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第22話 大魔法発動 ~えっ、私が聖女様⁉

 水を大量に含んだ泥なら水魔法で動かせないか。

 シオンの意見を聞いてみる。


「可能性あると思います。やってみましょう」


 土砂に近寄って手をかざして小さな魔方陣を展開する。


 水より重い……。

 魔方陣に注ぐ魔力をもっと上げていくと中心に向かって地面から泥が浮かび、その部分だけ地面から泥がなくなった。


「いけそうよ! でも、魔力がかなりいるから助けて」

「もちろんです」


 シオンは離れたところにいる子供を連れた中年の婦人に、ちびアンジェを見てもらうように頼みに行った。


 私は土砂の上にいる大勢の村人たちに大声で叫んだ。


「みなさーん、これから魔法で土砂をどかしてみますので、土砂から離れて下さーい!」


 村人たちは手を止めて私を見た。

 その顔から『なに言ってんだコイツ』と思っているのがわかった。


「魔法で土砂をどかします! 土砂から離れて下さい!」


 もう一度大声で叫ぶと村人たちの表情が変わった。

 まずい、みんな、怒りだした……。


”こっちは忙しいんだ、アホなこといってんじゃねえ!”

”二十人近く埋まってるはずだ、早くしないと死んじまうんだぞ!”


 あまりの剣幕にオロオロと後ずさりしてしまう。


 戻ってきたシオンが、私のそばに立って大声で叫んだ。


「この方は、聖女様です!」


 突然なに⁉

 誰が、いつ聖女様になったの?


 しかし、聖女様という単語は効果抜群。

 みんなシーンと静まり手を止めて私の方を向いた。


「さあ、早く聖女様の言うとおり、土砂から離れて下さい!」


 シオンがもう一度、大声で叫んだが、村人たちは顔を見合わせる。


”あんな聖女様いたか?”

”いや、よくわかんねえ……”


 シオンが私の耳元でささやく。


「なんか、ド派手な魔法を一発お願いします」


 派手な上にドがつく魔法?

 よし! ちょっと考えてから両手を開いて高々と空にかかげて金と赤の魔方陣を出す

 右に金色の光球、左手赤の火球を出して一メートルぐらいまでふくらませて天に向かって打ち上げた。


”おお……!”


 村人たちが驚いて空を見上げた。

 上空でパーンと破裂させると細かくなった光と炎がまるで花火のように散らばった。

 その光景を見た村人たちはただ、あ然として空を見上げている。


「ここで、聖女らしい一言を」


 シオンに耳元でささやかれ、発表会のときに会った聖女様たちを思い出す。


 私は聖女、私は聖女……。


 威厳を持たせようと胸を張り、早くどきなさいと言わんがばかりに腕を振って叫ぶ。


「わたくしの力がおわかりになりましたか! さあ、早く土砂から離れなさい!」


 プッ。後ろでシオンが吹き出したのが聞こえた。

 私の演技力は、やっぱり悪役限定かも……。


 しかし、村人たちには効果があったようで、とにかく、私のいうことを聞いてくれて土砂から離れていった。


「じゃあ、シオン、できるだけ強くして」

「アンジェ様、手を握ってもよろしいでしょうか?」


 えっ、なに?

 この緊急事態に突然の告白?


「あ、いえ、服越しに肩をさわるより、手をつないだ方がマナをうまくコントロールできるんです」


 目を白黒させる私にあわててシオンが付け加えた。


「手をつなぐよりキス、もっといいのは裸で抱き合う、二人の接触が密接なほどマナや魔力は伝わりやすくなるもので……」


 シオンの説明に全身の血がカーと昇っていき、顔が真っ赤になるのがわかった。


 この非常時になにを言ってるの……。


「あっ、い、いえ、その、私がそうしたいということではなく、そういうものだという説明で……」


 シオンも自分の言葉にあわてているが、今はそれどころではない。


「さあ、始めましょう」


 そう言って差し出した私の左手をシオンはしっかりと握りしめてくれた。

 初めて握るシオンの手は大きく、手の平は槍の練習でできたマメなのか少し硬い。


 男の人の手……、最後に握ったのはいつ、誰の手だっただろう……。

 家族以外だと、たぶん、初等部のおゆうぎ……。

 ハッと我に返った。

 こんなときに、なにやってるの私!


