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第82話 暗黒竜戦5 ~勝利の代償・魔力喪失

 あっけにとられる私の顔の横にルミちゃんが来て浮かんだ。


「わしの助けはここまでや。ホンマはあかんのやけど、これほど苦戦するとは思わなんだ」


 ルミちゃんの姿が薄くなり消えていくが、頭の中で声が響いた。


『ほな、がんばりや』


 おんぶひもで背中にちびアンジェを背負った母が私に駆け寄り、背中からちびアンジェを降ろした。


「おんぶは久しぶり。アンジェリカも大きくなったわねえ」


 お母様、緊迫感とかないんですか? 

 目の前に暗黒竜いるんですけど……。

 肝っ玉だけは今でも大聖女ルシアなんですか?


「はい、どうぞ」


 母はちびアンジェを両手で持って私に差し出す。

 ちびアンジェもキョトンとして母と私を見比べる。

 不思議そうに受け取る私に母が言う。


「ちっちゃい女神様が『アンジェに渡せ、使い方はわかっているから』って」


 そうだ! ちびアンジェも大聖女ルシアの力を受け継いでいる。

 大きな魔力があるはず!

 私はギュッとちびアンジェを胸に抱きしめる。


「なあに、姉さま?」


 魔力を吸収したとたん、体の中に大きな光の波が押し寄せてきた。


「なに⁉」


 光の波にはじき飛ばされたように私は宙を舞った。


 魔力が大きすぎる! 私の手に負えない!


 母との会話を聞いていたシオンが反応して、地面に落ちていく私を寸前で受けとめた。


 ちびアンジェを見ると、体が金色の光に包まれて巨大な魔力を放っている。


「いったい、どういうことなの⁉」

「ゴーレムにつながれて魔力を無理に引き出されて、解放されやすくなったのかもしれない」 


 そう言いながらシオンはちびアンジェに近づいて抱き上げて、戻ってきた。


「私がコントロールしよう」


 左腕でちびアンジェを抱きかかえ、右腕を私の背中に回して抱きしめてキスをする。


「キャー、姉さま、シオンしゃん、ラブラブ……」


 ポーとほほを染めて、ちびアンジェが私たちのキスを見上げている。


「……お前ら、さっきっから戦場でなにやってんだよ」


 あきれたミラさんの声も聞こえてくるが構わずすごい勢いで流れてくる魔力に意識を集中する。

 あっという間に、もともとあった私の魔力量まで戻り、さらに増え続けていく。


 ちびアンジェの背中に金、緑、青、赤の四色の羽が現れた。


 これは双翼!

 ちびアンジェにはいったいどれだけの魔力があるの⁉


 暗黒竜は二つの頭の再生を終え、奥が赤く光る開いた口をこちらに向ける。

 私はキスしたままで右腕をふるって一瞬で二つの頭の前に魔方陣を出し、金の光で頭を包み込むと中で爆発が起きた。

 光が消えると首だけが見えた。


 私の背中には金色の双翼が輝きを増し始めた。


 母がそばにいるミラさんに話しているのか声が聞こえてきた。


「二人が生まれたとき、なぜか天使みたいな名前をつけなければって思ったんですけど、こういうことだったのかしら」


 私のアンジェリーヌと妹のアンジェリカ。

 どちらも昔、天使の意味だったというアンジェルという単語からとったと以前、母が教えてくれた。


 二人の名前がまぎらわしいのは、そういう理由だったんですね……。 って、お母様、この状況で昔語りですか!


 と突っ込んでいるうちに私の体が魔力で満たされ、シオンがキスを止めて体を離した。 


「アンジェ、これで終わらせよう」 


 私はうなずいて、暗黒竜を見据えて両腕を開く。


「光に帰せよ、光華邪浄!」


 暗黒竜の上に、小さな魔方陣が浮かんで一気に広がって暗黒竜を覆うほどに大きくなる。

 その上にさらに一つ、さらにその上に一つ、合計三段の巨大な魔方陣を作り上げた。


 金色の双翼が輝きを増す。

 三つの魔方陣は回転を始め、これまでよりもはるかに強く輝く光を暗黒竜に降り注いだ。

 瘴気が黒い煙のようにが体中から吹き出て魔方陣へと吸い込まれていく。

 一番下の魔方陣を通り過ぎた瘴気は二番目の魔方陣に吸われ、そして、最後に三番目に吸われて消えていく。


 暗黒竜の再生しつつある口からグォーとでも聞こえる断末魔のような声を響かせた。

 首が一本、消えていき、もともとあった中央の一本だけが残った。


 これが最後!

 全ての魔力を使い切ってでも倒す!


 背中の金色の羽がこれまでなかったほどに大きくなり、高々と空に伸びていった。


 おお! と見守る人たちからも驚きの声が上がる。 


 暗黒竜に降り注ぐ光は輝きを増す。

 見ている人がまぶしくて目を覆うぐらいになった。


 光の中の暗黒竜の姿すら見えない。


 もうじき魔力が尽きる!

 かまわない、最後の一滴まで使い切る!


