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第42話 竜巻vs風の聖女 ~聖女の本気

 そのまま前へ前へと歩いていくシルビアさんから離れて私たちは着いていくが、竜巻の風を感じるほどにまで近づいた。

 それでも先に進むシルビアさんにローランさんが叫んだ。


「シルビア様、それ以上は危険です!」


 立ち止まったシルビアさんは両腕を大きく左右に広げて詠唱を始めた。

「女神ルミナスの導きに我が魂呼応せん。この手に集うは風の舞、その狂乱を天に返し、荒ぶる空気を律しめん」


 体がビリビリしびれる……。シルビアさんの体内に巨大な魔力が湧き上がっているのを感じとれる


「これが聖女の本気でしょうか」


 シオンも同じように感じているのか,驚きの表情でつぶやいた。


「巻き上がれ、疾風旋龍!」


 大きな緑の魔方陣が竜巻のそばに浮かび上がり、中心から風の渦ができはじめ、大きくなりながら空に向かって伸びていく。

 見ていた兵士から声が漏れた。

”おお!”

”だめだ、竜巻より小さい!”


 ちがう、一つじゃない!

 マナの流れ、魔力への転換、風の発動、シルビアさんがやろとしていることの全てが感じられる。


 二つ目、三つ目の魔方陣ができて風の渦が立ち上がり、三つの渦がちょうど三角形の形で竜巻を取り囲んだ。


「くーっ……!」


 シルビアさんの力む声が聞こえ、さらに魔力が上がっていくのを感じる。

 竜巻と逆に回転する三つの渦が少しずつ間隔を狭めて竜巻に向かっていくと回転同士がぶつかり合う。


 竜巻は三つの渦に押し込められて変形し始めた。


”いけー!”

”もう少しだ!”


 兵士たちが歓声を上げたそのとき、いびつな形になった竜巻の一部が分裂して新しい竜巻ができてしまった。


「ちーっ!」


 シルビアさんの声が響いた。

 二つ目の竜巻は小さめだがその分、移動する速度が速い。


”まずい、あっちに小屋があるぞ!”


 兵士の一人が竜巻が迫っていく小屋を指差した。

 私が走り出すと同時にシルビアさんが叫んだ。


「アンジェ、できますか⁉」

「やります!」


 シルビアさんのように両腕を広げて構える。

 急がないと! 


「巻き上がれ、疾風旋龍!」


 魔方陣を三つほぼ同時に出して風の渦を立ち上げ、一気に竜巻にぶつける。


”速い!”

”止まったぞ!”


 このまま押しつぶす!

 三つの風の渦を竜巻に押しつける。


 もっと、大きく、強く!

 魔力を上げようとするが渦に変化がない。


 シルビアさんの方を見ていた兵士の歓声が上がった。


”やった! こっちは消えたぞ!”


 三つの風の渦が竜巻を押さえ込み、消し去る一瞬が見えた。

 シルビアさんは力尽きたようにガクッと両ひざを地面につけた。


「シルビア様!」


 ローランさんが駆け寄って上体を抱きかかえた。


「アンジェの方も……、やらないと」

「もう無理です!」


 私には感じられる、シルビアさんはマナを使い切った。

 しばらく魔法は使えない。

 こっちは私がやらないと。

 だけど、私の渦はシルビアさんのより小さく弱い、なぜなの……。


 私の左肩がシオンにつかまれた。


「体を支えましょう」


 シオンのやりたいことがわかった。


「お願い!」

「いきますよ」


 久しぶりの感覚。私のマナが肩から流れていき、戻ってくる。

 今ならわかる、私のマナにシオンのマナが混ざって戻ってきている。


 風の渦が大きくなっていった。


”おお、でかくなったぞ!”


 渦はシルビアさんのものと同じぐらいになっただけでなく回転も速く強くなり、三つの渦が竜巻を挟んで押しつぶしていく。

 そして一気に消し去った。


”やった-!”


