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第64話 反逆の大聖女2 ~vs風の聖女・形勢逆転

 エリザさんの怒った声が聞こえてきた。


「あの子なにやってんのよ! あんなのに乗ってきたら逆効果じゃない!」


 あっ、まずい。やりすぎた……。

 あわててピピを着陸させて飛び降りて、変身して小さくさせた。


「ピピ、ありがとう。上で待ってて。シオンを助けたら呼ぶから。そしたら、みんなで辺境に帰るわよ!」

「ワカッタ、タノムヨ、アンジェ!」 


 使わない槍はじゃまなのでピピの首にかけて、空へ飛んでいくピピを見送って、私は正面を見据える。

 強化魔法で声大きくして魔法の風に乗せてよく響くようにした。


「私に戦う意志はありません。シオンを返して下さい。そうすれば二度と皆さんの前には現れないと約束しましょう」


 ハイデル局長が鼻でせせら笑ったのが聞こえた。


「なにを言うか。お前にはこれからも、もっと働いてもらわねばならんのだよ。兵器としてな」


 そう言って、騎士団の方を向いた。


「おい、さっさと行って、捕まえてこい!」


 騎士たちが隊列を組んで前に進み始めた。


 お願い、こっちに来ないで!


 祈りながら、騎士団の人たちとの間の空に横一列に赤の魔方陣を十数個浮かべて地面に火球を連続して叩き込んだ。

 バーンバーンバーンとくだけた炎と土煙が舞い上がる。


 騎士団のリーダーらしい人があわてて戻っていった。


「わ、我々がかなう相手ではありません」


 ハイデル局長の高笑いが聞こえた。


「魔法もドラゴンも全部、こけおどしだ。あの女に人を殺したり、傷つけたりすることは絶対できん」


 まずい、全部読まれてる。


「甲冑を脱いで剣も置いていけ。全員で行って、二、三発引っぱたいて連れて来い!」


 騎士団の人たちはしぶしぶといった感じだが、武装を解いて、私の方にゆっくりと前進を始めた。


 困った……。痛いところをついてくる。

 五十名の騎士に傷を与えず戦って勝つというのは無理だ。

 仕方ない、多少の痛みは我慢してもらおう。


 動いてくる騎士たちの上空を覆うほどの緑の魔方陣を展開して風で雲を集めてくる。

 騎士たちは上空がどんどん暗くなっていくことを不思議に思い、空を見上げはじめた。

 そして青の魔方陣を加えてポツンポツンと雨を降らせ始める。


 私の背中から双翼が現れて輝き始めた。


「なんだ? 雨で俺たちを止めようっていうのか?」


 騎士たちのあざけり笑いが聞こえてくる。

 いいえ、雨じゃありません。

 雲は黒雲になっていき、ゴロゴロと音がし始める。


「雷?」


 驚いて見上げる騎士たちと同時に、エリザさんが気づいた。


「いけない!」


 エリザさんが腕を振るうと光のドームが騎士たち全員を覆った。


 その上からピカッ!と光ったいかずちが何十本も光の壁を通り抜けて騎士たちに降り注いだ。

 五十人の騎士は一瞬にして地面に倒れた。


「光障壁が効かない?」


 エリザさんが驚くが、これは大聖女ルシアが使った魔法障壁に対する攻撃魔法。

 雲は魔法で作っても雷は自然現象なので光障壁をすり抜けてしまう。


 シルビアさんの声が聞こえてきた。


「今のアンジェは天候すら操れるというの……」


 あっ、まずい!

 まだ、威力のコントロールがうまくできない。

 ショックで心臓が止まってる人がたくさんいる!


「つつみこめ、光華再還!」


 倒れている五十人全員の上に金の魔方陣を展開する。

 

「ひ、人殺しだ! 聖女が人を殺したぞ!」

「いいえ、大丈夫ですよ。全員、蘇生させたようです」


 エリザさんがうろたえるハイデル局長に説明してくれた。

 全身を金の光で包み、雷のショックで心臓が止まった十数人を蘇生し、全員のやけどを治癒しておく。


「あらあら、五十人に一度に光華再還って、もう人とは思えませんね……」


 エリザさんのあきれた声を聞きながら、意識を失って地面に倒れている騎士の方々の横を通り過ぎる。


 みなさん、ごめんなさい。しばらく寝てて下さいね。


 私は前へ前へと歩きながら叫んだ。


「さあ、早くシオンを返しなさい!」


 処刑台まであと数十メートルまで近づいていく私を見たハイデル局長が処刑台を振り返って兵士に叫ぶ。


「構わん、さっさとやってしまえ!」


 兵士が槍を構えて階段を走り上がり、シオンの胸に狙いを定めた。


「やべえ!」


 ミラさんが叫ぶと同時に、ザックさんが投げナイフを手にし、ローランさんが背中の弓を構えた。

 しかし、彼らよりも早く、金の魔方陣を槍の穂先とシオンの間に出し、光の糸のクモの巣、聖光蛛縛を兵士に向かって発射した。


「うわー!」


 絡みつかれた兵士は処刑台から地面に向かって落ちていく。


 いけない!