 右の手の平を土砂に向けて叫ぶ。 


「シオン、やって!」

「埋もれた人まで持ち上げないように気をつけて下さい」


 土砂ごと人を浮かび上がらせたら大変だから、小水球のように小さな泥の球にするのがいいか。


「いきますよ」


 シオンのかけ声と共に大量のマナが握られた手に流れていくのがわかった。

 確かに肩を握られていたときよりも流れに勢いが感じられる。

 しかし、その分、戻ってくる勢いが今までよりもはるかに強い。


 ドクン、心臓が強く脈打つ。

 頭痛、めまい、吐き気。

 苦しくて気が遠くなる。

 いつもの練習だったら、やめて! と叫んでいる。

 でも、今はちがう。もしかしたら二十人を助けられるかもしれない。


「いくわよ!」


 土砂の全体を覆うように上空にいくつもの青の魔方陣を出し、魔力を注いでいくと土砂の表面が動き始めた。


 土砂は魔方陣に引き寄せられるように少しずつちぎれて、数センチの小さな球になって浮かんでいく。

 宙にただよう泥の球の数はどんどん増えていき、空を覆い尽くした。


”おお……”


 驚いた村人たちが空を見上げる。

 地面の上の土砂が少なくなるにつれて生き埋めになった人たちの倒れた姿やつぶれた家が現れ始める。

 あわてた村人たちが駆け寄っていく。


「アンジェ様、早く土砂の球をどこかに移動させて!」


 私の力が尽きたら村人ごと、もう一度、生き埋めにしてしまう。


 右手を大きく振るって、いくつもの緑色の風の魔方陣を展開し、大きなつむじ風をいくつも作って泥の球を巻きあげる。


 方向を分けて人のいない深い森に向かって、つむじ風を移動させると、離れるにつれて泥の球が落ちていき、つむじ風も小さくなっていく。 


 全てのつむじ風が見えなくなり、ようやく、ホッと一息ついた。


 生き埋めにされていた人や、つぶれた家から引き出された人が次から次へと草むらの上に運ばれていった。


 無我夢中だった私も落ち着きを取り戻し、土砂がなくなった集落をあらためて見渡した。


 あれだけあった土砂がほとんどなくなっている。


 本当に私がやったの?


「見事な魔法でした」


 介抱されて意識を取り戻した人たちをシオンが指差した。


「あの人たちは、アンジェ様が助けなければ死んでいたかもしれませんね」


 私の魔法が役に立った。

 私の魔法が人を助けた。


「……魔法、やめなくてよかった」  


 つい口から出た言葉にシオンはつないだままの私の手を強く握って微笑んでくれる。

 まだ手をつないだままだったことに気づいたが、そのまま離さなかった。


「さすがに、かなり魔力を消耗されましたね」


 こんな大規模な魔法は初めてなので体中がヘトヘトに疲れている。

 マナは無尽蔵というわけではなく、使えば当然減る。

 私だけでなく、シオンも少し青い顔をしている。


「アンジェ様の魔力は私がコントロールできる限界に近くなってます」


 やはり、私の魔力はどんどん大きくなっている。


「私の任務は終わりに近付いたようです」


 そう言って少し淋しそうに微笑んだ。


 どういうこと⁉

 驚いてシオンを見たとき、女性の悲鳴に近い声が聞こえた。


「聖女さまー!」


 中年の婦人が私たちの方に血相を変えて走って来た。


 聖女様?

 聖女隊の誰か来られたのかとキョロキョロと見回す。


 あっ、そうか。私のことか。


「娘が息をしてないんです! 助けて下さい……」


 婦人に腕をつかまれて強引に引っ張られ、助けられた人たちが横たわっている場所に連れて行かれた。


「この子です……」


 十歳ぐらいだろうか、土砂に汚れたままの女の子が目を閉じて横たわっている。

 胸に手を当ててみるが、心臓の鼓動が感じられない。


 息をしてないっていうか、この子、死んでる……。



次回、「第23話 よみがえる死者 ~蘇生魔法・光華再還」に続く。

聖女に勘違いされているアンジェは死者の蘇生まで頼まれるが、治癒魔法は大の苦手。

そこでシオンは……。


ぜひ、評価、ブックマークよろしくお願いいたします。

今後の参考にさせていただきたいと思います。


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