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プロローグ

 義母と全く上手くいかない。毎日イライラして仕方ない。最近は夫にも当たってしまう。


「はぁ……」


 エルマ・アーレンスは馬車の中でため息をついた。エルマは村でごく一般的な主婦だったが、義母との関係に悩み、毎日怒りを溜め込んでいた。


 元々、エルマは大雑把で思慮が浅いタイプ。一方、義母は細かく、ガミガミと口うるさい。どうしても合わない所があり、しんどい。まだ子供はいなかったが、このおかげで夫との距離も出来つつあり、妊娠の兆候はなかった。


 そんな折、こんな噂を聞いた。とある村の修道院にいる聖女に相談すると、原因不明の病気や精神的な病も治るという。


 この時代は修道院が「施療院」という病院のような施設を運営し、人々の健康の面倒を見ていた。修道院の人間が健康相談を乗るのは珍しい話じゃない。特に貧乏人で医者にかかれない者は修道院の門を叩く者も多い。


 エルマは農民として働き、特に貧乏という事ではないが、この噂は気になった。イライラが辛いなどと医者に相談して良いかもわからない。


 という事で馬車で二時間ほどかけ、噂の聖女のいる修道院へやってきた。


 山の谷間にある村だった。周辺は山に囲まれ、川や花畑、牧場など美しい自然が溢れるマンナ村という所だった。


 その南部にある修道院は煉瓦造りのシンプルな建物だ。礼拝堂などは一般人は立ち入り禁止だったが、菓子の販売所や施療院は一般人でも入れるらしい。


 エルマは門番に事情を話し、噂の聖女のいる所まで案内してもらった。


 木造のやや古めの施療院の前を通り抜け、その側にある小さな小屋が聖女の仕事場らしい。


 小屋はさらに古めかしく、見た目はボロだったが、赤い三角屋根は少々可愛らしい。その側にはハーブ園もあり、ふんわりと良い匂いも漂っていた。春の日差しを浴び、ハーブも生き生きと元気そう。修道院の中にある牧場から羊の鳴き声も響き、何とも平和で長閑。エルマも一瞬、自分の悩みを忘れそうになる。特にハーブ類を見ているだけでも癒される。


「いや、目的を果たさなきゃ」


 ずっと癒されている場合でもない。エルマは聖女のいる小屋の扉を叩いた。扉には「レーネの薬草研究室」という板も飾ってあった。どうやら聖女の名前はレーネというらしい。


「ごきげんよう。どうぞ、お座りになって」


 すぐにレーネが出てきた。修道着姿の二十歳ぐらいの若い女だった。これは予想通りだったが、黒縁メガネをかけ、若干、猫背。体型も小柄。顔立ちは普通。切れ長の目は知的に見えるが、「うん? 聖女?」と首を捻りたくなるルックスではあった。


 それにこの研究室というのも……。本棚には沢山の書物や書類が詰め込まれ、入りきれないものは床に積まれていた。他の棚にはドライハーブが入ったガラスポットがずらりと並び、ビーカーなどの実験器具も散乱していた。一言でいえばごちゃごちゃした部屋。決して綺麗とは言えない。


 レーネの容姿、この部屋の汚さに「うん? 本当に聖女? いや、単なるヲタクじゃないか?」と首を捻りつつも、事情を話す。


 レーネはじっとエルマの顔色や声の様子などを観察し、診断を下した。


「そうか、イライラか。だったら寝る前にワインを沸騰させ、冷たい水を。分量はグラス半分程度。これを温かいうちに飲むがよい。クエンチワインという」


 レーネは早口だった。口調も男っぽく「いや、本当に聖女か?」とさらにエルマの首は傾げてしまう。


「そんなワインで効果あります?」

「あるいは、ワインにパセリと少量のお酢、ハチミツを加えて飲むと良いだろう。ハートワインと呼ばれているもので、疲れや怠さもとれる。あとは、ローズヒップやフェンネルティーなど……」


 レーネは早口でハーブの効能を語っていた。まるで水を得た魚だ。聖女というよりは、だいぶヲタクっぽいが、エルマは彼女の言う通りに実践した。


 すると本当にイライラも取れ、義母との仲も修復し、夫との関係も元に戻った。妊娠も発覚した。


 エルマは再びレーネの元へ出向き、御礼も述べた。


「それはよかったじゃないか。妊婦に効く薬草は……」


 相変わらずレーネは早口で薬草の効能をしゃべり倒していたが、最後に祈っていた。


「エルマにも神の加護があらんことを。神の祝福が豊かにありますように。神の御名によって、アーメン」


 レーネは確かに聖女っぽくはないが、祈っている姿は少しはそう見えた。


 その後、エルマはレーネの評判を人々の伝え歩いた。遠方からもレーネを頼りに来る者が増えているという。


 人々はレーネの事を薬草聖女と呼んだ。彼女が研究した薬草の研究は修道院だけに止まらなかった。一般的に広まり、彼女が書き残した薬草研究は後世まで語り継がれているという。

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