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第21話 魔法コピースキル獲得 ~ついでにザマアミロ

 地面の私を見下ろしていたカリーナはレビンさんの方を向いた。


「わたくしの分は終わりましたから、アンジェに代わってやらせていただきます」

「あ、ああ……、すまないね」


 あっけにとられるレビンさんだが、カリーナはひざまずいて治癒を始めた。


 両手の光がケガの部分をおおっていき、アザが小さくなって腫れも引き始めた。


 聖女のエリザ様とは比べられないが、やはり、二年生ですでに学園一と言われるだけのことはある。


 治癒が終わって立ち上がったカリーナがまた私を見下ろして笑った。


「人々を救う治癒魔法こそ最高の魔法! それができなくてなにが聖女候補よ。風、水、炎、しょせんは光からできたもの。なんでもできればいいってもんじゃなくってよ。光魔法こそが最高なのよ。おわかり?」


 女神ルミナスは光の女神。

 その加護による魔法は光が源泉とされるので光属性持ちは他の属性を見下す傾向がある。


 だけど、カリーナのお姉さん、風の聖女のシルビア様がこれを聞いたら、絶対にカチンとくるだろう。

 この姉妹、どっちもどっちだわ。


 それにしても、私の治癒魔法は下手すぎる。

 このままだと単位が取れずにまた落第してしまう……


 思わず頭を抱えた。


◇◆◇


 シオンとの魔力増加の練習も毎日続け、治癒魔法以外は順調に上達している。

 特に水魔法は聖女に内定されていたソフィア様の指導もあって格段に上手くなった。


 もう王族扱いで忙しい中、今日は久しぶりに中庭の噴水の前で放課後に指導を受ける。


「今日は上級の魔法をやってみましょう」


 そう言って腕を伸ばして、数メートル離れた噴水の池に手の平を向けて詠唱を開始した。


 あれ、なんだろう?

 私の中に今までなかった感覚がある。

 ソフィア様の体の中のマナの流れ、魔力への変換、魔力の水への作用、それらが感覚として理解できる。


 池の上に青い円の魔方陣が二つ輝き、その下の水が渦巻き始めた。


「舞い上がれ、九頭龍旋!」


 二つの渦の中心から水の柱が空に向かって立ち上がる。

 柱の下半分がつながると二つの首と頭を持った龍のようになり、ソフィア様の腕の動きに従ってうねり始めた。


 ソフィア様がこの魔法をどう発動させているのかはっきりとわかる。

 同じ属性の魔力が大きい者同士は互いの魔力を感じるが、こんなことは聞いたことない。


 だとすると……。

 シオンとの魔力増加の練習、あれは他人のマナの流れを把握して干渉する暗黒魔法。

 私が闇の力の影響を受けているのは、ダミアンへの影の魔法が見えたことでわかった。


 同じ属性の魔力を感じる力に闇の力が加わって、ソフィア様の魔法の発動を私に感じさせ理解させている?


 ソフィア様は魔法を終えて、ゆっくりと水龍を池に戻した。


「今日は水が少ないので二つですが、大聖女ルシアは九つまで龍の頭を作り出せたそうです」

「ソフィア様も九ついけるんですか?」

「わたくしは七つまでです」


 離れた立木の茂みから女性の声が聞こえた。


「さすがだわ、わたくしは四つが限界なのに!」

「シッ!」

「イリス、静かに」


 あれ、誰かいる。

 一人はいじめっ子三人組のイリスということは……。



「じゃあ、今度はアンジェがやってみてください」


 池に向かって手をかかげて、さっきの感覚を再現していく。

 池から二本の水柱が立ち上がり、根元でつながり二つの頭の龍になった。


 やっぱり。同じ感覚を再現すれば、同じ魔法を発動できる。

 いわば、魔法のコピースキル! 


 だけど、セシリアやカリーナの魔法のとき、この感覚はなかった。

 相手はソフィア様並みの大きな魔力、聖女級の人でなければならないとすると……。

 使える機会がほとんどない。

 このスキル、ダメだわ……。


「すごいわ、たった一度見ただけでできるなんて!」


 ソフィア様に抱きつかれて、水の龍は落ちていくが、せっかくなので、さっき声がした木の茂みに突っ込ませた。


「キャー!!」


 そこから水でビショビショになった女生徒が三人飛び出してきた。

 やっぱり、カリーナ、グレース、イリスの意地悪三人組だ。


「まあ、そんなところでなにをなさってるの?」


 ソフィア様が驚いて声を掛けた。


「ちょっと、みんなで夕涼みなどしておりました」


 ビショ濡れのカリーナが答えるが、ソフィア様が私を教えるので様子を見てたんだろう。


 この場所で小石を顔にぶつけられたことを思い出し、イヤミな笑いを顔に浮かべる。


「あーら、ごめんなさい、ちょっとコントロールを失いましたの。わざとじゃありませんのよ。コントロールが上手くいかなかっただけですわ。魔法の練習中でしたの」


 へー、あの日のセリフが、一言一句そのままでスラスラ出てくるわ。

 悪役令嬢の演技修行の成果がしっかり身についているのかな。


 カリーナも思い出したのか、ムッとしたが私の隣にいるソフィア様を見て唇をかみしめているようだ。


「それは勉強熱心ですね。では、ごきげんよう」


 そう言ってズブぬれのまま、三人は足早に去って行った。

 彼女たちを見ながら心の中でつぶやく言葉はもちろん、ザマアミロ。



「この魔法は魔力量を計る目安になりますから、郊外の大きな湖で人がいない時間に練習するといいですわよ」


 郊外の湖で人のいない時間なら早朝かな?

