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第43話 王宮舞踏会1 ~華こそ聖女の仕事です 

 そして、王妃様の誕生日を祝う王宮舞踏会の日を迎えた。


 聖女隊は主催者側として招待客をもてなすのが今日の任務。

 さすがは『王立』聖女隊。


 聖女宮には立派な美容室があり、今日のようなイベントがあるときは王都の優秀な専門家たちが集められる。

 髪をセットしたり、化粧やドレスの着付けを全てやってくれるので自分でやるのとは全然違う。

 就任式のときは光神教主催なので質素ですっぴんに近かったのだが、今日は目いっぱいあでやかに装う。


 以前、シャルル皇太子の一時帰国舞踏会でソフィア様の使われている人たちにしてもらったことはあるが、あれはあくまでも学生用。

 今日は聖女としての『大人の装い』で要するに肌の露出が多く、化粧が濃い。



 シルビアさんが準備が完了した自分の姿を大鏡に映し、誇らしげに言う。


「これこそ、華でしてよ」


 ドレスは白を基調とし、肩と胸元、そして背中をかなり広めに露出して大人っぽさを演出、大きく開いた背中が透けて見えるような薄いマントっぽい布で覆って聖女感を強調したテレジオ商会製の新商品。

 この舞踏会のあとで大々的に売り出すそうだ。


『アンジェが子供っぽく見えないようにしておいたから』と母が言っていたが、私のは胸の部分に綿を詰め込んで『かさ上げ』する工夫がしてあった。

 ありがとう、お母様……。


「アンジェは一応貴族だから舞踏会は慣れてんだろ? あたしは今でも気が乗らないな」


 私の隣で着替えているミラさんがブツブツ言った。

 王家主催のパーティーではミラさんもドレスを着ざるを得ないようだ。

 エリザさんがたしなめるように言う。


「ミラも聖女になったときは、一生懸命ダンスを習ってましたよね。なのに最近はずっと飲み続け。ダメですよ、ちゃんと殿方のお相手をして務めを果たさないと」

「ダンスは嫌いで飲む方がいいって男もかなりいるから、あたしはカンパイ要員でいいじゃん。アンジェも来たんだし、ダンスは貴族同士でやってくれや。なあ、アンジェ」


 ダンスは人並みにできるけど見知らぬ人が相手だと、無言で踊るだけになってしまうので正直なところ大の苦手。


「私もあんまり気が乗らないんですが……」


 シルビアさんがしぶい顔をした。


「聖女は世の男性の憧れ、一緒に踊りたいという方々がたくさんおられます。パーティーの華として会を盛り上げ、ステキな思い出を持ち帰っていただく大切な仕事ですのよ」


 そりゃあ、シルビアさんのような美人と踊るのは思い出にもなるでしょうけど……。


「私のような小娘と踊りたい人がいるとも思えませんが……」


 苦笑いする私の両肩をエリザさんが持って大鏡の方を向かせた。


「なにを言っているの。ごらんなさい、もう立派な聖女ですよ」


 鏡に映る自分をマジマジと見る。

 今まで見たこともない私がいる。

 やったことのない目元の化粧、うっすらと赤い頬紅、つややかな口紅。軽く結ってアップにし、ウエーブをつけた美しい髪型。

 専門家の技は学生だった小娘を大人の聖女に変身させている。


 そして、大きく胸元の開いたドレス。

 就任前にエリザさんにアドバイスされたように最近はお風呂上がりに自分で治癒魔法でせっせと肌の手入れをしており、十七歳の女性のみずみずしい肌の美しさが感じられる。


 聖女就任式のときは、女学生を一人混ぜたような浮いた雰囲気を感じたが、これなら恥をかかずにすむかもしれない。


「今日はアンジェが聖女になって初めての舞踏会。覚悟しておいたほうがいいですわよ」


 エリザさんがあの日のシルビアさんと同じセリフを言った。


「なにを覚悟するんですか?」

「そのときになれば、わかりますわ」


 エリザさんは優しく微笑むが、嫌な予感しかわいてこない。

 たずねるようにミラさんを見ると顔をしかめて肩をすぼめた。


「あのときのことは、思い出したくねえなあ……」


