第70話 大神殿突入 ~ひれ伏す教皇
天国にでも行って女神ルミナスに聞けっていうの?
こっちはマジメに相談に来てるのに!
「からかってるわけじゃないよ。二千年前の大戦が終わったあとに女神ルミナスは地下深くで眠りについて、その場所に建てられたのが光神教の大神殿という言い伝えだよ」
大神殿は聖女就任式を行ったところだけど、あんなところの地下に女神が眠ってる?
「それで、どうすれば会えるのですか?」
「ボクも一度会いたいと申請したけど却下されたぐらいで全くわからない。教皇なら知ってるのではないかな」
光神教の教皇。
国王と並ぶ権力者だが並ぶというよりも対立している、と言った方がいいかもしれない。
人前にはめったに出てこず、エリザさんですらほとんど会ったことがないと言っていた。
面会を申し込んでも会ってもらえるだろうか……。
えーい、考えている時間は無い。
大神殿に行って直談判だわ!
考え込んでいたユリウスがつぶやくように言う。
「暗黒竜は浄化できれば倒せるかもしれないな」
「どういうことですか?」
「魔獣というのは普通の生物が瘴気に犯されてできたものとボクは推測してる」
たしかに、ピピはドラゴンだけど悪い魔獣じゃない。
生まれてすぐ瘴気にさらされる前に飼われたから魔獣にならなかったのかも……。
「浄化して魔獣になる前の生物に戻せれば、大聖女の敵ではないだろう」
「でも、浄化魔法なんて聞いたことないけど……」
「ルシアは使えたらしいが現代には伝わってないな。理論的には治癒魔法の一種だろう。これも女神ルミナスに聞いてみるといい」
「ありがとう、ユリウス!」
あのときは、だましてごめんなさいと言いたかったが止めておいた。
また勘違いされたら大変だ。
「礼はいいから、女神ルミナスに会えたら大聖女ルシアの魔法について詳しく聞いて、ボクに教えておくれ」
そう言いながら手を振るユリウスに見送られて私は魔法研究所をあとにした。
さあ、目指すは大神殿!
この瞬間にもシオンの体は死に向かっているのかもしれない。
急がないと!
とは思うが、大神殿で教皇と会うのだからと急いで家に帰って、聖女の正装には着替えておくことにした。
大神殿のそばまで来た私は正門を遠くからながめる。
門番の衛兵が二人立っている。
聖女が教皇に会いにいくんだから堂々と正面突破、そのための聖女服よ。
私は聖女、私は聖女。心の中で唱えながら堂々と胸を張って当然というような顔をして正門へと入っていく。
「おい、そこの女、どこへ行く!」
やっぱりダメか。
足を止めて呼び止めた門番をにらみつけ、できるだけ険しい表情を作って一喝する。
「大神殿を警備しながら、聖女の顔すら覚えてないのですか!」
「あん……?」
私を不思議そうに見ている。
うーん、まだ知名度不足か。
では、これでどう?
背中に四枚の羽を出して輝かせ、ついでに空に金、緑、青、赤、四つの大きめの魔方陣を浮かべて回転させる。
「私は水の聖女、アンジェリーヌ・テレジオ。思い出していただけましたか」
「そ、双翼の大聖女……さま」
「よろしいですね。通りますよ」
内心ドキドキしながら、ア然としている門番の人たちの前を通り過ぎて大神殿の敷地に入っていく。
あっ、そうだ。
私は門番を振り返る。
「あの、教皇様ってどちらにいるんですか?」
門番の一人が敷地の中の高い塔を指差した。
「あの塔の最上階の七階に……」
「すみません、助かります」
ペコッとおじぎをしつつ気づく。
ダメダメ、地が出ちゃってる。
双翼は出しっぱなしにして、胸を張って堂々と塔に向かって歩いていく。
おかげで、すれちがう警備員や神官はポカンとして見るだけで呼び止められることもなく塔までたどり着いた。
しかし、さすがに塔の入り口は警護も厳重になっている。
甲冑を着込んだ警備員が四名、槍を手にして立ちはだかった。
「なりませぬ。水の聖女様といえども許可無しにお通しするわけにはいきません」
さすがにここの警備の人たちは門番より優秀。
私のことは知ってるし、職務にも忠実。
「ごめんなさい」
右手を振るい、四人の警備員それぞれの体の前に金の魔方陣を出して光の糸のクモの巣、聖光蛛縛を発射する。
「うわー!」
警備員たちをクモの巣に張り付けたまま飛ばして、そのまま壁に貼り付けて身動きをできなくした。
塔の階段を登って一階上がるたびに廊下を警備員が走ってくるが、どうせ話は通じないので、片っ端から壁に貼り付けていく。
七階にたどり着いて廊下を進む。
教皇がいる階だからか、ひときわ多い十数名の警備員が槍や剣を手にしてこっちに走ってきた。
「ここを通すなー!」
一人ずつ貼り付けるのは面倒くさい。
まとめてやっちゃおう。
右手をかざし青の魔方陣から突風を出して全員まとめて廊下の端に向けて吹き飛ばす。
”ひぃー!”