 一瞬、カッ!と双翼が強い光を放つと同時に魔方陣の光も当たり全てを覆い尽くすような強い光を発した。

 その光の中から、ギャー! という暗黒竜の大きな叫び声が聞こえた。


 私の体の中でパシッ!となにかが強く弾けた。

 体のあちこちが引きちぎられるような痛みを感じる。


 魔力が尽きた。


 体の中の魔力が完全になくなったのがわかった。

 その瞬間、双翼も魔方陣の光もスーと小さくなり、そして消えた。


 暗黒竜は?


 暗黒竜の姿は見えなかった。

 暗黒竜のいたところに馬ぐらいの大きさの白く首の長い四つ脚の生き物がグッタリと横たわっていた。


「あれはなに……?」

「ドラゴンみたいに見えるな」


 私の隣に来たシオンが答えてくれた。


 白い小さなピピが飛んできて、その生き物のそばに降りて近寄っていき、顔と顔を近づけた。


「ピピと話してるみたい」


 ピピが顔を離し、話が終わったように見える。

 白いドラゴンの体が少しずつ粉になり崩れ始めた。


 私たちがおそるおそる近づいていくとピピもこちらに近づいてきて話しかけてきた。


「ボクラ、ジュミョウ、センネン。ダケド、アノ、ジイチャン」


 やっぱり話してたんだ。


「ヨンセンネンイキタッテ。デモ、ヤスラカニ、イケルッテ。アリガトウッテ」


 白いドラゴンは風に吹かれて少しずつ崩れていき、白い粉になって風に吹かれて散っていく。


 私はそれを見ながらシオンの手を握った。


「これで終わったのね」

「ああ、やっと終わった」


 そして、なにもなくなった。


 シオンは私の肩を抱いて、優しく微笑んでくれる。


「これから、忙しくなるよ」

「そうね、でも、とっても楽しみ」


 結婚式とか新生活とかの準備、そうだ、新婚旅行も行かなきゃ。

 一度、私も外国に行ってみたいな……。


 と考え始めたが現実に引き戻された。


 聖女って簡単に辞めさせてもらえるんだろうか?

 エリザさんも辞めさせてもらえなくてもめてた。


 それに、私が辺境伯家に嫁ぐとなったら王族や政府は必ず反対する。

 すんなりいくんだろうか? いや、いくわけがない。


 落ち込み始めた私を見て、シオンが心配して声を掛けてくれた。


「どうしたの? 心配なことでもあるの?」


 私を優しく見る目を見つめながら考えた。

 誰にも私たちのジャマはさせないんだから。


 フン、と思わず鼻息が荒くなった。


 そんな私を不思議そうに見るシオンの腕に腕をからめてすがりつく。


「もう、離さないから」

「ああ、王国軍と戦ってでもね」


 私は驚いてシオンを見るが、クスッと笑われた。


「冗談だよ」

「偶然ね。私も同じ冗談を考えていたとこなの」


 ハハハハ、とお互い笑い合うが二人とも目が笑っていなかった。


 離れたところからレティシアさんの大きな声が聞こえてきた。


「さあ、祝勝会だ! 三日三晩、飲み明かそうぞ!」


 シオンが私の手を握って、レティシアさんの方に歩いていく。


「必ず道はあるさ。今日は私たちも飲もう!」


 そうだ。今は全てが終わったことを喜ぼう! 

 悩むのはあとでいい。


◇◆◇


 三日三晩とは行かなかったが二日間に及ぶ大宴会が終わった。


 私と家族を含む王都組は王都に戻ることになり、シオンも国王陛下への説明のため、同行することになった。


 私と家族とシオンはピピに、エリザさんとライルさんも重いのでやはりピピと同じドラゴン、他の方々は二人一組で翼竜にと振り分けられた。

「アンジェ、風での加速は全員お任せしてもよいですか? あなたの魔力ならたやすいでしょう」


 シルビアさんは王都からの移動と戦いでかなり疲れられていた。


「あ、はい。大丈夫と思います」


 みんなを乗せた翼竜とドラゴンが浮かび上がり、後ろに風を起こすように風魔法を発動しようと振り向いたとき気づいた。


 魔力がない!

 体の中にマナを全く感じない⁉


 暗黒竜との最後のときに魔力の全てを使い切ってから、全く回復していない。

 あれから魔法を使う機会がなく意識もしなかったので全然気がつかなかった。


 私の異変に、みんな一度着陸して集まってきた。


 エリザさんがあわてて金色に光る右手を私にかざす。

 顔色を変えて、みんなに叫んだ。


「誰か、アンジェの魔力を感じる人はいませんか⁉」


 ソフィア様、シルビアさん、ミラさん、みんなで私を囲むが、シーンと静まりかえった。


 誰も私の魔力を感じられなかった。

 私は魔力の全てを失っていた。



次回、「最終話 双翼は再び輝く ~南に向かう流れ星」に続く。

魔力を失い聖女隊を引退したアンジェは無事に結婚式を挙げて辺境へと旅立つ。

しかし、シオンと聖女隊の面々は気づいていた……。

※最終話の先にエピローグあります。


ぜひ、評価、ブックマークよろしくお願いいたします。

今後の参考にさせていただきたいと思います。


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