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第26話 聖女が先生 ~教室は貧民街

 固まってしまった私にソフィア様はにこやかに話しかける。


「一週間、授業を休むということで先生の了解もいただいてますから、安心してエリザ様に教わってらっしゃい」

「おっ、よかったなー、先生公認で学校サボりだ」


 セシリアは不安でいっぱいの私の肩をポンポンとたたく。

 そんな私たちを見てエリザ様が微笑まれた。


「授業の方がよっぽど楽かもしれませんよ」 


 慈愛のエリザの名にふさわしい優しい笑顔を浮かべてはいるが、目が笑っていなかった。



 翌日、エリザ様に指定された北地区広場の噴水の前に行く。

 護衛を連れて、汚い平民の服で来ることと指示を受けていた。


 護衛はもちろんシオンにお願いした。

 汚い平民の格好は二人とも庭仕事用の服を着て、わざわざ木の台車を馬にひかせて乗ってきた。


 噴水と言っても水は止まっており、広場も石畳があちこち剥がれていたり、ゴミが散乱していたりと荒れていた。

 行き来する人の服装から、かなり貧しい人たちが住んでいるように見える。


「ここはかなり治安が悪い地区ですが、どこに行かれるのでしょう?」


 エリザ様は、行けばわかるからということで教えてくれなかった。


 向こうから、みすぼらしい服を着た大きな男性と女性が歩いてきた。

 男性の体格から一目見て従騎士のライルさんとわかった。

 当然、女性はエリザ様だ。


「お待たせいたしました。ステキなペアルックですけど、こちらは?」


 エリザ様はシオンを見て尋ねる。


 えーと……。

 どう紹介するのがいいのか考えているうちに、先にシオンが答えた。


「アンジェ様の家で執事をやっておりますシオンと申します。登下校の護衛もやっております」


 そうよね……。

 そうとしか紹介のしようがないものね。


 エリザ様は私たちを先導して歩き始めた。

 大きな通りから路地に入り、さらに奥の路地へと入っていくにつれて薄暗くなっていった。


 ゴミが腐ったような臭いにおい。

 ケンカなのか人の叫び声。


「なんだか、こわい」


 思わず、シオンの腕にすがりついてしまう。

 腕をつかむ私の手の甲にシオンの手が重ねられ、そっと握られた


「いわゆる貧民街ですね。大丈夫ですよ、エリザ様は何度も来られたことがあるようですから」


 確かに、エリザ様は迷うこともなく道を進んでおり、この道に慣れているようだった。


 そして、建物の入り口の前に立ち止まった。


「着きました」


 入り口の横の看板に『フロレス診療所』と書かれていた。


「ここは私が生まれたところなのですよ」


 エリザ様は不思議がる私に構わず建物の中に入って行かれた。



 そこは患者の待合室なのか、十人ぐらいの人たちが座っている。

 一人の女性が入ってくるエリザ様に気づいて声を上げた。


「エリザ様!」


 すると、みんな一斉にエリザ様の方を見て、口々にエリザ様、エリザ様と呼びかけ、中には両手を組んで拝み始める人たちもいた。


 そんな人たちにエリザ様は優しく微笑まれる。


「もう少し、お待ちくださいね」


 そして、診察室のドアをノックして入っていくので、私たちも続いて入っていく。

 

 診察室の中に入った私は驚いた。 

 机、イス、診察台などが立派で新しく、奥には薬品のビンがぎっしりと並んでいる。

 貴族の行く病院の設備とあまり変わりがないように思える。

 清潔そうな白衣の若い看護婦さんも二人いる。


 五十歳ぐらいに見える白髪交じりの女性の医師がイスから立ち上がって、エリザ様を迎えた。


「エリザ様、お待ちしておりました」

「フロレス先生、何度も言いますが、昔のようにエリザと呼んでください。他人行儀です」

「なに言ってんのよ、今じゃ、聖女様なんだから昔のようには呼べないわよ」

「今の聖女は職業みたいなものですよ。おかげでここの設備や薬も十分に買えるんで文句は言えませんけど」


 聖女が職業? 現実的すぎるセリフに私は首をひねる。

 そんな私を見て、エリザ様がクスッと笑った。


「聖女の給料は上級貴族の収入並みなのですよ。悪くない仕事でしょ?」


 王立聖女隊の正式名称は行政支援魔法局特務班。

 そこで働いてお給料をもらっているということなのかな。


「では始めますので、ライルとシオンさんは待合室で待っていて下さい」


 シオンは心配そうに私を見ながらライルさんと待合室に出て行った。


 二人と入れ替わりで待合室から看護婦さんが右足を引きずるように歩いている小柄な老女を連れてきた。


「あの、エリザ様、これから何をするのですか?」

「もちろん治癒魔法での治療です。経験に優る教師はないと言いますよね」


 隣で聞いていたフロレス先生が言った。


「頼まれたとおり、病人、けが人、虫歯、いろんなのを集めといたよ。午前中が十人、午後は二十人ね」


 えっ……?

 いきなり治療、しかも今日だけで三十人?


「もちろん隣で私が見ていますし、わからないところはお教えしますから」


 言われることはわかったが、とても心配なことがある。


 診察用のベッドにあお向けになった老女のそばに立つ私に、看護婦さんがカルテを見ながら症状を説明してくれる。


「この患者さんは慢性のヒザの痛みで歩行困難になっています」


 私は老女に近付き、ペコッと頭を下げる。


「よろしく、お願いします」


 両手を老女のヒザにかざそうとしたとき、老女が大声をあげた。


「あんた誰だい⁉ あたしゃ、エリザ様に診ていただきに来たんじゃ!」


 ほら、やっぱりー。

 みんな、聖女のエリザ様に診ていただけると思って来てるはず。

 それが、どこの誰ともわからない小娘が出てきたら絶対怒る。


「おばあさん、大丈夫ですよ。この子の魔力は私に勝るとも劣りませんから」

「エリザ様がそう言われるなら……」


 エリザ様に優しく言われて、老女はしぶしぶ引き下がった。


「では、始めます」


 私は両手を老女の右ヒザにかざし、魔方陣を出現させて両手を金の光に包む。

 光はどんどん私の方に広がり、ついに私の全身を包み込んだ。


 まただ、魔力が患者に行かないで自分に戻ってくる。

 しかし、老女は光り輝く私の姿に驚いたようだ。


「おお! 本当じゃ、こりゃすごいねー」

「ちょっと待って!」


 エリザ様の大声に驚いた私はピタッと魔法を止めた。


「なんで全身から魔力を垂れ流してるのですか! 手の平に集中させないと」

「すみません。治癒魔法って形がないんでイメージが難しくて手に集中できないんです……」


 エリザ様はあきれたような顔をしてつぶやいた。


「ソフィアから、あなたの治癒魔法はヘタクソとは聞いてましたけど、まさか、これほどとは思いませんでした」


 ヘタクソと言われても反論できず、私は恥ずかしくて赤くなってうつむくだけだった。



次回、「第27話 聖女の過去と夢 ~辞めたいの」に続く。

エリザの身の上話と夢を聞いたアンジェは自らも彼女のような聖女になりたいと思うようになるのだが……。


ぜひ、評価、ブックマークよろしくお願いいたします。

今後の参考にさせていただきたいと思います。


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