第53話 魔獣迎撃戦1 ~戦闘前
収穫祭の翌日の午後、馬車に乗って魔獣討伐戦に向けて出発した。
私たち聖女はそれぞれの馬車に従騎士と一緒に乗って南へと向かっていく。
十日間、個室で二人きり……。
顔を赤らめつつ、向かいの席で目を閉じて座っているシオンを見る。
攻撃魔法も防御魔法もみんなに教えてもらって以前とは比べられないほど上手くなった。
研究所ではユリウスと一緒に大聖女ルシアが使った魔法も勉強したが、まだ再現できないものがいくつもあった。
だけど、そもそも戦いなどケンカを含めてやったことがない。
それを避けてきたのが私の人生だったのに……。
私は生きて王都に帰れるんだろうか?
「……そっちに行ってもいい?」
シオンが不思議そうに目を上げて私を見た。
「こっちの席は、その、揺れがひどくて」
「では、私がそちらに移りま……」
「いいの!」
半分強引に向かいの席に移って、シオンの隣に座った。
こっちのがやっぱり落ち着く。
そう思って座っていると、ももの上に置いた私の手にシオンの手が重ねられた。
「怖い、ですか?」
「ちょっと……、いえ、かなり」
「去年、あの三人で魔獣をほとんど駆逐したそうです。だから大丈夫ですよ」
「足手まといにならないといいんだけど……」
「私がお守りします。この身に代えても」
私は目を閉じてシオンの肩に寄りかかる。
「ありがとう……」
シオンは黙ったまま私の手を強く握ってくれて体を支えてくれる。
ぬるま湯のような穏やかな優しい関係。
それ以上を求めると壊れてしまいそうでこわくなってしまう。
でもちょっと試してみたくなる。
「この道をまっすぐ行ったら辺境伯領よね?」
「ええ、馬車なら約三週間はかかりますが」
「このまま行っちゃいましょうか?」
シオンは少し驚いて私を見た後、いつものように優しく微笑む。
「いいですね。冬は王都よりもずっと過ごしやすいです。観光名所もたくさんありますから、ご案内しますよ」
「それはステキね」
気のない返事をしてうつむく。
旅行で、という意味ではなかったんだけどな……。
やっぱり、ぬるま湯がいいのかな。
◇◆◇
馬車での長旅を続け、やっと目的地に着いた。
騎士の方々が野営の準備を進めていく時間を使って、今回の作戦の指揮をとる騎士団長が初めての私とシオンに魔獣が出現する地点を説明してくれた。
広い平原の向こうに山脈が続くが、一つの山の裾野が煙のような濃い霧で包まれている。
騎士団長がそこを指差した。
「あれが『瘴気の山』と呼ばれているところで、瘴気の毒で人間も動物も立ち入ることができません。
あそこから魔獣がわき出るように現れるのです」
今はただ霧に包まれているようにしか見えないが……。
「一説ではあの森の向こうの山にダルシア帝国につながる洞窟があり、そこから魔獣が来るのではと言われています。瘴気が濃すぎて人は立ち入れず、確かめようもありませんが」
ダルシア帝国。全く情報の無い、暗黒教の発祥の地。
「魔獣たちがなんのために来て、どこへ向かうつもりなのかの見当もつきません」
「いつ、現れるのですか?」
質問する私に騎士団長は首を振って答えた。
「わかりません。早ければ今このとき、遅ければ一ヶ月後か……」
それをひたすら待つということらしい。
野営の準備も終わったところで、聖女の服に着替える。
いつもの聖女服の上から胸や脚を保護する金属の甲冑を身につける。
ミラさんは相変わらず、お腹や太ももの露出度が高い軽甲冑。
みんな着替えて外に出ていくと、従騎士のみんなも甲冑を着けて、お互いの装備についての話で盛り上がっているようだった。
シオンは黒の甲冑に黒の槍を持っており、他の従騎士や騎士団の方々の甲冑や武器が白や銀なので異彩を放っていた。
槍の形も先が三つに分かれていて不気味な感じがする。
ライルさんが物珍しげにシオンの装備を見た。
「貴殿の格好は聖女の従騎士というより、魔王軍の一員のようだな」
「破邪の槍と破邪の鎧。辺境伯家に代々伝わる名品をお借りしました」
「おお、ということは英雄ディアスゆかりの品か!」
シオンはクルクルと槍を回してシュシュッと何度か突く。
