第71話 女神の語る大聖女ルシアの転生者 ~えっ私じゃない?
私は片ひざをついて顔を伏せ、うやうやしく言う。
「初めてお目にかかります。わたくし水の聖女アンジェリーヌ・テレジオ、本日は女神ルミナス様にお知恵をお借りしたきことあり、大変失礼ではありますが、眠りを妨げることお許しいただきたく……」
『あー、よいよい。そんな堅苦しいあいさつはいらんぞよ。ワシにとっては初めて会うというわけでもないからのう』
えっ? 驚いて思わず顔を上げて光のかたまりを見た。
私と会ったことがある?
それにこの親しげな口調はなに?
『この姿では話しづらいか。ほな、ちょっと変わろか』
光のかたまりが小さくなっていき、明るさを増していく。
ふっと光が消えると、私の目の前に長い下着のようなシャツを着た十歳ぐらいのかわいい金髪の女の子が立っていた。
「このほうが話しやすかろう。ルミちゃんとでも呼んどくれ」
ずいぶん気さくな女神様……。
言葉もなんか変だけど、これって女神語とか?
「ま、かけて話そか」
そう言って女神ルミナス……、いえ、ルミちゃんは石でできたテーブルとイスを指差した。
イスに座って周囲を見渡すと、机やイスなど家具っぽい石細工が置かれていた。
「ルミナス様……じゃなくて、ルミちゃんは、ここに一人で住んでいるのですか?」
「ああ、そやで。普段はたいてい寝取るけどな」
「さみしくないですか?」
「いやー、別に。人間としての人生を外の世界でやっとるから、さみしいことはないぞ」
言っている意味がわからず首をひねった。
「大聖女ルシアは死んでからも転生を繰り返して、今も外の世界で普通に暮らしとる。彼女はワシの分身みたいなもんじゃから、違う人生を何度も一緒にやってるようなもんじゃよ」
えっ⁉
大聖女ルシアがこの二千年、誰かに生まれ変わり続けてる⁉
「二千年前の大戦のように、女神のワシが介入すべき事態が起きないか見張ってる、というのもあるんじゃがな」
そして彼女を通じて女神ルミナスは世界を観察している。
「貴族だったり、平民だったり、農民だったり。どう転生するかは行き当たりばったり。退屈せえへんよ」
大聖女ルシアの転生者……、あっ! まさか⁉
私は気づいた。
「私は大聖女ルシアの生まれ変わりなのですか⁉」
そうであれば、私の人並み外れた魔力の説明がつく!
「ブー、外れ」
がくっ、思わず拍子抜け。
なーんだ、違うのか……。
「じゃがな、アンジェのことはずっと前からよく知っておるぞ。例えば、四歳までオネショしてたとか」
「な、な、なんでそのことを……」
カーと顔が赤くなる私を見てルミちゃんは愉快そうに笑った。
「もっと前、生まれる前のことも知っておるぞ」
あっ……まさか⁉
「母、ですか⁉」
「ピンポーン、正解!」
えーっ! 母が大聖女ルシアの生まれ変わり⁉
いや、だけど、そんなはずは……。
「本人は気づかず普通の人として暮らすし、魔法は絶対使えないようにしておる。そうでないと世界がおかしくなってしまうからのお」
母は魔法は全く使えないし、ごくごく普通の女性でしかないが……。
「ではなぜ、私と妹はルシアと同じ四属性の魔力を受け継いでいるのですか?」
ルミちゃん、腕組みして首をひねった。
「うむ、それが、わしにもよくわからんのじゃ」
「女神様でもわからないことあるんですか?」
「わしとて全知全能ではないし、ルシアと意識をつなぎっぱなしということでもないからのお」
でも、突然、四属性持ちの姉妹が生まれるなんて、母からルシアの能力が遺伝したとしか説明できない。
「もしかすると、お前たち姉妹は二千年前の大戦を上回るほどの災厄への備えかもしれんな」
そう言いながら私の目をみつめた。
「最近、暗黒神の力が以前よりも増してるし、暗黒竜を封印してから二千年、ルシアの封印は確実に弱まっておる」
私は思わず息を飲んだ。
「アンジェたちが戦った一年に一度やってくる魔獣たちは月の満ち欠けの影響で闇の力が一年で最も高まるとき、意識のない暗黒竜に呼び寄せられとるんじゃよ。だから知能の低い虫みたいのしか来ない」
増大する闇の力、弱まるルシアの封印、呼び寄せられる魔獣たち。
いったい、なにが起ころうとしているのか?
「暗黒竜の目覚め……、復活が近いのかもしれんぞ」
ゾッとするほどの悪寒が走った。
「その備えとして、かってのルシアの力をお前たち二人に与えたのかもしれん」
「与えたって、……誰が、与えたのですか?」
「女神のワシや暗黒神を創った存在。ワシは『大いなる意志』と呼んでおる」
つまり、神様の神様?
だめだ。もう私の理解できる範囲を超えている。
しかし、ルミちゃんはデヘヘと照れて笑った。
「まあ、実際のところはワシが管理しそこねて、うっかりやっちゃった、というとこじゃろ。ときどき、何年か眠り続けるようなこともあるしな」
脅すだけ脅して、そういうオチですか……とホッとタメ息。
「あとは、ワシの力を無効にする暗黒魔法とかがあるのかもしれんな」
闇の力による光の力の無効化というのはありそうだけど、それが母に使われるというのはどう考えてもあり得ない。
そもそも、本人含めて誰も母がルシアの転生者ということをしらないのだから。
そうすると、この女神の怠慢のおかげで私は一年間も苦労したんだ。
思わず恨めしげな目でルミちゃをジーと見てしまった。
「まあ、なんにせよ生まれてしまった以上、それを排除するのもまた人間界への介入になるから、ほっといておるけどな。ただ、目に余るようなことが起きたら別じゃ」
そう言って私を見るルミちゃんの目に冷たい光を感じた。
これは警告だ。
もし、私やちびアンジェが『女神が介入すべき事態』を引き起こせば、容赦なく『排除』するぞ、と。
「さて、本題に入ろうか。相談事はなんじゃ?」
私の説明を聞いたルミちゃんは腕組みをしてうなった。
「うむ。暗黒竜の再生速度はすさまじいし、体の一部からでも再生されるから、その者の言うように浄化がヤツを倒す唯一の方法じゃ」
やはりそうなんだ!
ユリウスってやっぱりすごい人だったんだ!
希望が一気に胸に広がったが、あれっ? と思う。
だったら、なんでルシアは二千年前に倒せなかったの?
「じゃが、何千年も瘴気をまとってるバケモノ。その浄化には強大な魔力が必要で当時のルシアの魔力ですら足らんかった。今のアンジェの力は当時のルシアにかなり近づいたが、やはり無理じゃろう」
やっぱり、そうなんだ……。
本家ができないことを二千年後のまがい物ができるわけがない。
希望はまた絶望に変わり、ションポリとうなだれた。
「そうしょげるでない。お前の魔力をもっともっと大きく、ルシア以上に高める秘策がある」
驚いて顔を上げてルミちゃんを見るが、なぜかニヤニヤと笑って私を見ていた。
次回、「第72話 女神の秘策 ~彼と『する』ってことですか⁉」に続く。
女神ルミナスはアンジェに大聖女ルシアを越える魔力を得る秘策を授ける。
しかし、その内容は奥手のアンジェの顔を真っ赤に染める内容だった……。
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