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第49話 狙われた妹  ~三人目の四属性保持者

 グリモア所長と大きな箱を抱えた助手、確か名前はネビルさんだったか、が私たちの方に歩いてきた。


「お、ダンナ、ずいぶん早いっすね」

「本日はお招きにあずかり、光栄ですよ」

「お招きじゃなくて押しかけでしょうが」

「まあまあ、ちゃんと手土産にいい酒も持ってきましたから」


 ネビルさんが酒の瓶が六本入った高級そうな木の箱をテーブルの上に置くのを見て、ミラさんの機嫌が直った。


「アンジェ、ダンナがお近づきになりたいそうだ。今日の話を聞きつけてどうしても来たいって」

「私とですか?」


 グリモア所長が私の方を向いて微笑んだ。


「研究所にぜんぜん来てくれないじゃないですか。アンジェにはボクが必要なんですよ」


 そう言ってジーと私の目を見る。


 私がこの人を必要って、どういう意味だろう?


 ただ、熱意のこもったような目で見つめられ、ほほが赤らんでいくのがわかった。


「ダンナは理論しか教えられないけど、あたしたちじゃ水の攻撃魔法を教えられないから手っ取り早く習ったらいい」


 ソフィア様も攻撃魔法についてはほとんど使ったことがないと言っていた。


 小さい子供が二人、ミラさんの足元にまとわりついてきた。


「ミラ姉ちゃん、ハラへったー、肉まだー?」

「はやく焼いてよー」


 ザックさんとシオンが薪の束を抱えてやってきた。


「はーい、お待たせー。始めるぞー」


 バーベキューが始まりそうなので、グリモア所長が念押しするように私を見て親しげに微笑んだ。


「いいかいアンジェ、四属性を持つキミを導くことができるのはボクだけなんだよ。それをわかって欲しいなあ」


 そんな私たちを見て、シオンが表情を曇らせるのが見えた。


 あれー、もしかして嫉妬してるのかなあ。

 へへへ、と内心ほくそ笑んだ。



 庭に置かれたいくつものパーベキュー用の大きなコンロに薪を入れて、ミラさん、セシリア、私の三人で手分けして炎魔法で火を起こしていく。

「うわー、魔法ってやっぱりすごーい!」


 火が付くごとに周囲を囲む子供たちから歓声が上がった。

 下は三、四歳、上は十三、四歳ぐらいか。合計約五十人いるそうで、さすがに壮観だ。


 コンロの網の上で焼き上がった肉を、並んでいる子供たちが手に持つお皿に肉を乗せていく。


 ちびアンジェはどこかと見回すと、ミラさんの列に並んでいた。


「いつも、あねがおせわになってます」


 へー、いっちょ前の口をきくようになったもんだ。


「おっ、アンジェのとこのチビちゃんか」


 そう言うと、おやっと不思議そうな顔をしてちびアンジェを見つめ始めた。


「あたし、チビじゃないもん!」

「……そうか、だったらたくさん食って大きくなれよ」


 ミラさんは笑って、ふくれっ面をするちびアンジェの皿にに焼けた肉をたくさん乗せた。


 子供たちに一通り肉が行き渡ったのを見届けて、私たちもシオンたちのいるテーブルの席に着いた。

 男性陣は酒もほどよく回り、わきあいあい。

 シオンがネビルさんに話しかけていた。


「もしかするとフロディアス地方の出身じゃないですか?」

「ええ、祖父の代に王都に来たそうです。よくわかりましたね」

「同郷のよしみで乾杯しましょう」


 そう言ってカチン、と酒の入ったグラスをぶつけてネビルさんとに こやかに乾杯するが、目が笑っていないような感じがした。


 子供たちはいくつかのテーブルに別れて座り、パクパクと肉にかぶりついている。

 そんな様子を見ながら、隣に座るミラさんに話しかける。


「宝物って、この孤児院なんですね」

「ちがうよ。あの子たちの笑顔があたしの宝物さ」


 そう言って子供たちの様子を満足げに眺めた。


「ミラさあ、言ってて肝臓のあたりかゆくならねえーのか?」

「うっせえ、ザック!」


 茶化されて怒ってはいるがなんとなく幸せそうだ。


 エリザさんもそうだけど、女神ルミナスは特別な加護を与える女性をちゃんと選んでいるのかな。


 と考えて気づいた。


 なんで、私とちびアンジェは姉妹で魔力を持ってるんだろう?

 シルビアさんとカリーナみたいに魔法の名門の家系でもないのに。

 実は私たちも人格者だったりしてとか?

 いや、ないなあ……。



 あれだけあった肉も食べ尽くされ、テーブルの上の食器をみんなで片付けているとミラさんが私のそばに近寄ってきた。


「アンジェのチビちゃん、魔力持ちなのか? しかもかなりデカい」


 やっぱり、さっき気づいたんだ!

 ミラさんが感じたということは、ちびアンジェは炎属性なのかな。


「あの、他の人には黙っておいてもらえないでしょうか。魔法を習わせるにしても、もっと大きくなってからにしてあげたいんです」

「そりゃいいけど、ユリウスのダンナは知ってんじゃないか? 今日、チビちゃんも来るって聞いてすごい喜んでたから」


 学園祭で会ったとき、助手の人がちびアンジェの魔力に気づいたかもしれない、とシオンが言ったことを思い出した。


「こいつ、ロリコンかよって思っ……」


 不意に嫌な予感がして、ちびアンジェを探しに走り出した。



 庭の中を探していると、子供たちが輪になっているところから声が聞こえてくる。


”わー、アンジェちゃん、すごーい!”


 子供たちの輪の中心で赤い光が輝いた。


 あわてて子供をかき分けて中に入ると、しゃがんで座るネビルさんの前にタマゴぐらいの透明な球が四つ並んだオモチャのようなものが置いてあり、ちびアンジェが手で球を触ろうとしていた。


「つぎは、あお!」

「みどり!」

「きんいろ!」


 四つの球を順にさわり、それぞれの色で輝かせるのを見て、私はガク然と立ち尽くした。

 背後から声が聞こえる。


「へー、これはすごいねえ。キミたちの血筋を一度徹底的に調べた方がいいかもしれないなあ」


 振り返るとグリモア所長が立っており、私の前を通り過ぎてしゃがむと、ちびアンジェの前のオモチャのような物を手に取った。


「あの魔道具を小型にした幼児用の魔力早期発見検査アイテム。これもボクが開発したんだよ」


 やっぱり、そうだ。

 そうすると、ちびアンジェも四属性持ち⁉


「今度、妹さんの将来も含めて、ゆっくり話をしたいね。研究所で二人きりで」


 ゾクッ……。

 二人きりでと言うその口調はロマンチックでもなんでもなく、私に寒気を感じさせた。


次回、「第50話 研究所の魔獣 ~聖女殺し」に続く。

しぶしぶ魔法研究所を訪れたアンジェはそこで、前任の水の聖女を殺した魔獣を見ることになり……。


ぜひ、評価、ブックマークよろしくお願いいたします。

今後の参考にさせていただきたいと思います。


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