「この槍ならA級魔獣の皮でもカラでも突き破れます」
そう言ってシオンは私を見て笑った。
暗黒神の手下だったディアスゆかりの品なら色からしても破邪ではなくて、邪の槍、邪の鎧が正解でしょうね。
でも、頼りにしてます私の従騎士さん。
私も笑顔をシオンに返した。
エリザさんたちに着いていった先には百名の騎士が隊列を組んで並んでおり、結団式の真っ最中だった。
その前に進んでいくと騎士団長が私たちを受け入れた。
「お待ちしておりました。それでは、お願いいたします」
横に並んだ三人からはいつもステージで見せる笑顔はなく、聖女としての威厳が感じられる。
みんなの前に進み出たエリザさんが大きい声を上げた。
「騎士団の皆様、この地にて皆様のなすべきことは、たった一つだけです」
若い騎士の間から歓声が上がった。
「魔獣を倒す!」
「そうだ! 一網打尽だ!」
「ちがいます!」
エリザさんが大きな声で叫ぶと、若い騎士たちはシーンと静まった。
「生きなさい! 生き抜くこと、それが皆様の任務です!」
続いてシルビアさんが大きな声を上げる。
「ともに戦いましょう! ただし、死ぬことは許しません。女神ルミナスの加護を持つ我ら聖女が命じます、生きて王都へ帰るのです!」
次にミラさんが叫ぶ。
「魔獣はバケモノだ。逃げたって恥じゃねえ。自分の身は自分で守れ、でけーの殺るのはあたしらに任せとけ! 決して死ぬなよー!」
”うぉー!”
歓声を上げる騎士たちに向かって、ミラさんはこぶしを振り上げて叫ぶ。
「そして、ぶっ殺せー!」
”うぉー!”
騎士たちが大歓声で答えた。
「だがなー、S級が出たら、悪いけどあたしたち逃げるから後はよろしく頼むぞー」
シーンと会場が水を打ったように静まりかえった。
騎士団長があわてて叫んだ。
「大丈夫だ。S級なんて十数年に一度現れる程度、今年は来ない!」
「そういうこった。さっさと全部ぶっ殺して王都に帰っていい酒飲もうぜー!」
”おーっ!”
もう一度、歓声が上がった。
私はミラさんに小声で尋ねた。
「あの、これも台本とかあるんですか?」
「そんなもんねえよ。クレアを目の前で殺されてから、あたしらは誓ったんだよ、もう誰も死なせやしないって」
そう言ってミラさんは私と肩を組んだ。
「お前もだよ。死ぬなよ」
ゴクッと固唾を飲む私に笑いかけた。
「まあ、去年もおんなじ事しゃべったけどな。危険任務だから騎士たちは二年連続では参加しないんだ。去年は死者ゼロだったのに、まだ危険任務扱いだなあ」
二百匹の魔獣を相手にして、死者ゼロ?
いったい、どんな戦い方をするんだろう。
昼夜交代で瘴気の山のそばまで偵察隊を送っている。
そのため、それ以外の人は長丁場になるかもしれないということで、日に日にのんびりとしていく。
◇◆◇
すでに到着から四日が経ち、初日の緊張感がだいぶゆるんできている感じがする。
騎士の方々は剣の稽古や運動、トランプなどに興じている。
ミラさんもザックさんと一緒に騎士の方に混じってトランプで賭け事をやっている。
シルビアさんはティーテーブルでのんびりと爪やお肌の手入れ。
その向かいでエリザさんは分厚い医学書を読んでいる。
私はシオンと一緒に岩の多い場所を見つけて魔法の練習を続けた。
「つらぬけ、流水槍!」
掲げた右手の前の青の魔方陣から、発射された水の槍が数メートル離れた前方の岩に突き刺さり、そのまま向こうに突き抜ける。
シオンが岩に近寄って穴の空いた岩を確認する。
「岩の厚さが三十センチ、貫通した穴の直径は二十センチ。この威力ならA級の魔獣も貫けるでしょう」
私への期待はA級を倒すこと。
武器はすでに手に入れた。
あとは戦うだけ。
そのとき、本陣からブォーブォーという角笛の音と声が聞こえた。
「来たぞー、魔獣だー! 魔獣来襲!」
ついに来た!
「アンジェ様、戻りましょう!」
シオンは私の手を引いて走り出すが、その手を私は固く握りしめた。
お願い、守って!
既に原稿は完結しており、てにおはを直しつつ、ドンドン投稿していきます。
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