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第81話 暗黒竜戦4 ~女神の切り札

 私たちに向かってくる赤い熱線の前に赤い魔方陣か浮かび、巨大な火球を発射した。


「アンジェは浄化だけやってろ!」


 火球が正面から光線とぶつかり激しく飛び散る。


「助かったわ、ミラ。だけど、わたくしも限界みたい……」


 エリザさんは両ひざに手を置いて、うつむきハーハーと苦しそうに息をしている。

 ライルさんがあわてて駆け寄ってきて、エリザさんを両手で大事そうに抱えて後ろに走っていった。


 このままじゃだめだ……。


 ミラさんの魔法はもともと攻撃用。防御に使えなくはないが……。

 暗黒竜の首が上空を向いて口を開いた。


 ミラさんは火球で頭を狙うが間に合わない。

 口から出た赤い熱線が飛んでいた飛竜数匹を打ち落とした。

 さらにレティシアさんの乗ったピピにも命中した。


 落ちていくレティシアさんは、白い小さな姿に戻ったピピを抱きかかえ、急降下して助けに来た別の翼竜の脚につかまって離れていった。


 その光景にホッとした私にソフィア様が叫んだ。


「アンジェ、浄化を急いで!」


 魔方陣に魔力をさらに注ぐと金の光が輝きを増した。

 しかし、ソフィア様の魔力をかなり使ってしまった。


 二つの頭がこちらを向き、私とソフィア様に向かって口を開いた。

 ミラさんは再生が進み始めた羽の付け根に獄炎撃の炎をぶつけている。


 間に合わない!


 浄化の魔方陣は出したまま、こちらを向く頭を二つの球で包んだ。


 ボン! ボン! と球の中で爆発が起きた。

 球が消えると頭のない首が二つ現れた。


 これでしばらく、熱線はだせない。

 だけど、今の防御魔法でソフィア様の魔力を使い切ってしまった。


「ごめんなさい。もう、役に立てないわ……」


 ソフィア様は握った私の手を離して、後ろに下がって行く。


 まずい……。


 私は周囲を見渡した。

 大砲はすでに弾が尽きたのか、砲撃できないものがどんどん増えている。

 空の翼竜も弾薬を使い果たしたものから地上に降りていったのか、もう、数匹しか飛んでいない。


 ピピも打ち落とされた。


 ミラさんも肩で息をしており、じきに魔力は尽きる。


 シオンは苦しそうにうずくまりながらも魔法を続けているが、もう首もシッポもかなり動けるようになっている。


 だけど、ソフィア様のおかげで私の魔力はまだ半分は残っている。


 よし、勝負を賭ける!

 熱線が来ないうちに残りの魔力で一気に消し去る!


 魔力のありったけを送るつもりで両腕を大きく広げる。

 魔方陣が輝きを増して回転を始めた。


「行けー、アンジェー!」


 ミラさんに私の気合いが伝わったのかゲキが飛んできた。


 両腕を空に向かって大きく広げて叫ぶ。


 「これで終わりよ!」


 背中の双翼が金色に輝き、魔方陣もさらに光を増してまぶしいほどに輝く。


『アカーン! そーやない!』


 突然、頭の中で女の子の声が響き渡り、私は思わず動作をピタリと止めてしまった。


 ポン! と目の前に女の子の姿が現れて浮かんだ。


「ル、ルミちゃん⁉」


 突然固まったように動きを止めた私を見てミラさんが驚いた。


「お、おい、アンジェ、どうしたんだ?」


 どうやらルミちゃんは私にだけ見えているらしい。


「残りの魔力一気に使ってる途中で、頭の再生が終わって攻撃されたらどうすんねん? 防御に魔力回して、浄化も終わらず魔力使い切ってアウトやで」


 たしかにそうだ。

 イチかバチかの決断だった……。


「では、どうすれば……」

「シオンに魔力を分ける、そやな、半分ぐらいでええやろ。ほんで、もっと動きを押さえるんや」

「だけど浄化ができなくなってしまうのではないですか?」

「切り札、用意してやったで。だいぶ遅れとるがもうじき着くやろ」


 えっ、切り札?