 あわてて緑の魔方陣を落ちていく兵士の下に出し、つむじ風に兵士を巻き込んで、柔らかく着地させた。


「あんな遠くからでも正確に使えるのね」


 エリザ様の感心した声が聞こえた。


 ハイデル局長がイライラしながら叫ぶ。


「おい、聖女ども、なにをボーとしてる! 四人一組で戦えば、なんとかなるだろ! さっさと動かんか!」


 あっ、ソフィア様がムッとされた。次期王妃の公爵令嬢に使うべき言葉遣いじゃない。


「ハイデル卿、四人というのはわたくしを含めての数字ですか? であるならば、いったい誰にものを言ってるかおわかりですの?」

「い、いえ、めっそうもございません。あの者は反逆者ですので、もし、よろしければ捕らえる手助けなどいただけますれば、ありがたいかと……」

「反逆者……」


 ソフィア様がタメ息をつかれた。


「確かに、そうですわね。今の決まりに従えば禁術使いは厳罰、アンジェは反逆者。ですが、わたくしはそれを取り締まる立場にはございませんので。ご自分で双翼の大聖女をお捕らえ下さいませ」

「わたくしも、ごめんこうむりますわ」

「あたしも、パス」


 エリザさんとミラさんが手を上げてそう言うと、ハイデル局長が激怒した。


「お前ら、なに勝手なこと言ってんだ! クビにするぞ!」

「構いませんよ。前から言ってるではないですか。早く辞めさせて下さいって」

「ダチと戦うつもりはねえよ。クビ? かまわねーよ。金が欲しいときはどっかの国で傭兵でもやるわ」

「きさまら……」

「そもそも、今のアンジェには勝てねえって。早くシオン返してお引き取り願うのが一番だぜ」

「これ以上怒らせたら、本当にここの全員、吹き飛ばされますわよ」


 ところが、シルビアさんは残りの三人に構わず、一人、私の方に歩いてくる。


「おいおい、やめとけよ、シルビア!」


 ミラさんがあきれるように言った。


「おお、シルビア! お前はやってくれるのか!」

「おだまりなさい!」


 シルビアさんはハイデル局長を一喝して、私の方を向いた。


「アンジェ! わたくしと勝負なさい。ただし、使うのは風魔法だけ。もしあなたが勝てば、他の三人のようにあなたがやることをだまって見ていましょう」


 はっ? 


「どんなに魔力を高めても技を磨いても相手が伝説では、どうあがいても超えられません。だから試したいのです、わたくしの力が、フィエルモント家の力が双翼の大聖女と比べて、どれだけのものかを!」


 学生時代、妹のトリシアに治癒魔法で決闘を挑まれたのを思い出した。

 魔法の名門フィエルモント家の血とやらが騒ぐのかな?

 この姉妹の頭はどうなってるのよ……。

 えーい、もう、かまわない。


「私が勝ったら、ほっといてくれるのですね?」

「ええ、約束するわ」


 ハイデル局長がカリカリと怒っている。


「お前、勝手になに言ってんだ!」


 それにはかまわず、私とシルビアさんは荒れ野を挟んで向き合って詠唱を開始した。


「女神ルミナスの導きに我が魂呼応せん。この手に集うは風の舞、その狂乱を天に返し、荒ぶる空気を律しめん」


 そしてお互いの前に竜巻を作り合う。


「巻き上がれ、疾風旋龍!」


 シルビアさんの魔力は大きい。以前、私やシオンがビリビリと感じたぐらいの大きさ。今もそれを感じている。


 シルビアさんの作る竜巻に私の作る竜巻をぶつける。

 お互いの魔力が高まるが竜巻はぶつかり合って一進一退。


 私の背中に双翼が現れ始め、それに合わせて少しずつ私の竜巻が押していく。


「くっ……!」


 シルビアさんも力んで魔力を高めるが私の竜巻が押し切ってシルビアさんを巻き込んだ。


「きゃー!!」


 巻き上がる風に服が引き裂かれて風に舞い、シルビアさんがあられもない姿になってしまった。


 やだ、大変!


 恥ずかしさで真っ赤になって胸と下腹部を腕で隠して座り込んだシルビアさんを聖光障球の光のドームで覆って輝かせ、外から見えないようにした。


「シルビアさまー!」


 ローランさんが大あわてで駆けてきたので、私はマントを脱いで風に乗せて、光のドームに入る寸前のローランさんの前に飛ばした。


 受け取ったローランさんは光の中に消えていった。


 私が横を通るころには光は消えたが、マントでしっかり体を包まれたシルビアさんを抱えたローランさんが立っていて、私に深々と頭を下げた。


「かたじけない」


 私はペコリと軽く会釈で返し、前へ前へと歩みを進めて処刑台に近づいていく。


「さあ、早くシオンを解放しなさい。これ以上、私を怒らせるとろくなことになりませんよ!」


 ぐらいのことは言っておこう。

 そのとき、聞き覚えのある声が響き渡った。


「姉さまー!」


 声のする方を見ると、縄で縛られたちびアンジェが兵士に掴まれて舞台に上がってきた。


「ちびアンジェ!」


 お前、またさらわれたの!

 と思ったら今回は彼女だけではなかった。


「ねえちゃーん!」

「助けてよー」


 オリバー、ライアン! 弟たち!

 そして父と母も縛られて兵たちに引き立てられてきた。

 ザックさんの怒った声が聞こえてきた。


「バカヤロー、謀反を起こすなら家族ぐらい隠しとけ!」


 しまった、そこまで気が回らなかった……。


「やっと届きましたな、我らの切り札が」


 オークス枢機卿がニヤニヤしながら言うのが聞こえ、ハイデル局長が私に叫ぶ。


「さあ、アンジェ、家族が大事ならそこで黙って処刑を見ておれ!」


 槍を持った処刑人が十字架に続く階段を登っていき始めた。



次回、「第65話 反逆の大聖女3 ~援軍到着・シオンの姉」に続く。

家族を人質に取られ局面はこう着。そこへ、辺境伯からの援軍が到着するが……。


ぜひ、評価、ブックマークよろしくお願いいたします。

今後の参考にさせていただきたいと思います。


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