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第58話 S級魔獣「聖女殺し」来襲 ~シオン死す

 近寄ってくるS級に向かって、ザックさんは双剣を鞘から抜き、シオンは破邪の槍を構えて私とミラさんの前に立った。


 私は周囲の状況を確認する。

 道は四、五十メートル先で行き止まり。三方を見上げるほどの高い壁に囲まれた袋小路。


 前方はS級の両脇が数メートルずつ空いているが、足と爪の長さを考えると無傷で通過するのは無理だろう。

 体を強化して両側の壁から壁へ風を使ってジャンプしていけば、なんとか上までたどり着けるかもしれない。

 でも、ミラさん一人をかかえるのがせいぜい……。


「アンジェ、手貸してくれ!」


 ミラさんはそう言って、両脚を前後に開き、左手で手首を握った右手をS級にかざす。

 この構えは魔獣迎撃戦のときに使った獄炎斬!         

 私も両脚を開いて両手の平をS級に向ける。

 だけど、S級の外皮は魔法を防御するとユリウスが言っていた。


「効きますか?」

「やるしかねえ! 火力最大でいくぞ!」


 ミラさんの前に一つ、私の前に二つ、赤い魔方陣が浮かび上がる。私の二つの魔方陣は周囲を小さな緑の魔方陣が取り囲む。


「焼き尽くせ、獄炎斬!」 


 まず私の作った二本の火柱が風に巻かれながら真っ直ぐ伸びていきS級にぶち当たる。

 ギィー! S級の声が響いた。


 少し遅れて、より太いミラさんの火柱がS級の体全体を包んだ。


「よっしゃ、いけー! 気張れー、アンジェ!」

「はいっ!!」


 二人とも魔力を全開にして火力を高めるが、S級はダンゴムシのように体を丸め、外皮に囲まれた球になって炎に耐えている。


「くそっ! 燃えねえのかよ!」


 S級の外皮は炎で熱くなり真っ赤になっているが、呼吸に合わせて動いているようで死んではいない。


「後ろだ!」


 ザックさんの叫びに後ろを振り向くと、離れた地面に黒い大きな円ができて、そこから別のS級一体がじょじょに現れつつあった。

 シオンがガク然としてそれを見ている。


「転移魔法⁉」


 新たに現れた一体は上体を起こして、無数の両脚を左右に開いた後で一気に閉じると切り離された爪が矢のように発射された。

 シオンは槍を旋回させ、ザックさんは双剣を振るってたたき落とすが、一本が背後からミラさんの肩に刺さった。


「ミラ!」


 倒れたミラさんをザックさんが助け起こすが、ミラさんの火柱は消えた。


 こっちも来る!

 後ろの一体が向かってくるので、やむを得ず、右手の火柱を前から上を回して移動させ、ぶち当てる。


 しかし、三本の火柱が一本になり、今まで押さえていた前方のS級が球体から通常の形に戻り、少しずつ近づいてくる。

 後ろの一体も火柱に押されながらも近づきつつある。


 まずい……。私一人では押さえきれない。


 そのとき、シオンが槍を地面に投げ捨て、片ひざをついて手の平を自分の影の上に置いた。


 シオンの影が伸びていき、S級の体の下に大きな黒い円を描いた。

 黒い円から何本もの帯のような物が現れ、S級の体に巻き付いて黒い円の中に引きずり込んでいく。


「おいおい、これって暗黒魔法……、禁術じゃねえのかい?」

「禁術使いって本当だったのかよ!」


 ザックさんとミラさんがシオンの魔法を見ながら驚いた声を上げた。

 しかし、シオンは構わずに私に叫ぶ。


「アンジェ様は前の一体に集中して攻撃を!」

「わかった!」


 もう一度、右手を上から回して戻して、左右二本の火柱を前方のS級に集中させる。


 シオンの描く黒い円の中にS級の体の半分が消えていった。

 しかし、その向こうにまた別の黒い円が現れた。


「なんだ……?」


 みんな、ガク然として見るその先で別のS級が一体、円の中央からじょじょに浮かび上がってきた。


「こいつら、いったい何匹いるんだよ!」


 ミラさんが悲鳴に近い声で叫ぶが、新たな一体は上体を起こしてシオンに狙いを定めるように爪を発射させた。

 シオンは魔法を止めて地面から槍を拾うと、飛んできた爪をたたき落とした。


 しかし、シオンの作った黒い円は小さくなっていき、地面に沈みかかっていたS級が地上に這い上がってきた。


「アンジェ様、ミラ様を抱えて上に逃げて下さい!」


 S級が三匹、もう逃げるしかない。


「だけど、シオンは、ザックさんはどうするの!」


 シオンはそれに答えず、空に向かって指笛を吹いた。


「やっと、来ました!」


 そうだ! あの子がいたんだ!