 ちょっといいアイデアを思いついた。



 さっそく、学園から家に戻る馬車でシオンに相談した。


「早朝ピクニックですか?」

「い、いえ、人のいない朝早くに魔法の練習をして、終わったらお弁当食べて帰ったらいいかなって」

「それはいいですね。魔法の練習に適した湖を探しておきましょう」


 さっそく、頭の中でサンドイッチの中身を考え始めた。



 当日、早起きして作ったサンドイッチを入れたバスケットを抱えてシオンと通学用の馬車の御者席に並んで乗る。

 郊外へと向かって行くと田舎になっていき、道沿いの川には濁った水が勢いよく流れていた。


「昨夜は上流の方でかなり雨が降ったようですね」


 それでかな、雨上がりのすがすがしい風がほほをなでて気持がいい。

 なんてステキな朝だろう。


「姉さまー、おなかすいた-」


 あんたがいなければね、ちびアンジェ!


 サンドイッチを作っていたときにトイレに起きたちびアンジェに見つかり、一緒に行く! とだだをこねられた。


 やれやれ、せっかくのいい雰囲気が台無しだわ……。


 

 湖に着いて、ちびアンジェのためにまずは朝食とした。

 厚めの布のシートを広げて座り、バスケットを開けてきれいに並んでいるサンドイッチをお披露目して、さっそく食べ始める。


「とても、おいしいですよ、アンジェ様」


 フフ……。

 そう、この一言が聞きたかったの。

 ちびアンジェもお腹がすいたのかパクパクと食べている。


 たったこれだけのことだけど幸せを感じてしまう。

 普通に恋をして結婚して、子供ができて家族が増えて……。

 それで十分なのに、私はなんで魔法なんて勉強してるんだっけ?


『それは、アンジェに才能があるからです!』


 頭の中にソフィア様の顔が浮かんで声が響いた。

 思わず、シッシッと手で追い払ってしまった。


 

 食事も終わり魔法の練習を始めようとしたとき、シオンが空を見上げた。


「水辺で心配ですから、子守を呼びました」


 子犬ぐらいの白いドラゴンの姿でピピが降りてきた。


 へー、ピピはいつもシオンの上空にくっついてるのかしら。


「きゃー! かわいいー!」


 ちびアンジェは大喜びでピピと草むらで遊び始めた。



 広々とした水面の前に立つと、どれだけの水を操れるのか試してみたくなった。


「今日は強めでやってみて」


 右の手の平を水面にかかげ、後ろに立つシオンに頼んだ。

 シオンが手を置いた左肩にマナが流れ込んでいって戻ってくる。

 いつもより強く大きい流れが一瞬止まり、そして再び流れ出す。

 こういう感じのあとは魔力が急激に増える。


「舞い上がれ、九頭龍旋!」


 五つの青の魔方陣が湖面の上に現れて五本の水の柱が立ち昇った。

 うねりながら根元が一つにまとまって上空に浮かび上がる。

 肩からシオンの手が離れても、五つの頭の水龍を自由に動かせる。


 ソフィア様は七つ、二年生でトップと言われるイリスが四つできると言っていたが、私は五つまでできた。


 私の使える魔力は確実に大きくなっている。

  


 練習を終え、眠ったちびアンジェをだっこしながら馬車に乗る。


 まったく、この子はなにしに来たのやら……。


「この近くにハチミツで有名な村がありますが、行ってみましょうか?」


 湖のそばの見所を調べておくとは、さすが、シオンは気が利くわね。



 山に上っていく道を馬車で進んでいくと村が見えてくる。


 突然、ゴゴゴゴと大きな音が村のさらに向こうの方から響き、馬車を揺らすほどの地響きを感じた。


「今の音は土砂崩れですね。昨夜の雨のせいでしょうか」


 目的の村からは離れていそうなので、そのまま進んで村に入ったが雰囲気があわただしい。


”土砂崩れだ! 集落が飲み込まれた!”

”みんな、急げ、埋もれた人を掘り出すぞ!”


「これは、ハチミツどころではありませんね」


 スコップやクワを手に持って山の方に走る村人たちの姿をシオンと目で追いながら、ふと考える。


 雨による土砂崩れ。

 雨……、水。

 池から立ち上がる水の龍。


「私たちも行ってみましょう! 私の魔法が役に立つかも!」


 直感でしかなかったが思わず声が出ていた。

 シオンは少し驚いたようだったが、嬉しそうに力強くうなずいてくれた。


 行けるところまで馬車で行き、そこからはシオンがちびアンジェを抱っこして歩いて現場まで進んでいった。


 山の上から土砂というよりも泥が岩や木をまきこんで広い範囲を覆い、何軒もの家を押しつぶして埋もれさせているようだった。


 村人がスコップやクワで取り除こうとしているが、土が柔らかい泥になっていてうまく掘れない。


 やっぱりそうだ。

 土があれだけ水を含んでるなら水魔法で動かせるかも!



次回、「第22話 大魔法発動 ~えっ、私が聖女様⁉」に続く。

早朝の湖で魔法の練習を終えたアンジェとシオンは、山崩れで被害を受けた集落を訪れ、魔法の力で人命救助をしようとするのだが……。


ぜひ、評価、ブックマークよろしくお願いいたします。

今後の参考にさせていただきたいと思います。


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