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聖女の薬草処方箋  作者: 地野千塩


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不老不死とローズマリー(1)

 ミア・アンカーはマンナ村で一番の美女だった。


「へえ、美女コンテストなんてあるんだ」


 村の広場にある掲示板には、美女コンテストのお知らせが出ていた。今度の春祭りの日、村で一番の美女を決めるコンテストがあるらしい。


 このお知らせを見るだけで、ミアの口元が歪む。小馬鹿にしているような口元だった。


 正直、この美女コンテストは自信があった。去年一位だったアンネは子供が産まれて髪も肌も劣化したし、他もおばさんや冴えない田舎娘、それに修道院のシスターばかりだ。年齢制限のせいで去年は出場できなかったが、今年はその制限もない。


 このコンテスト、勝てるかもしれない。そう思うと、ミアの口元は余計に歪む。


 こんなミアだったが、彼女の容姿はよかった。背は高くは無いが、髪の毛はハチミツ色でふわふわ。白い肌は雪によう。まつ毛も長く、大きな目は湖のように澄んでいた。砂糖菓子のような容姿だ。


「おお、ミアか。このコンテスト出たらいいんじゃ?」

「そうだよ、ミア。出てみればいいじゃん」

「俺も賛成だ」


 そこに村の男達何人か集まってきた。農業哉牧場で働いている男達だったが、ミアの取り巻きだった。村ではミアファンクラブとも呼ばれていた。


 ミアはさっと口元を元に戻し、花が咲くような笑顔を見せた。この笑顔を見たら、さっきまでのミアを予想できる男達はいないだろう。


「そうね。このコンテスト、出てみたいかも。でも自信ないわぁ。みんな私より綺麗だもん!」


 ミアはわざと上目遣いをし、弱そうな女の子っぽいキャラを作る。


 ミアの中身はこんなに弱く無い。むしろ、かなりメンタルは太いが、こうする事で男達に受ける事は知っていた。


 男は見た目が弱い女が好き。自分が頼って欲しいからな。


 それはミアの死んだ婆ちゃんの格言だった。おかげでミアは村の男達にチヤホヤされ、服や宝石、食べものを貢がせる事にも成功していた。


 村の女達からは「頂き村娘・ミア」と噂されているが気にしない。ブスやおばさんの嫉妬に違いない。特にあんなおばさんには絶対になりたく無いものだと思う。


「そんな事ないよ、ミア、コンテストに出なよ」

「そうだよ、優勝するって」

「俺はミアに投票するから!」

「みんな、ありがとう!」


 ミアはわざと涙目を作り、男達に感謝した。その内面は「男ってちょろい!」とバカにしていたわけが。


 こうしてミアは役所に美女コンテストのエントリリーしに行き、正式に参加する事に決まった。


 その帰り道、修道院の前を通った。


 レンガ造りの大きな修道院で礼拝堂の方からは鐘の音も響いていた。


 田舎の青空に響く鐘の音は、なんとも呑気だが、礼拝堂には一般人は入れない。修道院には二つ大きな入り口があったが、門番も立っていた。


 施療院や菓子の売店は一般人でも入れるが、ミアはこの宗教っぽい雰囲気が苦手。一応家では信仰していたが、本当はモテる事や美少女コンテストの事で頭がいっぱいだったりする。正直、俗世間を離れて働いてるシスターや修道士は意味不明だ。ミアの価値観では全く分からない事でもあったが。


「ごきげんよう」


 そんな事を考えていたら、門から出てきたシスターの一人と目があった。


 しかも向こうは挨拶してきた。


 ださいメガネをかけ、猫背の冴えないシスターだった。ちょっと有名な聖女でミアも知ってる。確か薬草研究家で施療院で働いているレーネというシスターだ。修道院も中にある施療院では治療が受けられるらしく、村人も世話になっている者も多いらしい。といっても平和な村では怪我人も少なく、老人や貧乏人の専用施設といったところ。ミアとも無縁な場所だったが。


 レーネの肌は異様に綺麗だった。少しイラッとしてしまうほど。ミアも肌にも自信があるので勝手にライバル心も持ってしまう。ださいメガネをしているのも、余計に気に食わない。


「メガネ、ださくないですか?」

「そうか。機能的でとても便利なメガネだが?」

「へえ、引くし。もっと美容に気を使ったら? 美意識低くない?」

「おお、だったら美意識の高い君に綺麗なポプリをあげよう。これは私の育てたラベンダーやカモミール、レモングラスなどを絶妙に調合したもんでな」

「いえいえ、いいですから!」


 ハーブの話になると目をキラキラとさせ、早口で語り始めるレーネに引く。薬草研究家と聞いていたが、単なるヲタクではないか。


 ミアはレーネから走って逃げた。


「なに、あのシスター、気持ち悪!」


 男達の前では決して見せない邪悪な表情で。


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