 空から真っ直ぐに白い小さなピピが落ちてきた。


「オソクナッテ、ゴメン!」


 ピピは地面に着くとすぐに巨大化してドラゴンになった。


「お前ら、なに飼ってんだ⁉」


 あっけにとられるザックさんからミラさんを取って抱きかかえる。


「ザックさんはシオンと一緒に、あっちに乗って!」


 自分の体に強化魔法をかけると体が金色に輝き始める。


「いきます!」


 ミラさんを抱きかかえたままで右の壁に跳び、風で体を押す。

 足が壁につくと同時に今度は左の壁に向かって跳ぶ。      


 ピピはシオンとザックさんを乗せて羽ばたきを始め、宙に浮いた。


 ピピめがけて、前後から矢のように爪が飛んでくるが、私がピピの回りにつむじ風を起こして爪の軌道を変えさせる。


 よし、いける!

 爪を全部かわしたと思った瞬間、前からさらに多くの爪が私たちに向かってくる。

 なぜ? 下を見るとさらにもう一体のS級が現れていた。

 前後二体ずつ、計四体!


 ピピに迫る爪の前につむじ風を作るが、反対からも爪が飛んできて羽と胴体に何本か突き刺さった。


「ピピッ!」


 シオンとザックさんを乗せたままピピが落ちていく。

 地面に当たる直前に風を起こして、地面に叩きつけられる衝撃を弱めた。

 ピピは地面に落ちると白い小さな姿に変わって横たわった。


 私にも前後から一斉に爪が飛んできた。

 避けた拍子にバランスを崩し、ミラさんと地面に向かって落ちていくが、聖光障球の光の球で二人を包んでそのまま地面に落ちる。


 地面で倒れた私とミラさんを守るように、前後にシオンとザックさんが立った。

 私たち四人に向かって爪が飛んでくるので聖光障球で私たちを覆うが、爪は光の壁をすり抜けた。

 ザックさんが爪をたたき落としながら悔しそうに言った。


「こいつらには、効かないんだよ!」


 シオンが私の手を強く握った。


「私とザックができるだけ引きつけますから、もう一度、ミラ様と上に逃げて下さい。我々には構わないで、ひたすら上に進んで下さい」

「だけど、シオンたちは……」

「私たちは従騎士ですから」

「そういうこった。気にすんなアンジェちゃん」

「さあ、早く!」


 前後からS級がじょじょに迫ってくる。


「上に着いたら、すぐ戻るから。それまでがんばって!」


 そう言いながら、もう一度、ミラさんを抱きかかえる。


「おう、たのむぜ、俺たちは簡単には死なねえ。王都に帰ったらうまい酒でも飲……」


 ザックさん、そういうのは縁起悪いから言っちゃダメ!


 と思った瞬間、ザックさんに爪が降り注ぎ、双剣でさばききれなかった一本が腹部に突き刺さる。

 動きが止まったところに、さらに胸に一本刺さった。


「ザーック!」


 ミラさんは私を振り払って走っていき、倒れたザックさんにすがりつく。


「アンジェ、早く、治癒魔法を!」


 急いで二人の方に走っていく私に向かって、上体を起こしたS級が近寄ってきて長い爪を振り下ろしてくる。

 振り返る私の目に入ったのは,私をにらんでいる二つの赤い目の真ん中にある傷だった。


 あれは殺されたクレアさんが最後に浴びせた流水槍の傷⁉


 魔法研究所で見た傷と同じものだった。

 動きが止まった私に爪が振り下ろされる。


「アンジェ様!」


 間に割って入ったシオンが槍の両端を持って柄の中間で爪をガシッと受けとめる。

 しかし、槍は真っ二つに叩き折られて爪がシオンの体を右肩から腰にかけてバッサリと切り裂いた。


 裂けた体から大量の血が吹き出す。


「シオーン!」


 地面にあお向けに倒れたシオンの傷口からは内臓が見え、血があふれ出ている。

 もう一度、爪を振りかざして襲ってくるS級の上体に風をぶち当てると、バランスを崩して後ろに倒れた。

 シオンの前にひざまずいて傷を見るが、肩から腰まで大きくザックリと切り裂かれている。


 ひどい……、内臓が形になっていない。


「今、治癒魔法を……」


 裂かれた胸に掲げた私の手がシオンに握られた。


「死ぬのは想定外でした……」

「まだ、死んでない! まだ、助かる」

「辺境を、この国を……、世界を、頼みます」


 シオンの手が優しく私のほほにふれた。


「あなたとの時間はとても楽しかった……。愛してます、ずっと……。立派な大聖女に……」


 シオンの手から力が抜けて落ちていき、目が閉じられた。

 心臓が止まった。


「いや――!!」


「アンジェ、後ろー!」


 背後から私めがけて長い爪を振り下ろしてくるS級を振り返ったとき、私の中でなにかが弾けた。

 体の中にまるで爆発のような光を感じた。


 そこで私は意識を、いえ、正気を失った。       




既に原稿は完結しており、てにおはを直しつつ、ドンドン投稿していきます。

ぜひ、評価、ブックマークよろしくお願いいたします。

今後の参考にさせていただきたいと思います。

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★★☆☆☆ こんなもんかな

★★★☆☆ ふつう

★★★★☆ まあ、よかったかな

★★★★★ 面白かった


で、感想を教えていただけると大変ためになります。

よろしくお願いいたします。

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