ひとかたまりになった警備員が壁にぶち当たりそうになり、悲鳴を上げる人もいる。
ケガさせちゃだめ。
壁に当たる寸前で突風をつむじ風に変えて人のかたまりを廊下にそっと落とした。
そして真上から放った聖光蛛縛で廊下にまとめて固定する。
警備の人たちが来た方にいるはず、と奥に歩いていき、ひときわ立派な両開きのドアの前に立った。
たぶん、ここね。
コンコン、とノックしてドアを開く。
「失礼しまーす。教皇様はこちらでしょうか」
広い部屋の奥に大きなベッドがあって誰か寝ている。
返事がないので、勝手に入っていってベッドをのぞき込むと老人が眠っていた。
聖女就任式で見た人、教皇だ。
かなりお歳だから、昼から寝てるのね。
「教皇様、すみませんが起きていただけますか」
申し訳ないと思いながら体をゆすると、教皇は目を開いた。
私を見て、驚きながらゆっくりと上体を起こした。
「おお……、双翼の、大聖女様……」
部屋の入り口から大きな声が聞こえてきた。
「教皇! ご無事ですか⁉」
振り向くと、オークス枢機卿が駆け込んできていた。
教皇はかまわずベッドから降りて私の前に両ひざをついてひれ伏す。
「大聖女様、この二千年、代々の教皇がずっとお待ち申しておりました」
私はキョトンとしてその様子を見た。
「半月ぐらい前には、双翼は出てましたけど?」
「なんですと⁉」
教皇はギロッとオークス枢機卿をにらんだ。
「これはどういうことだ⁉」
「い、いえ、私の方で手なずけてから、じゃなくて、光神教の言うことを聞くようにしてから報告しようかと……」
「この無礼者!」
入り口に向かって叫んだ。
「だれかおるかー! こいつを引っ捕らえろ!」
廊下から入って来た警備の兵がオークス枢機卿の腕を取って、外へと連れていく。
その後ろ姿に教皇が言う。
「あとで、ゆっくりと話を聞かせてもらおう」
なんだろう。
正式トップと実質トップの争いみたいなものかな。
いやいや、そんなことにかまってる場合じゃない。
わざとらしく双翼をさらに輝かせて、まだひざまずいている教皇を威厳を込めて見下ろす。
念のため、ちょっと大げさに言っておく。
「この世界を救うため、女神ルミナスに急いでお会いする必要があります」
教皇の信仰心は俗物の枢機卿とはちがうのか、ハハーとかしこまって頭を下げて承諾してくれた。
教皇は私を大聖堂の女神ルミナスの像の前に連れていった。
お付きの人に命じて、床に引かれた厚い石板を何枚か床から外させると、地下に続く階段が現れた。
教皇は私だけを連れて、階段を降りて地下へと進んでいく。
光球を手の平の上に出して灯りにして周囲を照らす。
「この下で女神ルミナスに会えるのでしょうか?」
「会えるかどうかは、あなた様次第です」
「私次第?」
それには答えず、教皇は下へ下へと降りていく。
階段を降りきると、前方に真っ直ぐに続く通路があった。
通路を進んでいくと金色に輝く壁があり、行き止まりになっている。
壁じゃない、これは光の障壁だ。
近寄っていくと障壁の前の地面に人の背丈ほどの棒が刺さっていた。
棒の先っぽに金でできた四枚の羽の装飾があり、その中心に金、緑、青、赤の四つの宝石がはめ込まれている。
これは聖なる杖。
きっと、これが本物なんだ。
そう思いながら自然に手が伸びていった。
「この杖を抜ける者だけが女神ルミナスに会うことができます。過去二千年の間に何人もの聖女が試しましたが、誰も抜くことはできず……」
教皇がなにか説明してくれているが、本物のできの良さに思わず手に取ると地面からスポンと抜けてしまった。
教皇がその様子をあっけにとられて見た。
「あれ? 抜けましたか、そんなに簡単に……」
杖が抜けると同時に通路を塞いでいた金の障壁が消え去った。
さらに奥が見えている。
「ここから先はお一人でお進み下さい。わたしは入れませぬので」
そう言って奥の方に手を差し伸べると、現れた金色の光の壁にバシッと手を弾かれた。
私は聖なる杖を手にして、奥へと進んでいった。
通路には一メートルおきぐらいに光の障壁が張られているが私が近づくと消えていく。
ずいぶん、厳重ね。
通路の先に光が見え、そこに着くとまぶしいほどの光に包まれた巨大な空間が現れた。
思わず手で目を覆い、目を細めて光がどこから来るかを探す。
正面に巨大な光のかたまりがあり、ぼんやりとだが立っている女性のようにも見える。
直接頭の中に女性の声が響いてきた。
『よく来ましたね、アンジェ。待っていましたよ』
これが、女神ルミナスだ!
次回、「第71話 大聖女ルシアの転生者 ~えっ私じゃない?」に続く。
女神ルミナスに会うアンジェは自分とちびアンジェの出生の秘密を聞くことになるが、それは全く想像すらできない事実で……。
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