 もうじき来るって王国軍とか騎士団とか?


 だけど、秘策もあんなのだったし、今ひとつ信じ切れない。


 思わず疑うような目でルミちゃんを見てしまった。


「ほら、はよせんか! 次の攻撃が来るで!」


 あわてて浄化の魔法は発動させたままで、苦しそうなシオンに駆け寄る。


「私の魔力を分けるから」

「だめだ、それでは浄化が……」


 シオンは疲れきった声で答えた。


「大丈夫、切り札があるって、ルミちゃ……女神ルミナスが教えてくれた」

「女神の切り札?」


 あっ、疑わしそうな顔をした。

 やっぱり、わたしと同じこと考えてる。

 秘策がアレだったし大丈夫だろうか……と。


「急ぎましょう! 私の魔力を移すわよ」


 そう言ってシオンの手を握る。


「あかん、あかん!」


 また目の前に現れたルミちゃんにダメ出しされた。


「アンジェのデカい魔力移すのに、そんなまだるっこしいことしとったら時間ばっかりかかるで」


 ソフィア様の時と違って、私もシオンも魔法を使いながらマナの移動をしなければならず、一気にやらなければならない。


「くちづけ、じゃ」


 はっ?


「ん、不服か? なら裸で抱き合うか、毎晩やっとるみたいに。効率は一番ええな」


 ニヤニヤ笑うルミちゃんを真っ赤になってにらみつけた。

 このマセガキ! ポンコツ女神! ダ女神! 

 こんな非常時になに言ってんのよ! 


「こら、聞こえとるぞ」


 しまった、目の前にいるのは我が国の守護神、女神ルミナス様だったのを忘れてしまった。


「す、すみません。では、くちづけでやります」


 赤くなって怒ったり、オロオロする私を不思議そうに見ているシオンに顔を近づけていく。


「私の魔力の半分、受け取って!」


 みんなが見ている前でのキスで恥ずかしいが、ルミちゃんの言うとおり、残った魔力の半分を一気にシオンに移した。


 とたんにシオンの魔法の黒い帯は元気を取り戻し、二本の首に巻き付き地面にねじ伏せた。


「やっぱり、アンジェの魔力はすごいね」


 シオンが感心したように言うのを聞きながら、私は、両腕を大きく広げて気合いを入れ直す。


「さあ、あと二本よ!」


 そう言って魔方陣を回転させて、金の光を暗黒竜に降り注ぐ。


 首の一本が薄くなっていき、魔方陣に吸い寄せられていく。


 だけど、残った魔力の感じだと最後の一本は無理だ。


「ルミちゃん! 切り札って、いつ来るの?」


 今度こそ、私の魔力は残りわずか、あと一本を浄化する前に完全に使い切ってしまう。


「おー、やっと来よったで」


 ルミちゃんが後ろの方を見るので振り返る。


 離れたところに兵士が操る翼竜がちょうど地面に着陸していた。

 兵士の後ろに疲れた顔の女性がなにかを背負って座っていた。


 女性は兵士の手を借りながら翼竜から降りてくる。


「ほんと、辺境って遠いわねえー」

「申し訳ありません。二人乗り、いえ、三人乗りは重量オーバーでして」


 降りてくる女性を見て驚いた。


「お母様⁉」


 そうか!

 娘のピンチに大聖女ルシアの記憶がよみがえったとか、ついに眠れる力が覚醒したとか、そういうことなんだ!


「ちゃう、ちゃう。アンジェの母ちゃんはホンマに魔法はできへん。前に言うたやないか」


 がくっ、と拍子抜け。

 じゃあ、なにが切り札なのよ⁉


「ほら、あれじゃ」


 母に背負われている小さな女の子が私に向かって手を振った。


「姉さまー!」

「ちびアンジェ……?」


 これが女神の切り札?

 近づいてくる母とちびアンジェをポカンと口を開けて見た。


次回、「第82話 暗黒竜戦5 ~勝利の代償・魔力喪失」に続く。


ぜひ、評価、ブックマークよろしくお願いいたします。

今後の参考にさせていただきたいと思います。


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