも、空気は張り詰めていた。
参加者は十五人もいた。
ミアは美女コンテストの控え室を見ながら、ライバル達を観察した。おばさんやブスも多く、どうやら罰ゲームで参加する事になったらしい。
「これは勝てそう……」
控え室の鏡でメイクのチェックをしながら、ミアは小さく呟く。
「あら、ミア。自信たっぷりねぇ」
そこに村のおばさんが話しかけてきた。興味がないし、男でもないので、無視していたら、向こうも悪意を見せてきた。
「若いからって調子乗るんじゃないよ。あんた、頂き村娘って呼ばれてるんだからね」
「ふーん。で?」
「まあ、反抗的!」
おばさんは怒りつつも、出番が来たのでステージに向かっていた。観客の拍手もまばらだが、ステージ上でお笑いをやったようで、最後は客の歌声や歓声も響いてくるぐらいだった。
「な、なにあれ。あんな風にはなりたくないけど。美女コンテストなんだし、ステージでお笑いやっても意味ないじゃない……」
ミアはだんだんと自信がなくなってきた。他の参加者も自慢の農家も果実のアピール、モノマネ、外国語の披露などで客を盛り上げていた。ミアはダンスをする予定だったが、おばさんやブス達が盛り上げたステージで勝てるかどうか不安になってきた。鏡の中にあるミアの表情もこわばってきた。
それに隣国から来た自称聖女・リリアンという女も飛び入り参加し、見事な歌やダンスを披露していた。
そのすぐ後にミアもダンスを披露したが、客席の反応は鈍い。いつもの取り巻きの男達も屋台の肉や酒を楽しみ、何の味方にもなってくれなかった。
タイミングが悪かったのだろうか。ミアはステージから降り、唇を噛んでいたが、次はあの修道院のシスター達も飛び入り参加し、讃美歌を披露していた。
その中央には薬草ヲタクのレーネの姿もあり、最後にはラベンダーのポプリもばら撒き、客席は大盛りあがりだった。
「ラベンダーは安眠の効果もあるぞ。緊張している時も、このポプリをお守り代わりに持っていくといい。それにラベンダーは……」
ステージ上でもレーネはヲタクっぽくハーブの効能を語り、なぜか会場は大ウケ。レーネの男っぽく早口言葉のような話し方が面白かったらしい。ミアの取り巻きも酒をのみつつ「ラベンダー、いいじゃん」と言っているぐらいだった。
結果、このシスター達が客の票をかっさらい、一位になってしまった。二位は自称聖女というリリアン。三位がミアだった。
この結果にミアは「は?」としか思えない。一応三位なのでステージに呼ばれトロフィーも受け取ったが、何も嬉しくない。必死に作り笑いで誤魔化していたが、内心は怒りで燃えたぎってる。なんでこんなブスなシスターや正体不明な聖女というリリアンに負けたの。理不尽だ。意味が分からない。
「美容にはローズマリーもいいのだ。お、ここは一応美女コンテストだったよな。美肌にはローズマリー水を飲むといいだろう。私もシスター達も修道院でみんな飲んでるぞ。もっとも老化というのは自然現象でもある。それを抗うのは、エゴでしかないかもしれない。まあ、若い女達よ。女子力だけでは乗り切れないものもある。その時の為に色々と備えるため……」
ステージ上でレーネがまたヲタクっぽく語っていたが、ミアの耳にはろくに届いてはいなかった。
レーネは一番大きなトロフィーを持ち、それを見るだけで腹に怒りが溜まっていく。
同時にこんな村のコンテストでも勝てなかった自分が惨め。怒りよりも、惨めさも膨れあがる。
そんな嫌な気分のまま、村の祭りは終わった。いつものように夜、ベッドで眠っていたが。
悪夢を見た。
三十年後の自分が夢に出てきた。顔もしわくちゃに老け、背は曲がり、髪も白髪だらけでボサボサだった。腹はたぬきのように太り、腕もぱんぱん。醜いおばさんになっている。
「きゃあああ!」
思わず悲鳴をあげながら目を開けた。
「ああ、夢……」
急いで自宅の洗面所へ行き、鏡を確認した。もう朝陽み登り、窓の外からは日差しが入り、鏡もキラキラと光っていた。
その中のいる自分はまだまだ若かった。十六歳の娘だった。
「良かった……」
口ではそう言うが、ミアの表情は重い。
もし、三十年後になったら? 自分はどうなるの?
怖い。このまま中見が空っぽの頂き村娘のまま老けていくのは。
「死にたくない。老けたくもない……」
不労不死の薬でもあればいいのに。ミアは床に跪き、不老不死を願っていた。このまま一生十六歳の村娘のままでいたい。