 兵士たちから歓声が上がった。

 私は構わず、ローランさんに上体を支えられて地面に座っているシルビアさんに駆け寄る。


「大丈夫ですか?」


 シルビアさんは不思議そうに私と近寄ってくるシオンを見た。


「今のは、一体なんなの?」

「え、えと……」


 なんて言おう……。人前でアレをやったのは初めてだった。


「アンジェ様は私のようなイイ男に励まされると気合いが入って魔力が上がるのです」


 真面目な顔でそういうシオンに、シルビアさんは目をぱちくりさせた。


「そ、そうなのですか」


 いつでも平然とそれらしいウソをとっさにつけるもんだなあ、とシオンを見て感心する。

 シルビアさんがクスッと笑った。


「では、今度、わたくしにも試していただこうかしら」


 あっ、ローランさんがムッとされてる。


「あの、回復魔法かけてもいいでしょうか?」


 疲れきった感じのシルビアさんが心配になり提案した。


「アンジェは大丈夫なの?」


 私はうなずいて、両手の平をシルビアさんに向けて金色の光で回復魔法をかけ始めた。


 シルビアさんはマナがほとんど残ってない。私にはまだ余裕がある。

 ということは、私は自分の魔力の限界まで使い切ることができてないということ。

 それが私とシルビアさんの今の力の差なのかな。まだ例の封印みたいのが残っているのだろうか……。

 今は考えなくてもいいや、せっかく余ってるんだから使おう。


 自分のマナをシルビアさんに流し込んだ。


「なにをしてるの⁉」


 シルビアさんが驚いて大声を上げたので、あわてて魔法を止めた。


「すみません。気持ち悪かったですか? マナが全然なかったので、余ってる私のを使っていただこうと思って……」

「アンジェはそんなことができるの⁉ 他者のマナへの干渉なんて、今の魔法ではあり得ないはずだけど……」

「なんとなく、できるんです」


 これはおそらく、シオンの影響だわ。


「……ねえ、これは他の人がいるときに使ってはダメよ。特に、魔法研究所の人間には見せないようにね」


 不思議そうな顔の私に言った。


「実験体にされかねないわよ」


 ありえる……。魔法研究所のグリモア所長の顔が浮かんだ。


「ところで、その衣装、やっぱり変えましょうね。色物はミラだけで十分よ」


 ハートの目をして私の太ももを見ている兵士たちを見て、シルビアさんはタメ息をつかれた。


「アンジェのお母様にお願いしてた今度の舞踏会用のドレスができましたから、新しいのをお願いするにはちょうどいいですわ」

「今度の舞踏会?」

「あら、聞いてませんの? 明後日の王妃様お誕生日祝いの王宮舞踏会。王都の有力貴族はほとんど招待されてますわ」


 振り付けの特訓でメルベルさんと会ってなかったから、連絡漏れかな?


「新しい水の聖女の貴族社会へのお披露目でもあるわ」

「……また、歌って踊るんですか?」


 表情が曇るのが自分でもわかったが、シルビアさんにクスッと笑われた。


「あれは一般大衆向け」

「じゃあ、なにをやるんですか?」


 シルビアさん、スクッと立ち上がって誇らしげに胸を張った。


「舞踏会の華よ」


 キョトンとした私を見てシルビアさんが意味ありげに笑った。


「新人聖女は結構大変ですから、覚悟しておくことね」


 ゾクッと背中に寒いものを感じるが、シルビアさんは私に背を向けて馬の方に歩いていった。


「さあ、暗くなる前に戻りましょう」

「あ、あの……」


 もっと詳しく聞こうと思った私に構わず、ローランさんと馬に乗ってさっさと行ってしまった。

 不安だけを与えられ、去って行くシルビアさんを見送る私に馬を引いてシオンが近づいてきた。


「お疲れでしょうから、前に座ってお休みください。私が支えていきますので」

「ありがとう。さすがにちょっと疲れたから助かるわ」


 鞍にまたがり、後ろから片方の腕を腰に回して抱きかかえられた。

 以前、悪党に襲われた後、こうして二人で馬に乗ったことがあったっけ。その夜は胸がドキドキして眠れなかったなあ。


 あのときは、主人の親友の家の執事と令嬢。

 今は従騎士と聖女、私のためだけに仕えてくれる人。


 こうしていてもとても安心できる。


 あっ、太もも……。

 自分の今の姿を思い出してカーと顔が赤くなっていく。

 いいえ、シオンはそんなことを気にする人じゃない。

 わざと少し強く後ろにもたれると、それに応えて私をしっかりと抱きかかえてくれた。

 まだ好きだとも言ってないし、好きだとも言われてない。だけど言わなくてもいい。今以上の関係はないかもしれないから。


 そんなことを考えながら目を閉じた。


 慌ただしかった一日のシーンが思い浮かぶ。

 忙しい聖女デビューの一日だった……、と眠りに落ちる瞬間ハッと目が覚めた。


『覚悟しときなさい』


 シルビアさんの声が頭の中で響いた。

 ミラさんと違って,しょうもない冗談を言う人じゃない。


 いったい、なにを覚悟するんだろう……。


 不安になって眠れなくなってしまった。



次回、「第43話 王宮舞踏会1 ~華こそ聖女の仕事です」に続く。

次の仕事は王妃の誕生パーティー舞踏会の華。アンジェは戸惑いながらも聖女の装いで参加するのだが……。


ぜひ、評価、ブックマークよろしくお願いいたします。

今後の参考にさせていただきたいと思います。


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