 不安が増えただけで、結局、わからずじまいだった。



 舞踏会の会場は同じ王宮内の大ホールなのだが結構離れており、ドレスで大変なので馬車で移動することになっていた。


 なにがあるんだろう、と沈んだ気持ちで馬車に近づいていくと、そばに立つ正装のシオンが驚いたような顔で私を見た。


「どうしたの?」

「……とても、おきれいです」


 その一言でパアッと気持ちが晴れた。



 馬車で向かいに座る今日のシオンの礼装は以前の学園の舞踏会のときと違う服で新調したのか、とても上品な薄い青。

 こういう服を着ると似合いすぎて貴族かどこかの王子様に見えてしまい、とても執事とか商会のマネージャーとは思えないんだけど。


 しかし、シオンもじっと私を見ているのに気がついた。

 なんとなく、露出した胸元を見られているような気がして、照れくさくて顔が赤くなっていく。


「やっぱり、こういうのは似合ってないかしら……」


 シオンがハッとして顔を上げた。


「いえ、その、お似合いすぎて『聖女の妹』で売り出した戦略は誤りではなかったかと考えておりました」


 なんだ、また仕事のことを考えてたのか。

 ちょっとガッカリ。


「他の聖女の方々にはない若さの輝きが感じられ、全く見劣りしません」

「そ、そう? ありがと……」


 まじめな顔でほめられて、恥ずかしさとうれしさで顔が真っ赤にほてっていくのがわかった。


「招待客と踊って、思い出にてもらうのが今日の仕事なんだけど、うまくできるかしら」


 照れながら言う私にシオンがクスッと笑った。


「大丈夫ですよ。あの日、アンジェ様と踊ったのは私のいい思い出ですから」


 私がうれしくなるセリフをサラッと言ってくれる。


 今日も時間をなんとか見つけて、シオンと踊ろう。

 お互いいい服着てるし、きっとステキに踊れるわ。


 シオンと華麗に踊るというか踊らせてもらう姿、周囲の令嬢たちのうらやましそうな顔、賞賛の拍手。

 踊り終えて熱く見つめ合う二人。


 そんな妄想が頭を駆けめぐり、エヘヘ……とだらしない笑いを浮かべるのをシオンが不思議そうに見ていた



 そうこうするうちに会場となる建物の入り口につき、馬車を降りてほかの三人と並んで中に入っていく。


 廊下とは思えない幅の広さと天井の高さ、フカフカの赤いじゅうたん、壁に飾られた美しい何枚もの絵画。

 雰囲気に圧倒されてオドオド、キョロキョロしてしまう私をシルビアさんが一喝した。


「アンジェ、王宮見学の女学生ではないのですよ」


 と言われても、ついこの間まで女学生でしたから簡単には変われないです……。


 いよいよ会場の入り口につくが、ローランさん以外の従騎士はその前で止まった。

 後ろからシオンが声をかけてきた。


「それではアンジェ様、舞踏会デビュー、頑張ってきて下さい」


 私は驚いて振り返った。


「シオンは行かないの?」

「会場に入れるのは貴族だけですので、子爵のローラン以外は外で警備のお手伝いです」


 それを聞いた私のやる気の半分は消えてなくなった。

 離れていくシオンの後ろ姿を目で追い、ションボリとうなだれた。


「さあ、行きますよ」


 エリザさんがみんなに号令をかけた。

 みんな、あらためて背筋を伸ばして前を向くが、シルビアさんが横目目で私をにらんだ。


「アンジェ、背筋を伸ばして! もっと集中なさい!」


 そうだ。これは仕事だった。

 学園のイベントじゃないんだ。


 私もシャキッと背筋を伸ばし、みんなと一緒に会場に入っていく。

 途端にワッと歓声が上がった。


次回、「第44話 王宮舞踏会2 ~新人聖女はモテまくる」に続く。

聖女と踊りたがる男性の列に戸惑うアンジェ。しかも男性たちは……。

アンジェは先輩聖女の言った、覚悟しておきなさい、の意味を知ることになる。


ぜひ、評価、ブックマークよろしくお願いいたします。

今後の参考にさせていただきたいと思います。


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